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 【必殺】 ✕ 【必勝】


 彼女は楽しそうに歌いながら、両手に包まれた数え切れない球体を……。


 ────一斉に投げ飛ばしてきた。


 恐らくは一個一個が、あの天を吹き飛ばしたモノと同じ威力。


 そんなモノをこれだけ大量に投げ付けられては、ここら一帯の地形が大きく変動する程の、大爆発が起こるだろう。


 このまま爆発させては駄目だ。


 そう判断した俺は覚悟を決め、一度大きく息を吐いてから……。


「──ふぅぅぅっ…………すぅぅぅぅゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」


 一気に、吸引。


 迫り来る黒い球体を、吸って、吸って、吸い込み続け……全ての球体を体内に取り込んでから、腹に渾身の力を込める。


 直後、ドゴゴゴゴンッと激しい爆発音が体内から幾度にも鳴り響き、俺の口から黒い硝煙が上がった。


 流石のミオも、ギョッと目を見開き、若干動揺した様子で首を傾げる。


「いやいやっ、えっ、それは流石に、えぇ……っ? どんな人体構造をしているんですか……?」

「ボフゥッ……悪いが、元居た世界でもよくやっていたんで……なッ!!」


 さて、あまりノンビリとはしていられない……ここで、決着をつけよう。


 俺は、口から硝煙を吐きながら、拳を思い切り握り締める。


 目の前で立ち尽くすミオへ向かって駆け出すと、渾身の力を振り絞り────その顔面を狙って、容赦なく拳を突き出した。


 しかし。


「──私の方こそ。エルマさまのように、正面から殴り掛かってくる輩とは、幾人も対峙してきました。そして……」

「──!?」


 パチンッと、ミオが不意に前に出した手のひらに吸い込まれるように当たると、拳の勢いが途端に消失。


 手加減は、一切していない。


 魔獣を片手でひっくり返し、幻獣を殴り倒し、魔硬石の高壁に一撃で穴を開けた程の腕力が────こんな華奢な少女の手のひらに、アッサリと止められたのだ。


「残念ながら。そういった方々を相手に────『負けたこと』は、一度たりともないんですよ」

「ぐぎィ……ッ!?」


 そして、次の瞬間。


 ミオの手のひらが閉じると、ブチブチブチッと、肉を引き裂くような音を立てながら……。



 ────リンゴを潰すように、俺の拳を握り潰したのである。



 強烈な激痛が腕から全身に響き渡り、慌てて後ろに翔び跳ねるものの……既に俺の利き手は、骨は折れ曲がり、血や肉が飛び散り、見るも無惨な有り様になっていた。


「エルマさま。あなたは、私に『勝負を挑むべきではなかった』んです。代闘者の皆さんがどれだけ並外れた力を持っていようと────私の【勝利】を覆すことは、決して出来ないんですから」

「ッ……なる、ほどな……今のでハッキリした……絶対に負けない……いいや────あらゆる勝負事に【必勝】する……それが、お前の【概念】って訳か……っ」

「ん~。もう、皆さまには隠し立てする必要もありませんね、ご名答です~♪」

「──ッ!!」


 考える間もなく、楽しそうに笑うミオが素早く腕を振るう。


 俺は反射的に逆の手で防御の体勢を取るが、彼女は、その手首を鷲掴みにして……。



 ────樹木の枝をへし折るように、俺の腕を、肩から引き千切ってしまった。



 それはまるで、子供の遊びだ。


 玩具の人形を使って遊んでいるような闘い方に、俺は一瞬、腕を引き千切られた痛みすら忘れる程の恐怖心を覚える。


 こんなグロテスクな行為を楽しそうに微笑みながら実行する、ミオの凶悪的な人間性にも。


「駄目ですよ、エルマさま。幾ら抵抗しようとしても、幾ら堪えようとしても────私は、必ず『勝ちます』。ならば、エルマさまは『負ける』しかないんです。それが、この勝負の真理なんです」


