英雄、即バレしました
ジーンズに、ワイシャツとジャケット……どこか懐かしみを感じる、人族特有の服装に身を包み、俺は一人で城下町へと繰り出す。
積もる話も沢山あるであろうイブキはシャッド・セルヴに残り、いつかのガウス様と待ち合わせしているというミオは早々に退散していった。
一人で出歩くのは良くないのではないかと、イブキとマスターに心配されたが……まぁ、正体を悟られないように人混みに紛れていれば問題はないだろう。前世でも、何度もそうやって逃亡や侵入を図ってきたのだから……と、たかをくくっていたのだが……。
「────あっ、どこぞの『英雄』だ」
オーマイガッ。
俺の目の前に立ち、こちらを真っ直ぐに指差しながら言ってきたのは……一人の見覚えのある、翠眼の少女。
デニムパンツにロング丈のカーディガンと、流行の最先端をいくような服装。棒付きキャンディーを口に咥えているのは……人族に扮した格好の、ルコシャルだったのだ。
「なにしてンだよ、こんなところで。妖族の代闘者が……」
「──!」
「むぐぅっ!?」
危うく正体をバラされそうになるのを、慌ててルコシャルの口を手のひらで塞いで防ぐ。
危ない危ない……そう安心したのも束の間。
彼女は俺の手をソッと外し、潤んだ瞳を見せつけながら震えた声色でこう呟いてきた。
「やだぁ、そんな乱暴されたら……ルコ、こわぁい……」
「ぅおい。辞めろ、その言い方」
すると、ルコシャルの声に気付いた通行人の視線が、次々とこちらへと降り注いでくる。
待てよ……?
年頃の少女の口を塞ぐ → 少女が潤んだ瞳を浮かべながら声を漏らす → 口を塞いでいるの、俺 → これ、完全に俺がヤベェ奴って思われるじゃん!
事態の深刻さに気付いた俺は、ルコシャルの手を引っ張って早足で路地へと『連れ込んだ』。いいえ、決して疚しい思いがあるわけではありません、戦略的撤退です。
「はっはぁん、なるほどなぁ?」
「何を納得しているんで……?」
「いやいや、みなまで言うなって。このあたしに一目惚れしてここまで追ってきちゃったンだろ? ンだよ、英雄のくせして案外可愛いところあンじゃねぇか」
「……そういうお前は何で『人域』にいるんだ?」
「チッ。スルーかよ、つまんねぇヤツだな。別に、てめぇには関係ねぇだろ」
どうやら、自身のことを話すつもりは無いらしい。
キャンディーを咥え直して、その場から立ち去ろうとしたルコシャルだったが……唐突に立ち止まり、「待てよ……」と何かを考えるように呟く。
すると、素早く俺の方へ向き直ってから、こんなことを提案してきた。
「──なぁ、英雄。おまえさぁ、その様子じゃこの王国に来るの初めてなンだろ? あたしが色々と案内してやっか?」
「どうした、唐突に?」
「ここで英雄に媚び売っとけば、後々役に立つかもしンねぇだろ?」
「清々しい程に、下心丸出しだな」
「嫌なら好きにすりゃいいだろ。それともまさか、英雄ともあろうモンがこんなか弱い女のお誘いにビビっちまってンじゃねぇだろうな? オイオイっ、それでも(自主規制)生えてンのかよ?」
「ぅおい、辞めろ、色々な意味で」
恥かしげもなくなんてことを言うんだ、この小娘は……。
面と向かってここまでハッキリと物事を言ってくるルコシャルに、色々な意味で圧倒されながらも……俺は少しだけ考えてから、小さく頷いてみせる。
「そうだな。ここは一つ、その見え透いた挑発に乗ってみるか。実際、土地勘のあるヤツに案内してもらうに越したことはないからな」
「ふぅん……ンじゃあ、決まりだ。遅れないように付いてこいよ、英雄」
果たして、どうなることやら……。
そんな一際いい加減さが目立つルコシャルとの、リダウト王国の散策が始まるのだった。
─※─※─※─※─※─※─※─※─
人族において物の売買の際には、『デクス通貨』という貨幣を使う。
かつては世界共通通貨として、全世界で、全種族が、取引や商品売買の際に使用していたらしい。種族間戦争が激化した時代からは種族間で殆ど流通しなくなり、種族によっては利用価値が無くなったという場合もある。
妖族もその内の一つであり、倉庫で埃を被っていた通貨を許可を貰った上で拝借し、城下町での買い物に使っているという訳だ。
「──めっちゃ色々な屋台があるな(もぐもぐ)」
「かつては『世界の中枢』とまで呼ばれた王国だしな。特に料理だけ見りゃあこの大通りを歩くだけで、全世界のグルメを堪能出来る、って言っても過言じゃねぇ」
「この色鮮やかな屋台群も、リダウト王国の伝統ってわけか(もぐもぐ)」
「そういうこったな…………てか、めっちゃ食うじゃねぇかよ、胃袋どうなってンだお前……?」
「美味いもの受け入れる為なら胃袋に限界はない(もぐもぐ)」
「──って一人で食うなっ! あたしにもよこせぇっ!」
そんなやり取りを交わしながら、城下町の大通りを進む。
リダウト王国は、妖域と比べて格段に人通りが多い。
文明的に進んでいると言うべきなのか、目新しい建造物、多彩な服装、立ち並ぶ屋台で提供される食材や装飾品、特には料理等に思わず目移りしてしまう。
あっちからもこっちからも美味しそうな匂いが……あぁ、食欲と腹の虫が止まらない……。
ただ、これだけ大勢の人々が行き交っているにも関わらず……。
────誰もが、等しく目が死んでいる。
代闘者による停戦宣言が成されたとはいえども、世界は未だ戦時中だ。普通ならば、多種族との戦争に備えて、身も心も身構えていなければおかしい。
しかし、彼らからは、そんな気配は微塵にも感じられなかった。
「連中にとっちゃ、それどころじゃねぇンだろ」
「と、言うと?」
「ここの国民は、リダウト王家からキッツい圧政を強いられてンだよ。バカ高ぇ税金、強制徴兵、補償無しの王政改革……外側からの侵攻なんかよりも、内側からの圧力で崩れ始めている、って感じだな」
「王政、か……どこの世界でも、政治と民衆は噛み合わないモノなんだな」
「だが、国民はどいつもこいつも他人事だ。王家の耳が届かない所でグチグチと陰口を叩くばかりで、あからさまな圧政に対して積極的に抗議の声を上げることも無ぇ。文句があるなら、宮殿に乗り込んで怒鳴り散らしてみろってンだよ」
「なるほど。虐げる者も、虐げられる者も、どっちにも非があるってわけか」
「あぁ。例えば……『ああいうの』、とかな」
「うん?」
大通りを歩いている最中、チラリと、ルコシャルが向けた視線を追ってみる。
するとそこには、幼い女の子と腰の曲がった老人を相手に、容赦なく脅し立てる甲冑姿の人物たちの姿があった。
あれは、もしや……リダウト王家の兵隊、だったりするのだろうか。
「お、おぉ……どうか、見逃して下され……こんな小さい子供のしたことではありませんか……」
「……」
「ご老人、これは謝罪一つで済まされる話ではない。そこのガキは、我らが君主……『リダウト王』をコケにした────よってその行為は、万死に値する」
なんと、戦う手段すら持っていない老人と幼女を相手に、兵士はいきなり手にした剣を躊躇なく振り上げたのだ。
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波乱、続きます。




