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 超人的鍛練 ✕ 形見 ✕ 気合い一発!





 密着取材二日目。


 何故でしょう……昨日の、お昼頃からの記憶が残っていません。


 気付いた時には、私は英雄様の自宅で眠っており、既に一日過ぎていたことを知らされました。朧気に見た朧気な夢の中で、三途の川らしいモノを渡るところだったと話すと……イブキさんは、「渡らなくて良かったねぇ」と笑いながら、眠気覚ましのお茶とお団子を提供してくれます。


 お団子に関してはイブキさんの手作りらしいのですが……それがまぁ、美味しいのなんのって! 一口食べる度に、ほっぺたが零れ落ちそうです。


 いいですねぇ。和風な縁側に座り、自然の景色をバックに、穏やかな日差しを受けながら、のんびりと甘味を堪能する……これ、最高ぉ~。


「『あんな目』に遭わされていたのに、案外ピンピンしているな、お前……?」


 そう呟くのは、巨岩を片手で担いで鍛練に勤しむ英雄様です。


 『あんな目』……とは、一体どういうことなのでしょうか。ホコロビの里で気を失った瞬間、一体何が起こったというのでしょうか。


「世の中、思い出さなくていいこともあると思うよぉ」

「こんなご時世に『冒険家』なんて名乗っているだけのことはあるわけだ。悪運の強さは一級品だな」


 なんと……っ!


 英雄様からお褒めの言葉を頂きましたっ……なんたる光栄っ! この胸の高鳴り……これから一週間は何も食べずに生きていけそうですっ!


 「何でだよ……」と呆れた声を漏らす英雄様は、再び巨岩を振り回し始めました。


 すごい……この時点で、人間業ではありません。


 原始的な鍛練だとしても、代闘者の持つ異次元の力が露見されているようです。


 あんな、人の身体よりも大きい岩……私では、両手で持ち上げようとしても、ほんの僅かにも動かせない自信があります。


「冒険家なら、少しは身体鍛えた方がいいんじゃないか? こんなことしなくても、腕立てとか、腹筋とか、そういうのを繰り返すだけでもだいぶ鍛えられると思う」


 なるほど……重要なのは、継続力ということですね。


 例えば、腕立てやろうとしても、自分の身体すら支えられない位に貧弱な力でも、将来は見込めるのでしょうか。


 それ以外に、私が出来ることと言えば……領域から領域へ向かって歩く時に、不眠不休で、何日でも歩き続けられること位です。その程度のことでは、強くなるのも夢のまた夢かも知れませんね……。


「──それ、もうだいぶブッ飛んでいるからね。というか、無理に別のとこ伸ばす必要ないと思う。現状維持でいこう。それで充分だよ、うん」

「体力お化けだな……」

「ん~……折角だし、ワレも鍛練やろっかなぁ」

「お前が?」

「うんっ! 実は母上がよく使っていた武器があるんだけど、上手く扱えなくてさぁ」


 そう言って、広場に飛び出したイブキさんは、手を前にかざしました。すると、イブキさんの手中に、巨大な『金棒』が出現したのです。


 彼女の身体と同じ位はある大きさ。菱形の棘が表面にビッシリと付けられており……あれで殴られたら、メチャクチャ痛そうだってことが、一目見ただけで理解出来ます。


 ただ、『鬼』のイブキさんであっても相当重いのか、彼女は全身をプルプルと震わせながら、やっとの思いでそれを地面に降ろしていました。


 我慢するイブキさんもカワイイ。


「──んにゅにゅにゅぅ~……っ! ぷはぁぁっ……ひぃぃ~、おっっもいよぉぉ……っ!」

「お前でも無理なのか? 『金棒』って、いかにも『鬼』らしい武器というか……俺にも、ちょっと持たせてもらってもいいか?」

「はひぃっ、うんっ、いいよぉ、はぁ~……」


 ただ降ろしただけで疲弊した様子のイブキさんが、その柄の部分を英雄様に差し出しました。


 英雄様はそれを片手で受け取ると────一息で、回転させるように持ち上げ、まるで木の枝を扱うように何度か振り回します。


 すっげぇ……。


「──ほー。あれだな、めっっっちゃ重いな、コレ」

「そんなに軽々と持っておいてぇ?」

「少なくとも、この岩よりも遥かに重いぞ。何で出来ているんだ、この金属?」

「分かんない。母上が昔から使っているって話だったけれどぉ」

「そうか。だけど、こいつを使えば……ちょっと、離れててくれるか?」

「えっ? う、うん」


 イブキさんに下がってもらった英雄様は、金棒を手に、先程まで散々振り回していた巨岩の前に立ちました。


 そこで金棒を両手で握り、大きく振りかぶってから……思い切りフルスイング。視界から消える程の速度で、金棒が宙を走り、巨岩に勢いよく衝突すると……。



 突風と誤解する程の衝撃と共に────跡形もなく、粉砕した。



「え……」


 ────えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!?


