代闘者 ✕ ■■■・■■■■
これは……『反発』した?
【必殺】と【必勝】……刀と拳が衝突した、次の瞬間。
とてつもない衝撃が辺りに広がったと同時に、俺もミオも、その衝撃で互いに弾き飛ばされてしまった。
どちらが勝ち、どちらが負けたのか……分からない。
ただ、一気に体力を削られたのか強烈な疲労感と、身体を蝕むような『拒否反応』が、ずっと胸の奥で渦巻いている。
それは、目の前で唖然とした顔で呼吸を繰り返すミオも、同じようだ。
「はぁっ……はぁっ……」
その時、ピタッとミオと目が合う。
少しの間、互いに視線を合わせながら、少しずつ、少しずつ呼吸を整え……ゆっくりと、ゆっくりと上体を起こすと……。
「「────ッ!!」」
キッと、瞬間的に顔を強張らせ────再び、衝突。
そこから先は互いに、一歩も引かない、一歩も譲らない、刀と拳による『一撃必殺』の応酬だ。
岩石よりも硬く、風よりも速く、無数に迫り来る拳を……一瞬たりとも力を抜かず、自身の刀で相殺し続ける。
衝突の度に、地盤を削り飛ばす衝撃波。
頭の中で、幾度となく響き続ける警告音。
(──このまま続けるのは、マズイッ)
それは、本能的に理解していた。
だが、辞めない……いいや、辞められない。
ここで引いたら、確実に殺される。ここで負けたら、全てが台無しになる。ここで逃げたら、俺の存在する意味が無くなってしまう。
だから。
俺は、まるで呪われたように、無意識のうちにミオを追い込み続けるのだ。
コイツだけはッ、コイツだけは、コイツだけはコイツだけはコイツだけはコイツだけはコイツだけはコイツだけは……ッ!!
「──ここ……ッ!!」
「──!?」
そこで、ミオが動く。
刀と拳が衝突する寸前、彼女は拳の軌道をほんの少しだけ変え、刀の側面を殴り付けてきた。
その衝撃で、刀は木っ端微塵に粉砕。
攻撃手段を奪われた俺を見定め、ミオはより強く深く、拳を振り絞った。
「──ここまでですよ、エルマさま……ッ」
「──そう、かッ…………なら……」
瞬間的に、使い物にならなくなった刀の塚を放り投げつつ、俺は、拳を握り締める。
【具念】の力を全て出し切る勢いで、握り締める拳に、力を込めて、込めて、込めて、込めて込めて込めて込めて込めて、込め続ける。
刹那、バリィッと何かが破れるような音が、全身から響いた。
(────俺モロともぶっコワれろ、ミオ)
しかし、構わない。
迫り来る【必勝】の拳に、バリバリバリッと全身を蝕む音を鳴り響かせながらも……。
────渾身の一撃を、叩き込んだ。
その衝突は、これまでの比ではない。
頭の中ではけたたましい警告音が、世界では地盤を揺るがす大震動が巻き起こり……それが臨界点まで達した、次の瞬間。
「うォ……ッ!?」
「ぐぎ……ッ!?」
バリィンッと周囲の景色が一気に砕け散る。
同時に、俺とミオは、再び互いに勢いよく吹き飛ばされ……背後のせりあがった地盤に叩き付けられるのだった。
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
「──ミオッ!!」
いくら代闘者といえど、これ以上は戦えない。
そう察して誰よりも最初にミオの元へ駆け付けてきたのは、ガウスだった。
最後の一撃は相当の衝撃だったのだろう。倒れたまま苦しそうに呼吸をするミオの右腕は、黒ずんで、おかしな形にひしゃげていた。
「ガウス、さま……」
「い、生きているか……!? 生きているんだな……!?」
ミオの傍に寄り添ったガウスが、今にも泣きそうな声で呼び掛けると……彼に続いて駆け付けてきた魔王たちが、すかさず進軍の合図を飛ばした。
「よしッ、今なら妖族の代闘者も虫の息だッ! 一気に攻め込むぞッ!!」
それは、歴戦の魔王による英断だった。
エルマとミオの力量は互角。ミオがこれだけ消耗したということは、エルマもそれと同等か、それ以上の損傷を追っているはず……つまり、妖族を滅ぼすのは、今しかない、と。
そう────彼らの判断、そして決断は、何一つ間違っていなかった。
ここで彼らが一気に攻め込めば、魔族により妖族は大打撃を受け、ミオと魔族の勝利は確実だった。それはもはや、決定付けられた未来であり、誰も疑いようのない事実だった。
だとしたら。
それを制止させた声は────一体、『誰の意思だった』のだろうか。
「──いいえ……待ってくださいっ、ダメです……っ!」
「ミ、ミオ……?」
恐らくは、何かを察したミオが無意識の内に発した言葉。
それを受けた魔王たちの視線の先で、前傾姿勢になって立つ『何者』かが居たのだ。『そいつ』の姿を見た瞬間、魔王の顔色は恐怖と絶望に染められた。
「……オ、イ……うそ、だろ……ッ?アレ、は────なんだ、『アレ』は……ッ?」
「あぁ……なる、ほど……あれ、が……あれこそ、が────『物の怪』、なんですね……?」
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
人と人の争いの間に割り込んだことは、数え切れない位にある。
その争いを止める為に、無意味な暴力を辞めさせる為に、背後にいる人を守る為に……損得勘定なんて関係なく、ただがむしゃらに、何度も、何度も、我が身を犠牲にしてきた。
だが、その度に……彼らの奇異な目にさらされるのだ。
敵だろうが、味方だろうが、野次馬だろうが関係なく……俺の姿を見れば、『化け物』が出た、と誰もが恐れおののく。
まさに、今この瞬間の────魔族と妖族のように。
ある意味、当然の反応だろう。
彼らの前に立っている存在は、もはや『人』とは呼べない。
肩と脇腹からも腕が生えた『六本腕』、ボコボコと背中から突き出してくる『白い肉片の塊』、力を入れる度に肥大化し白く変色していく全身の筋肉……まさしく、『化け物』と呼ばれるに相応しい異質な全容をしているのだから。
「──ハーッ……ハーッ……」
こんな姿を彼らの前で露見したら、間違いなく、強い嫌悪感を抱かせてしまうことは分かっていた。これまでも……同郷の仲間たち、家族も同然な親友、誰の前に出ても同じ反応だったのだから。
だが、もう悲しくも、苦しくもない。
何故なら、恐れられるのも、化け物呼ばわりされるのも、もうとうの昔に慣れてしまったのだから。
だから、そう……。
もう、いいのだ……。
嫌われても、恐れられても……。
俺の犠牲で、彼らの未来を切り開くことが出来れば……。
それで、いい……。
「──オレがッ……オレ、がッ…………ァッ、アッ…………ァァァアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」
完全なる化け物と化した異形の姿で、大地に轟く咆哮を放つ。
俺は、『妖族の代闘者』……その役割を果たす為、恐怖で立ち尽くす魔族に狙いを定めて、一気に駆け出そうとした。
────その時だった。
突如、目の前に小さな人影が割り込んできたと思ったら……俺の異形な身体に、静かに、優しく、ソッと手を添えてから、とても穏やかな声色でこう呼び掛けてきたのだ。
「────英雄さん」
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