 ミオの言葉を聞くだけで、心が折れそうだ。


 『敗北』が決定付けられた闘いなんて……どれだけ足掻こうが、どれだけ抵抗しようが、最初から何の意味も無かったのだから。


 かくいう俺も、彼女の【必勝】を打開する手段を見出だした訳ではない。



 だが────関係ないのだ、『そんなこと』は。



「ハッ、ハッ…………悪いが────それは、俺が『負け』を受け入れた場合の話だろう……?」

「──ッ!」


 フラフラと立ち上がりながら、俺は引き千切られた肩に意識を集中。


 すると、身体の内側からズリュッと押し出されるように、新しい腕が吹き出してくる。握り潰された拳も、既に五本指を開け閉じ出来る程度にまで回復していた。


「俺は、相手が提示する『敗北』に従ってやるほど、素直な人間じゃない。それにな、そもそも俺にとっては────『勝利』だとか、『敗北』だとか、そんな『称号』なんざどうだっていいんだよ」


 そう。例え、恨まれようが、命を落とそうが、敗北しようが、俺の身がどうなろうが……最初から、そんなことはどうでもいいのだ。


 ただその結果、守ることが出来る世界があるならば……救うことが出来る人たちがいるならば……それでいい。


 それ以外のことは、何も望まない。


 これまでも、そうやって生きてきたのだから。


 つまり、俺が今ここで出来ることは……やるべきこては、ただ一つだけ。勝てなかったとしても……負けてしまったとしても……バラバラになったとしても……例え、死んだとしても……。



「────お前を『倒す』、それだけだッ」



「くすっ。やっぱり面白いですね、代闘者の皆さまは。それだけでも、この世界に召喚された甲斐がある……皆さまならば、きっと────『勝利』以外の感情を味わわせてくれると、そう感じさせてくれるんですから……っ!」


 俺から引き千切った腕を肩に担ぎながら、何処か歓喜した様子で笑うミオ。


 そんな彼女の目の前で、俺は間髪入れずに……。



 ────手中に顕現させた【妖刀】を、一切の容赦もなく振り抜く。



 悲鳴のような甲高い音を上げて、空を切る刃。


 直後、目をギョッと見開いたミオは上体を下げてそれを辛うじて回避するが……彼女の持っていた俺の腕は、【妖刀】に切断されて跡形もなく消滅した。


「──今、避けたな?」

「……っ……」


 俺の問い掛けに、笑顔のまま硬直したミオの頬から、一筋の汗が滴り落ちる。


「お望み通り、好きなだけ味わわせてやる。お前が相手なら────『殺してやる』くらいが丁度いいだろう?」

「…………おも、しろい……くすっ、面白いっ、オモシロイ……っ! なるほどっ、それはつまり【必殺】という訳ですかっ。いいでしょうっ、イイデショウっ、確かめてみましょうかっ────【必殺】と【必勝】、果たしてどちらが生き残るのかをッ!!」

「────上等だ」


 これより、闘いは完全に未知なる領域へ踏み込む。


 俺の構える刀とミオの握り締める拳……【必殺】と【必勝】…………妖族の代闘者と魔族の代闘者……英雄と英雄……どちらが勝ち、どちらが負けるのか────その答えは、この闘いの結末だけが知っている。


 そして。


 俺たちは、互いに己の【具念】を全身全霊で振り絞って、一気に距離を詰めると────刀と拳を、衝突させた。


「ぅおォォォォ……ッ!!」

「ぃぎィィィィ……ッ!!」


 何が起こっているのか……分からない。


 鼓膜が突き破れそうな衝突音が断続的に幾度となく鳴り響き、周囲の景色までもがグニャッと何度も何度も歪み続ける。


 引いたら、押し返される……そんな予感が脳裏にあるせいで、一切力を緩めることが出来ない。


 だが、力を込めれば込める程に、刀と拳の衝突点にエネルギーが増していくのを感じた。



 次の瞬間────頭の中で「ピーッ」と警告音のようなモノが鳴り響くと……。



「「────ッ!?」」







─※─※─※─※─※─※─※─※─※─







 先の戦争から倒壊したままで放置された、明朧城跡地。


 その地のど真ん中に、胡座をかいて座る『狐人』の姿があった。彼女が膝の上で優しく抱き締めるのは、身の丈よりも長い髪の幼子。その子の穏やかな寝息を聞きながら、昔の記憶を懐かしむようにボンヤリと空を眺めている。