 殴り飛ばした、という訳ではありません。


 まるで地面を抉り削るように、木っ端微塵にバラバラにしてしまったのです。


 これはつまり……金棒の強度と重量が、巨岩を大きく上回ってしまった、ということなのでしょう。そして、何よりも恐ろしいのは……そんな代物を生身の身体で振り回す英雄様の異常な腕力……。


 もし、英雄様ほどの腕力で、あんなモノを思いっきり地面に叩き付けてしまったら……最悪、ここら一帯を呑み込む程の地割れが起きてしまうかも知れません……ガタガタ……。


 そんな私の恐怖心を傍目に、英雄様はその金棒を軽々と上に放りながら、このような発言を繰り出したのです。


「これ、さ────妖力を込めれば『もっと重くなる』みたいだな」


 ────ッッ!?!?!!!?!?


 今、あっけらかんと……世界をも滅亡させかねない衝撃的な事実を口にしませんでした……?

 

「えっ、そうなの? それ、もっと重くなるの? だったら、いよいよワレじゃ扱えない気が…………うぅん……英雄さん、もし良かったら貰っちゃってよ」

「俺が?」

「うん。ちゃんと使える人が使うべきだろうし、そうした方が母上も嬉しいと思うからさぁ」

「──これ、母親の使っていた大切な形見なんだろ?」

「ん……それは、そうだけど……」

「妖力の影響を受けやすいって点から考えれば、扱い方は色々あると思う。なら、諦めるのはまだ早い。俺も、その方法を考えてみるから」

「──! うん……ありがとぉ、英雄さん」

「でも、時々貸して貰ってもいいか? 普通に鍛練するより格段に負荷が違うから、もっと効率よく鍛えられそうな気がする」

「勿論だよぉ。英雄さんの役に立つなら、母上も喜ぶよぉ。その代わりぃ、これの使い方について、これからは色々と相談に乗ってねぇ?」

「役に、立てればいいけどな」

「あやぁ? 言い出しっぺさんには、役に立って貰わないと困るなぁ、ふふっ」

「……むぅ」


 ────いーい話ですねぇ……私、感動して少し涙が出てきてしまいました……グスッ。それに、英雄様とイブキさんの仲睦まじさが全面に現れ出ていて……くぅぅぅっ、御馳走様ですっ!!


 あれ……さっきまで、何に怯えていたんでしたっけ……?


「途中から居ること忘れてた……」

「存在感抜群なのに……影に徹するの上手いのな、お前……」


 いえいえいえいえっ!


 私のことなど道端の小石だと思って貰って結構ですからっ! 私は、皆さんという主役の方々の絡み合いを見るのが至高の幸せなのでっ!


 はぁぁぁん~、記録が捗るぅぅぅ~ッ!!


「あー、そう、ですか……」

「あはは……」


 強いて言うならば、その金棒……私も持ってみてもいいでしょうか?


 やはり、どれだけ重いのか、どれだけ頑丈なのか、実際に触って確かめてみたいのです。もちろん、自分程度の弱小筋力で持てるかもだなんて、思い上がっているつもりではありませんから。


「そんな謙遜しなくてもぉ」

「イブキ、いいか?」

「いいよいいよぉ。だけど、すぅぅぅっごく重いから。気を付けてねぇ。うっかり足とかに落としたら、確実に粉砕するからねぇ」


 イブキさんから念入りに注意を受けてから、英雄様が地面に置いた金棒の前に立ちます。


 前屈みになって柄を握り、一度力を入れて引こうとしますが……ほんの少し動かすことすら出来ません。


 なかなか、予想を遥かに越える難敵です。


 ここは一発気合いを入れて、私自身の限界を越えてみるとしましょう…………ッッッッセッィィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!!


 と、その時でした。


 私の腰辺りで一発────ボキィッ、と鈍い音が鳴り響いたのです…………………………ァ゛ッ……………………。


「あ……そっちだったか」

「冒険家さぁぁぁぁんッ!!?」










この作品に目を通して頂き、ありがとうございます!


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