殴り込んでみました
正面門を守っていたのは、通称『角獣』と呼ばれる仙域の獣らしいのだが……見た目の神々しさとは裏腹に、獰猛な雄叫びをあげて襲い掛かって来た為────二匹とも、近くの湖に『放り投げて』おいた。
幻獣がやられたのを目撃した兵士が、慌てて『魔硬石』とやらで出来た強固な石門を閉じようとしたが────外側からそれを『蹴り壊して』、堂々と基地に侵入。
すると、洗練された動きで周囲を取り囲んだ兵士たちが、各々で武器を構えて警告を発してきた。
「止まれッ!! それ以上進むようなら即座に抹殺するぞッ!!」
「随分とガラが悪いな……」
「貴様ッ、どの種族の者だッ!? ここが世界連合の拠点だと知っての狼藉かッ!?」
敵意剥き出しの兵士たちに対して俺は、猿ぐつわを咥えさせたイブキを前に突き出した。
「ンーッ! ンンンーッ!?」
「お、おい、アイツは……妖族の『鬼』じゃないか……?」
「な、何なんだ……? これは一体、どういう状況なんだ……?」
「コイツから、ここに『鬼』が収容されていると聞いた。随分と濃艶な『鬼』らしいんでな、コイツと一緒に夜伽の相手をさせる為に貰いに来た」
「ンヌッ!!?」
「なにそれ!?」と言いたげに、ギョッと目を剥いてこちらへ困惑の視線を向けるイブキ。
咄嗟に出たごまかしにしては、中々に良い線をいっていたと思う。これならば、『性癖が歪んだ代闘者』が『独断で基地を襲撃してきた』、と見られるだろうから。
「──オイオイ落ち着けって、お前ら。コイツは、妖族の代闘者だぞ」
そこへ、兵士たちの包囲網を通り抜けて、一本の槍を担いだ大柄の甲冑男が進み出てきた。
周囲と同じ人族とは思えない体格の良さに圧倒されるが……それ以上に目を引くのは、彼がその手に握る『槍』の方だ。
普通の槍と比べて、随分と派手な装飾が施されており、その刃は螺旋状に変形している。それに、その槍自体が波動を発しているかのような、強烈な存在感……あれは、相当の業物と見た。
「英雄などと、もてはやされちゃいるが……聞いたかよぉ皆っ! 我らが英雄様は、夜の相手が一人だけじゃ満足出来ねぇんだってよぉっ!」
男が言いふらすようにそう声をあげると、緊張がほぐれたのか、周囲の兵士たちからドッと笑い声が上がる。
完全に笑い者にされている……なんだか、普通に恥ずかしくなってきた……。
「代わりに紹介して貰ってどうも」
「まぁ、あんたの性癖なんざどうでもいいが……丁度いい。ここには、相当の腕自慢ばかりが集まってんだ────相手してくれよッ、異世界の英雄様よぉッ!?」
「そんなに、強いヤツばかりなのか?」
「それがナビードだッ! 俺なんか前の『明朧会戦』で百人近くの妖族をぶっ殺してやったんだぜッ!? この『天族』から奪ってやった『神槍』を使ってなぁッ!!」
「ひゅーーッ!! いいぞいいぞやっちまえぇぇぇぇッ!!」
「英雄共に俺たちの力を思い知らせてやれぇぇぇぇッ!!」
『神槍』……確か、『天族』という種族が『神』と呼ばれる存在から授かったとされる、世界でも唯一無二の『神器』の一種……なんて話を聞いたことがある。
それぞまさに、『世界最高峰の武具』。
イブキがまるで何かを思い出したかのように、顔を青ざめさせて身体を震わせる様や、周囲の兵士たちが途端に沸き上がり出したの見る限り……良くも悪くも、その神槍は絶対的な力を秘めているようだ。
甲冑男は、グッと腰を落としながら神槍を両手で構えると……その切っ先を中心に強い風が吹き荒れ、竜巻のような現象を引き起こし始めた。
そして。
「さぁ、来やがれッ!! 今ここでッ! この俺こそがッ! てめぇら英雄よりも強ぇってことを証明してやらァッ!!」
全身のバネを使い、とてつもない勢いで────吹き荒れる風を纏った切っ先を、思い切り突き出してきた。
そこから突出する強烈な竜巻は、周囲の建物すら一瞬で呑み込み、まるでミキサーのように木っ端微塵に切り裂いていく。普通の人間ならば、それに巻き込まれるだけで絶命してしまうかも知れない。
だが。
生憎、『普通』ではないのは、こちらも同じだ。
「────吠えんな」