 直後────瞬く間に世界へ広がった大震動。



 いち早くそれを察知した彼女はピンっと狐耳を立てて、キョロキョロと辺りの様子を窺いながら顔をしかめた。


「──これは、何が起きておるんじゃ……?」


 見間違いかと思う程度の違和感だが、目を細める彼女の視界に映ったのは、無数の『亀裂』。


 まるでガラスの割れ目のように、視界全体に薄らとヒビが走って見えていたのだ。


 そこへ、彼女の膝で寝息を立てていた幼子がゆっくりと上体を起こしたかと思えば……目蓋を閉じたまま顔を上げ、機械染みた口調でこう語り始めた。



「──元来、『具念』とは、世界に在らざる力。未知なるモノに恐怖するは、世界の道理」



 すると、狐人は何処か嬉しそうな表情で、幼子の頭を撫でながら声を掛ける。


「おぉっ、我らが『仙族の代闘者』よ。急に喋り出すとは珍しいのぉ。雪でも降るのでは……いや、むしろこれは、『天変地異』の予兆か?」


 そこは、『仙域』。


 人里離れた自然の地で、人智を越える境地に至った獣たち、即ち『仙族』の住まう領域。


 そして、狐人の膝の上に座る長髪閉眼の幼子こそは────『仙族の代闘者』。


 異世界の英雄として召喚された幼子は、全てを見越したようなやたらと大人染みた口調で、狐人の言葉を一蹴した。


「『天変地異』など、生温い。コレらが着到するは、寧ろ────『世界滅亡』であろう」

「…………マジか?」


 幼子……仙族の代闘者は、察していた。


 このまま『彼ら』が闘い続ければ、彼らよりも先に、『土台』の方が限界を迎えてしまい……世界が壊れてしまうだろう、と。


 だが、それを察していたのは、その幼子だけではない。




 



─※─※─※─※─※─※─※─※─※─








「──だからこそ、僕らは『停戦』の意を結んだ。幸か、不幸か、この世界は代理戦争の地には見合っていなかったからね」


 そこは、世界から隔離された……『天』と双璧を成す『深』の領域。


 何処までも闇だけが広がる空間。


 その中で自らが淡い光を放つ、まるで結晶のような透明の木々があった。


 絵本の世界から飛び出してきたような、幻想的な景色が広がる領域で、中性的な見た目の少年が語り部のように呟く。


「──で、では、『深族の代闘者』様。あの方々の闘いはどうするのですか……?」


 彼の傍に佇んでいた、尖った耳が特徴の『深族』の少女が焦った様子で訪ねた。


 しかし、彼女らの代闘者たるひょうきんな少年は、陽気に笑いながら小さく首を傾げるばかりだ。


「どうするって、何がだい?」

「何がって……っ! このままでは、我ら『深族』どころか、『世界そのもの』が……っ!」


 『深族』は、『世界の構造』について最も理解が深い種族だ。


 そんな彼女らが酷く困惑した様子で、『世界滅亡』を予期し始めた。それはつまり、今まさにこの瞬間……。



 この世界で生きる全ての命にとって────『最悪の事態』が起こっている、ということだ。



 しかし、それでも代闘者は一向に焦る素振りすら見せずに肩を竦めた。


「心配は要らないさ。こういう時に真っ先に動く『彼女』が、既に対処に動いているだろうからね」

「『彼女』……?」

「そうとも────『天族の代闘者』が、ね」


 そんなことを語り合っている間にも、世界中で巻き起こる大震動は激しさを増し……空間に走る『ヒビ』は、より一層深く大きくなっていく。


 『代理戦争』……果たしてその闘いが終結した時、闘いの舞台となった世界は、無事形を保っているのだろうか。








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