買い出し模様 ✕ 得意料理 ✕ お嫁に下さい
密着取材、一日目。
熱心な取材交渉から明くる日。
私の熱意もようやく通じたのか……遂に、密着取材をさせて貰うことになりました。
やったぜ。
「いや、許可してないんですけど」
英雄様とイブキさんは、どうやら買い出しに向かわれる様子です。
イブキさんが言うには、以前まで、英雄様はしょっちゅう里の人々と共に糞合戦をしていたらしいのですが……そう言えば、初めてお会いした時も、英雄様は糞まみれでした。糞合戦、という文化は他の種族でも聞いたことがありませんが……妖族特有の遊戯なのでしょうか? それとも、英雄様の趣味なのでしょうか? いずれにせよ、とてもレベルが高い遊戯なのは間違いありません。
まぁ、私はやりませんけれど。
「イブキ……あいつに何を吹き込んだ?」
「にひひひっ」
買い出しの為に赴いたのは、妖域の入り口とも言える、往古盆地のホコロビの里。
話によると、往古盆地にはホコロビの里以外にも幾つかの集落があるみたいですが……商店とかが多く立ち並んでいるのは、この里特有みたいです。農産物や水産物を他の里から仕入れ、それらを調理加工してお客様に提供する。そういった流れがあるのは、まさにその名の通り、遥か昔から妖域の入り口として機能していた、という経緯があるかららしいです。
確かに、妖域を来訪したら美味しそうな物が沢山ある、なんて印象が残れば、また来たくなっちゃうかも知れませんね。
まぁ、今は停戦を宣言しているとはいえ、戦争の真っ最中。
外からの来訪者なんて当然見込めないので、取り越し苦労になっているのは間違いありません。
「お前、結構辛辣だな」
「あはは、言っていることは全部正しいんだけどねぇ。それで、英雄さん? 今晩は何が食べたい?」
「いや? 毎度毎度、別に頼んでいないんだが?」
「昨晩は魚の唐揚げだったから、次はサッパリとしたそうめんもいいかもねぇ。確か、みたらしのタレも少し残っていたし、具材が余ったらみたらし団子も出来るかなぁ」
「そうめん……みたらし団子……」
「むふふぅっ、目の色が変わったねぇ、英雄さん。まるで野獣みたいだよぉ? (ニヤニヤ)」
「ダレが野獣だ」
なるほどー。
いつもはイブキさんが食卓を用意しているんですね。今回は、その為の具材を調達する為の買い出しということですか。
お二人とも、あれですか────もしかして、熟年夫婦か何かですか?
二人肩を並べて歩いている姿が、もう完全に、それにしか見えなくなってきたんですけれど。
「ダレが夫婦だ、ダレが」
「そうなんです……実は、夜な夜な激しい調教を受けて、いつの間にか従わざるを得なくなってしまって……よよよ」
「ぅおい、鬼娘。話を余計にややこしくすんな」
まだまだお二人の道のりは険しいようですね。
これからの進展をお祈りしましょう。
「誤解から、更に拗れた話を、無駄に後押しすんのは辞めて貰えます?」
ところで、イブキさんはお料理が得意なんですね。
聞くところによると、色々なお料理が出来るようですが……実はレクサトルスには、各種族の領域でも、様々なお料理が作られているんです。世間的には、それらを分かりやすく『妖風』、『魔風』、というように呼んでいるのですが……。
ズバリ、イブキさんが一番得意とするお料理はなんですか?
「えっ? うぅん、そうだなぁ……これでも、結構色々作れるんだよねぇ。私が料理を教わった人のレパートリーが幅広かったから」
「母親からか?」
「うぅん、全然違う人だよ。だけど、そうだなぁ……どれが一番得意、っていうのはハッキリしないんだけどぉ。やっぱり────食べてくれる人が『美味しい』って言ってくる料理なら、私は何でも作ってあげたくなるかなぁ」
────ゴフゥゥッ!!
ま、眩し過ぎる……返ってきた答えが、私の許容範囲を遥かに越えて天使過ぎたので……胸の動悸がドえれぇことに……!
こんな、こんな理想的な答え……私、初めて聞きました……!
英雄様っ、この素敵なお嫁さんを私に下さい!
「落ち着け。動揺し過ぎて、言っていることがワケ分からなくなってんぞ」
「お嫁さんだなんてぇ、照れちゃいますなぁ」
イブキさんっ、是非とも私とお付き合いをっ!
私っ、男の人でも、女の人でも、どっちでもイケる口のでっ!
「ふふっ────イヤですっ」
────清々しいまでの、玉・砕!!
あぁ、これが『鬼』の異名を持つ妖族の誑かし方なのでしょうか。
危うく、イケない感情が芽生えてダークサイドに転落するところでした。
えぇ、大・満・足。
「何なんコレ……?」
「あははっ。表現が人一倍五月蝿いのに、相変わらず全然表情変わらないなんて、人形みたいだねぇ」
「イブキさん? なんか若干Sっ気滲み出てね……? 今更だけどさ……?」
ふむ、英雄様の言う通り……どうやらイブキさんには若干サディストな一面があるようです。
これは……『鬼』に関する情報として、ちゃんと書き記す必要がありますね。いえいえ、やましい気持ちなどある訳ではありません。決して、こう、イブキさんのことを隅々まで知り尽くして、英雄様との関係とか、その他諸々のことを、もっともっと深いところまで掘り起こしたい……なんて、イヤらしいことなんて考えていませんとも。
ぐへへへへへへへへへ……。
「────おい。今、聞き捨てならねぇ言葉が聞こえた気がすんだがぁ? 我らのお嬢を、どこの誰が貰うってぇ?」
はひぃ……?
バシッと、背後から力強く肩を叩かれ、恐る恐る後ろを振り返りました。
そこに立っていたのは、鬼の面を付けたスズヒコさん。餓鬼衆として、イブキさんへと並々ならぬ感情を抱く彼は、まさに鬼神の如く怒りを滲ませた様子で私を見下ろしています。
これ……私、もしや殺されるのでは?
冷や汗をダラダラと垂れ流しながら、慌てて英雄様の方へと助けを求めます。
「英雄さんっ、英雄さんっ! お酒買っていこうよっ! ほらっ、見て見てっ! 新製法で作った蒸留酒だってっ!」
「昨日も買っていただろ、お酒」
「全部飲んじゃったんだもぉんっ! 新しく補充しなきゃ今日の分が酒盛りが出来ないよぉっ!」
「あの量、全部飲んだのか……?」
────あらまぁ微笑ましいぃっ!!
二人揃って酒屋に気を取られて、もはやこちらのこと見てすらいないんですけどぉッ!?
英雄様っ!
どうかこちらも気に掛けて下さいませっ!
このままじゃ私、妖怪に殺され……………………ァ゛ッ……………………。
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