俺はイブキを背後に隠しながら、悠々と竜巻の中を歩み進み、突き出された神槍の刃にゆっくりと手を添えると……。
────一切の抵抗も無く、粉々に『握り潰した』。
バキャァッと甲高い音を立てて、神槍の破片が周囲に飛び散る中、それを目撃した兵士たちは一斉に驚愕の顔を浮かべる。
「………………は……?」
「「「──はァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」」」
目的を果たす為ならば、人質だろうが脅迫だろうが手段を選ばず……戦争で他の種族を殺した数を誇り……他者を傷つけることすらいとわない……『ナビード』は、どうやらとんだ下衆ばかりが集まった勢力のようだ。
だが、故にこそ……こうしてわざわざ乗り込んできた甲斐がある。
「薄ら笑いを浮かべた奴は前に出ろ。今、ここに、お前たちの『悪夢』がやって来たことを────存分に、思い知らせてやる」
お望み通り、見せてやる。
これから先の平穏な暮らしを守る為に……今後、金輪際、代闘者に歯向かおうとすら考えられなくなる位の【圧倒的な力】で────徹底的に、叩き潰してくれよう。
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
ヒュマニジム基地は、大混乱に陥っていた。
突如として姿を現した妖族の代闘者が、次々と襲い掛かる兵士たちをたった一人で薙ぎ倒し、彼らを完全に翻弄していたからだ。
このままでは、制圧されるのも時間の問題……そんな切羽詰まった状況に陥っている基地の現状を、高壁の上から呑気に観察する二人組の男女の姿があった。
「──何の騒ぎかと思いきや……派手にヤってんねぇ、『エルマちゃん』」
「あの『神器』を素手で粉砕した……? しかも、ただ触れるだけで甲冑を破壊している……? あれ、どういうトリックを使っているワケ……?」
「どれだけ硬い物でも、物質ってのは必ず壊れる。だから、あいつは何でも『壊せる』。あいつの持つ【具念】ってのは、そういうもんらしい」
「【具念】……代闘者が持つ超常的な力、か……」
つばの広いとんがり帽子を被る少女が怪訝そうな表情で男を横目で見ると、高壁の縁に腰掛ける彼は、楽しそうにニヤついた顔を浮かべる。
「だけど、ここで注視すべきなのは……見てみ? あいつに薙ぎ倒されている奴ら、誰一人として怪我をしていないだろ?」
「は? あんだけ大暴れしておいて、そんなこと出来る訳が……」
「それを出来んのが、湊本エルマっていう英雄なんだって。スゲェだろ、あいつ」
「ふぅん……何にせよ、止めに行くべきなんじゃない? あんたも一応────『人族の代闘者』、なんでしょ?」
『人族の代闘者』。
異世界から召喚された、六人の英雄の内の一人。
その名称で呼ばれた男は一切考える素振りすら見せず、肩を竦めながら首を横に振った。
「いんや? あいつの私用に首突っ込んで命を削んのはゴメンだね。そもそもあいつは、自分勝手な理由で暴れる野蛮な奴じゃない。だから、放っておいても問題はねぇのさ」
「なにその、俺は分かってますよ感、ウザッ」
「ククッ、相変わらず辛辣だねぇ。そうだ。折角ここまで来たんだから、隣町まで遊びに行こうぜ?」
「イヤだし、行かないし。こんなたっかい場所まで連れてこられて、そもそも機嫌超悪いし……はぁ、案内役なんて引き受けるんじゃなかった」
少女が肩を落としながらブツブツと文句を垂れるのを傍目に、代闘者は軽やかな動作で立ち上がると……何も断りも入れずに、少女をお姫様抱っこで抱き上げる。
「ぃよしっ、それじゃあ出発するかね」
「話聞いてんの、ねぇ? てか、待って? 出発するって、まさか……」
「しっかり掴まっていなぁ?」
そう忠告した、その直後。
彼は少女を抱えたまま高壁の反対側へと走り出し────何の躊躇もなく、そのとてつもない高さから飛び降りたのだ。
「──ウソでしょッちょっと待ってぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
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