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 ベッド争奪戦


 そこは、城下町の一角にある宿屋の一室。


 戦時中ということもあり、宿屋の需要は限りなく低い。その為、とても格安となっている宿泊費をマスターの厚意で出して貰い、城下町で滞在する期間の活動拠点として利用することにしたのだ。


 いつものボロボロな自宅とは大きく異なり、綺麗な内装が整った宿泊部屋にて……イブキが、神妙な面持ちで唐突にこう切り出した。



「──さて、皆さん。今、ワレらはとてつもなく由々しき問題に直面しています」



「……(ごくりっ)」


 彼女の前には、固唾を飲んで言葉を待つルコシャルと、無言で呆れた表情を浮かべる俺。


 何やら、重苦しい空気が漂っている中、イブキはまるで怪談を語るような口振りで、その問題とやらを提示する。



「──この部屋にはベッドが二つ……この場にいる人数は三人……そう、これは即ちっ────ベッドに眠れない人物が一人出てきてしまうということだよっ!」



「なっ、なンだってーーーッ!!?」

「──じゃあ。俺、外で寝てるわ」


 はい、どうやらこれで解決のようです。


 俺がさっさと部屋から出ていこうとすると、後ろから、何故か怒った様子のイブキとルコシャルが掴み掛かってきた。


「──まてまてまてまてまてぇぇぇいっ! それだと話が終わっちゃうよぉっ!」

「そうだぞっ! 空気読めねぇヤツだな英雄っ!」

「いや、別に終わっちゃっていいでしょ、その話。そもそも、男と女だったら別々に部屋を取るのが普通だろ。折角マスターがお金出してくれるって話だったのに、どうして一部屋だけで済ませたわけ?」

「男と女の間違いが起こったらそれはそれで面白いからでしょぉぉぉっ!!」

「だよなぁぁぁっ!!」

「色事に対しておおらか過ぎん?」


 元々悪ふざけが過ぎていたイブキだったが、そこへルコシャルという燃料が投下されたことで、更にギアが上がっている様子。


 この二人……意外に波長が合っているのだろうか、悪い意味で。


「いやぁ。思いの外話が合うねぇ、ルコシャルぅ。最初は吠えているだけの不良かと思っていたよぉ」

「そういうお前も、ただ大人しいだけかと思いきや、悪鬼らしいところあンじゃねぇか。その悪辣ぶりはあの母親譲りってか?」

「ふふっ。やだなぁ、冗談にしても言っていいことと言っちゃ駄目なことがあるからねぇ────引っこ抜いちゃうよぉ、そのよく回る長い舌」

「面倒事があれば全部力業で解決するような脳筋が、冗談を頭で区別することが出来るもんなんだなぁ────お前の言うこの長ぁい舌で、イカせてやろうか?」

「────はぁん?」

「────あぁン?」


 あれ?


 なに、この空気?


 これまで一度も話したことが無いと言っていたのに、まるで因縁深さを感じさせる様子で、バチバチと火花を散らし始めていた。


「お前ら……仲が良いのか悪いのか、ハッキリして貰えない?」

「──だってこの人がっ!!」

「──だってこいつがっ!!」

「はぁ……まぁ、ともかく。滞在するのは今日一日だけなんだから、誰が何処で寝ようがどうでもいいだろ」


 そう断ってからもう一度外へ出ていこうとするも、懲りずに、イブキが俺の服を引っ張りながら、衝撃的な提案を口にする。


「まぁたそうやって自分だけ貧乏くじ引こうとするんだからぁ! ベッドが二つしかないなら、くっつけて、三人で川の字になって寝ればいいじゃないのぉ!」

「………………いや、それは駄目だろ」

「つーか、一人仲間外れになるって言い始めたのはお前だろ、鬼ぃ?」

「そもそもあなたが割り込んで来たから話がややこしくなっているんでしょぉがぁぁっ!」


 このままでは埒が明かない。


 そう判断した俺は、イブキとルコシャルの襟首を鷲掴みにして、ベッドの上に二人を放り投げた。


 何だろう、この既視感は……?


 いつもは自宅から追い出す為にやっているのに、次は中に留める為にやることになるとは……。


「──もういいから、二人はベッドで寝ろっ」

「わぶっ!? 英雄っ、てンめ……っ」

「きゃふっ!? だぁから英雄さんはさぁ……っ!」

「分かった分かった。外には出ずに、中で寝るから。それで勘弁してください」


 それからも、特にイブキは何故か抗議の声を上げ続けていたが……最終的には、女子二人がベッドを使い、俺は毛布にくるまって壁を背にして眠ることに。


 遺恨の魔女、人族の代闘者、そして俺の所在がバレたこと……。


 これ以上、不穏な空気が流れているリダウト王国に関わるのは良くないと判断した俺たちは、なるべく早い段階でこの地から去ることに決めた。


 早くても、明日の朝にでも……。

 

