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 世界の中心でこそ混沌は芽吹く



 広大な城下町を見下ろすように、一つの人影が、足場もない上空で浮遊している。


 唾の広いとんがり帽子、たなびく黒いローブに、顔面を覆い隠す白い仮面。


 その人物は、自身の周囲に結晶を生成する程の冷気を纏いながら、強い感情を滲み出すように呟いた。



「『人族の代闘者』……あんただけは、絶対に────私の手で殺してやる」



 仮面の下でギョロッと動いた瞳が、城下町の『何か』を捉える。


 すると、彼女は宙で態勢を前のめりにして……ジェット機のような勢いで、そこへ飛翔するのだった。


 憎悪の権化は────『異世界の英雄』に照準を定める。


 彼女の度を越えた憎しみは、如何にして晴らすべきなのか……それを知る者は、誰もいない。







─※─※─※─※─※─※─※─※─







 妖族の領域から、広大な草原や山岳地帯を越えて、約千キロメートル。


 そこは、レンガ造りの建物がひしめき合う、『人域』最大の中枢都市────『リダウト王国』。


 その名の通り、『リダウト王家』の居城、『ログマリット宮殿』の周囲に広がる都市であり、かつては『世界の中枢』として栄えていた場所だ。


(──リダウト王の表明を聞いたか? また税を引き上げるってよ)

(また……っ!? 勘弁してよ……これ以上お金を持っていかれたら生活出来なくなっちゃうじゃない……)

(おいッ、大変だッ! 隣の通りにまた『遺恨いこん魔女まじょ』が出たらしいぞッ!?)

(『リダウト王家』、『異端協会いたんきょうかい』まで……外に逃げりゃぁ、いつ『他の種族』に襲われるかも分からねぇし……)

(もう、イヤ……なんで、私たちがこんな目に遭わないといけないのよ……)


 伝承によれば、『大いなる意志』と呼ばれる『三神』の集った場所とも伝われており……六種族が一堂に会した、『種族会議ヴァーレス』の開催地になったこともある、歴史的な都市。

 世界各国から多種多様な文化を取り入れ、順調に世界の中枢として発展していったが……。



 その地には最早────かつての平穏は、何処にも残っていなかった。



「──ハッ、ハッ……!」


 多くの人々が行き交う大通りで、顔を青ざめさせた少女が息を切らして走っていた。しかし、人々はそれを一瞥するだけで、誰も目もくれようとしない。


 暴動やリンチ、人拐いや人殺し……この地では、日常的に起こる事態に過ぎなかった。


 もう見慣れた光景だと、巻き込まれたくないと……だから、彼らは誰一人として少女を助け出そうとはしない。


(もしかして、最近頻発している人拐い……?)

(可哀想に……だけど、別に俺たちは関係ないし……)

(あぁもう……頼むから、早いところ何処かへ行ってくれよ、面倒事に巻き込むな……)

 

 必死に助けを求めたところでどうにもならない……それを理解していたエプロン姿の少女は、肺が押し潰れそうになりながらも逃げ続ける。


 少女はここ最近、『怪しい連中』にずっと付け回されていた。


 最初は気のせいだと思っていたが……今日この日、一人で買い出しに出掛けた時に、背後から怪しげな風貌の人たちが迫っていることに辛うじて気付いたのだ。


 恐怖心に駆られて走り続ける少女は、見通しの悪い路地裏へと飛び込むが……。


「ハーッ、ハーッ……よし、こっちの路地裏なら蒔けッ────ひぃ……ッ!?」


 まるで、瞬間移動でもしてきたかのように。


 路地裏の奥には既に、フードを深く被った二人組の人物が立っていたのだ。


 少女は竦み上がり、その場で立ち尽くす。


 そんな彼女を前に、先頭に立っていた人物がゆっくりと歩み寄り、顔を覆い隠していたフードをめくり上げると……。



「────ロアぁぁぁぁっ!! 久し振りぃぃぃぃっ!!」



 フードの下から出てきた、角の生えた鬼娘が、満面の笑みで少女に抱き付いた。


 少女は驚いた様子で目を見張るも、直ぐにその鬼娘の素性を察知する。


「──はっ、えっ……イっ、イブキちゃんっ!?」

「何も連絡しないでごめんねぇ、ロア。ワレは、元気にやっているよ。今日はそれを伝えに来たんだぁ」


 優しい口調で、穏やかな笑みを見せる鬼娘のイブキ。


 それを目にした少女は、途端に緊張が解れたかのように、瞳に涙を浮かべて彼女にしがみついた。


「──ふぇぇんっ、怖かったよぉぉ……っ! イブキちゃんのばぁかぁぁ……っ!」

「ありぇっ!? ロアっ、どうしたのぉっ!? 誰が泣かせたのぉっ!?」

「いや、完全に俺らのせいだろ……」


 イブキと少女の様子を呆れた表情で見ていたもう一人の人物は、溜め息混じりに肩を落とすと、「早くここから離れるぞ」と言って二人を先導する。


 結局その日は、不幸な者は一人も出なかった。


 しかし、『奴ら』は決して獲物を逃したりはしない────特に、それが『外からやってきた者』だとするならば、尚更だ。










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