《 period 2 - 2 》 薄汚れた密談
リダウト王国の城下町は、周囲をいつか見た基地と同じような高壁で覆われており……中に入るには、表の巨大な城門と兵士の監視を乗り越える必要がある。
現在は、戦時中ということもあり、出入りの際には厳しい審査を要する訳だが……当然、俺たちのような妖族側の存在が立ち入りを許される筈もない。見つかった途端、その場で拘束、もしくは殺されてしまってもおかしくはないだろう。
ならば、どうやって侵入したのか。
なに、難しいことではない。
ただ、城下町を覆い包む高壁を────悠々と『飛び越えた』だけだ。
つまり、幾ら城門を封鎖されれようが、俺たちはいつでも城下町から脱出することは出来る訳だが……。
「──『リダウト王』が失踪……!?」
「あの独裁者め……立場が危うくなって怖じ気付いたか……ッ!」
「──卑怯者ーーッ!! 国民から逃げんなーーッ!!」
兵士たちによって規制線が張られている場所には、大勢の野次馬が出来ており、何処にいるかも分からない『リダウト王』に対する罵詈雑言を喚き続けている。
「──探しているのは、俺たちじゃないのか?」
「みてぇだな。王国の兵士が主体となって、君主である『リダウト国王』を捕まえる為に、城下町の出入りを禁止したンだと」
イブキとロアには安全な場所で留守番してもらい、ルコシャルと共に外の様子を見に来てみれば……何やら、奇妙な事態が起きているようだ。
指名手配されているのは、ギーク・リダウト・クィンラン。
その名の通り────『リダウト現国王』その人だったのだから。
「何で、国王様が自国の兵士に追われているんだ?」
「前にも話したけどよ。今のリダウト王は、国民に圧政に強いている独裁者だ。それに不満を抱いた民衆が暴動を起こしたと考えても、何らおかしいことは無ぇだろ」
これは民衆の暴動というよりは……内部分裂、王国内で謀反が起きたというような気もするが……。
少なくとも、今もこうして野次馬として群がっている民衆に、わざわざ暴動や革命を起こすだけの気力は無さそうだ。
そんなことを考えていると、俺の隣に立っていた老人が、酷くくたびれたような口調でこう呟いた。
「────本当に、息苦しい町になってしまいましたねぇ」
「ん?」
「あれ、ジィさん……昨日の?」
「昨日はどうもお世話になりました。お陰様で命拾いしましたよ」
「別に。お礼を言われる筋合いは無ぇよ」
ルコシャルがアッサリとそう突っぱねると、老人は少し苦笑いを浮かべる。
それから、「ありがとう」と短いお礼と共にもう一度頭を下げると、ブツブツとこんなことを呟きながら、その場から早々に立ち去っていった。
「──ギーク・リダウト・クィンラン様。あのお方が王位に即位してから圧政が始まり、この地は大きく変わった……はてさて、これからリダウト王国は、どうなってしまうのやら……」
ルコシャルの言った通り、この地にいる民衆の誰もが、リダウト王とその圧政に強い不安を覚えているようだ。
こんな状況……『あの男』なら野放しにする筈が無いのだが……。
その時。
頭の中でそんなことを考えていた俺は、反射的に隣に立つルコシャルへと、小声でこう言葉を飛ばす。
「──ルコシャル、『なにもするなよ』?」
「あン?」
そこへ。
背後で、砂利を踏み締める音が小さく響くと……俺の背後に『何者』かが立ち、こう囁き掛けてきた。
「────動くな」
どうやら……背中に刃物を突き付けられてしまったようだ。
実のところ、背中を刺されても刃物の方が折れるだけなので、脅しにもなっていないのだが……ここは、敢えて無言を貫く。
敏感に俺の意図に気付いてくれたのか、ルコシャルも余計に声を挙げるようなことはしなかった。
「そちらの女共々、付いてきて貰おうか」
「ぃッ、てぇなッ……もっと丁重に扱いやがれっての」
すると、ルコシャルの背後にも別の人物が現れて、彼女の両腕を後ろに捻り上げて拘束。それもまた、ルコシャルは反抗もせずに拘束されていたが……あまり無闇に刺激を与えるのは辞めて貰いたい。
彼女を苛つかせるのは、アジュラに怒られるよりも面倒臭そうだし……。
そんな危惧を抱えてハラハラとしながらも、二人して路地裏の奥へと連れ込まれる。人の気配は微塵にも無く、人の手が行き届いていないのか、全体的に薄汚れた通路。
その先に……。
複数人の取り巻きに守られ、ボロボロな木箱の上に腰掛ける、一人の金髪の男が居た。
「────お前が、『妖族の代闘者』か」
取り巻きを含めると、その中で最も若く、最も体格も小さい。薄汚れたマントの下には、貧民とは思えない高級な服を着ているようだが……その姿は、まるで虎の威を借る狐。鎧を纏った取り巻きと比べると、威厳も迫力もない、ただの青年のように見えてしまう。
威厳だけ見れば、あのミオと一緒にいるガウス様の方が勝っているのではないだろうか。
「そっちは?」
「我が名は────ギーク・リダウト・クィンラン。この王国を統べる『リダウト王』とは、この我のことだ」
「──はぁ? おいおい、こんなヤツが『リダウト王』かよ……?」
まさか……こんな薄汚れた場所で、事態の中心人物と遭遇することになるとは……。
こちらの微妙な心情を傍目に、リダウト王は、俺に対してこのような『提案』を口にするのだった。
「──手を貸してやる。光栄に思え、妖族の代闘者よ」
「いきなり、何の話だ?」
「『人族の代闘者』……奴の存在は、お前や、妖族にとっても邪魔である筈だ。故に、この王たる我が手を貸してやる。そして、その力で────あの人族の代闘者を始末してみせろ」
「あぁン……?」
なるほど。
確かに……このリダウト王の言う通り、代闘者という立場からすれば『オーム』の存在は、脅威以外の何者でもない。
それを排除する為に、人族の協力を得られるのはかなり心強いと言えるだろう。
ならば、俺が代闘者として出すべき答えは一つだけだ。
「────断る」
提案されてから一秒足らずに、その言葉をバッサリと切り捨てるのだった。
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