 





─※─※─※─※─※─※─※─※─







 人族の代闘者とリダウト王国の兵士の追手を振り切り、魔女が逃げ込んだのは……『魔女の隠れ家』。


 【魔術】により生成された空間であり、魔女と、彼女が一緒に連れた者しか入ることが出来ない『魔術的異空間』だ。


 魔術の心得がある者ならば、外から無理矢理こじ開けることは出来るかも知れないが……少なくとも、今、リダウト王国には【魔術】を扱える者は他に居ないことを、魔女はよく知っている。


 そんな魔女にとっては絶好の隠れ家で、彼女はそこで身を隠していた『別の人物』と、こんな会話を交わしていた。



「────『妖族の代闘者』が、リダウト王国に来ている」



 それを聞いたもう一人の少女は、驚愕した様子で声を漏らす。


「──っ!? そ、そんな、まさか…………見間違い、ということは……?」

「前に、『ヒュマニズム基地』で見た。服装を幾ら変えても、見間違える筈がない」

「よりにもよって、『オーム様』があんな状況な時に……」

「……何にせよ、このまま手をこまねいている訳にはいかないわ」

「どうするおつもりですか……?」


 隠れ家に、深刻な空気が流れる。


 今、魔女は人族の代闘者と『敵対関係』にある身だ。そんな状況下で、他所の代闘者が首を突っ込んできたら……いよいよ、事態は混沌を極めることだろう。


 しかし、実力行使で簡単に追い出せるような相手ではないことは、よく分かっている。


 だとしたら、代闘者とマトモに戦うことなく、こちらが優位に立つことが出来る方法といえば……。


「妖族の代闘者が居るということは……あの妖族の『鬼』もいる筈────手を出すとしたら、『そいつ』しかないわね」


 まだ希望を捨てるには早い────どうやら、標的は定まったようだ。

 






─※─※─※─※─※─※─※─※─※─







 ──時刻は朝方。


 脚に重みを感じて、ふと目を覚ますと……。


 何故か、俺の膝を枕にして眠るイブキの姿があった。


 更に、俺から少し離れた場所で、毛布にくるまって床に寝そべって寝息を立てているのは、ルコシャル。


「すぅ、すぅ……」

「ん……っ」


 なるほど……。


 イブキもルコシャルも、最後の最後まで俺を差し置いてベッドを使うことは不服な様子だった。だから、無理矢理自分を納得させる為に、二人揃って床で眠ることにしたというわけだろうか……なるほど……。


「…………誰か、ベッド使おうよ……」


 目の前に静かに佇むベッドに、妙な悲壮感が漂っているのを感じてしまう。


 しかし、結局最後は全員揃って床で寝るとは……この場にいる誰もかれも、我が強いというか、エゴイストというか……。


 そんなことをボンヤリと考えていた、その時だ。



 ────ドタドタドタッ!



 何やら騒がしい足音が、こちらへと近付いて来ているのを耳にする。


 ひとまず警戒心を強めて、その足音の行く先を窺っていると……いきなり、バタンッと入り口の扉を開け放って、私服姿のロアが中に飛び込んできた。


「────イブキちゃんっ!!」

「おっ」

「──ふぁっ!?」


 その切羽詰まった呼び声に、イブキが妙な声を漏らしながら跳ね起きる。


 しかし、誰よりも速く……。


 入ってきたロアの喉元に、槍の切っ先を突き付けて脅し立てたのは、ルコシャルだった。


「──動くンじゃねぇ、手ぇ挙げろ。さもないと即殺す」

「──ひぃぃッ!!?」


 ロアは一瞬で顔を真っ青に染めてから、跳び跳ねるように両手を上に掲げて降参のポーズ。


 ルコシャルは相変わらず迅速な動きだが……二人の慌ただしいやり取りを眺めていた俺は、溜め息混じりにルコシャルを宥める。


「落ち着け、敵じゃないぞ」

「ア? 誰だっけ、こいつ?」

「昨日イブキ迎えに行った時に会ったばかりだろ」

「……あぁ~。あの喫茶店のウェイトレスか」

「はひぃぃ……」

「ロアぁ……? どしたのぉ、こんな朝っぱらからぁ……?」


 未だ寝ぼけた表情で目元を擦りながら上体を起こすイブキ。


 そんな彼女を見下ろしながら、ロアは酷く疲労困憊した様子で、こう言うのだった。



「た、大変なんだよ、イブキちゃんッ────城下町が、封鎖されちゃっている……ッ!!」











この作品に目を通して頂き、ありがとうございます!


もしも、少しでもこの作品が「面白かった」「続きが気になる」と思われましたら、


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ちなみに、「寝ている間に何があったんだ」、と良くも悪くも気になってしまった方々、


皆さん、それ、めっちゃ鋭いかも知れません。



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