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モンスター襲撃

 ダンジョンの入り口は一見すると洞窟のようになっているが、奥に少し行くと階段があり、それを下るとダンジョン地下1階という作りになっている。

 熊、もとい乾いた血の様な赤黒い毛をしたブラッディベアが洞窟入り口でうろうろと中を伺っている様子だ。


「ここに主様がダンジョンを作られるまではあの洞窟はありませんでした。ブラッディベアは見慣れぬ洞窟に対して警戒しているのかもしれません」

「入ってくると思うか?」


「若い熊は好奇心が旺盛だそうですので、たぶん入ってくるのではないでしょうか」

「やった~、くまくま」

「エルル、静かになさい」

「ぶぅ~」


「ごほん、数を頼りに戦ってもゴブリンたちではやっぱり勝つことは難しいかな」

「そうでございますね、恐らく無理でしょう。ですが、罠を仕掛けるという手もございます。知能の高い生物には効果がない場合もありますが、ブラッディベア程度でしたらなんとかなるかと思われます」


 罠か、どれどれ、購入リストっと。なになに、落とし穴にトラバサミか。確かにこのままダンジョンに仕掛けても人間は引っかかりそうにないな。

 とりあえ一つずつ買っておくか。


「タルミ様、ご覧ください。階段のとこまで入ってきましたわ。あ、降りてくる」


 おい、おい、本格的にやばいぞ。落とし穴を設置……


「落とし穴が設置できねーぞ、どうすりゃいいんだ」

「ダンジョンに侵入者がいる場合にその20メートル以内では罠やダンジョンの改造をおこなうことができません」


 そんな話聞いてねーぞ。


「急いでうちのモンスター達をこっちの居住スペースに集めろ! 幸いここには扉を付けてあるから、内側からバリケードを築く。サシャとエルルはここで待機!」

「うん、わかった」

「はいですわ」

「では、モンスター達を急いで呼んで参ります」


 避難してきたゴブリンに手伝わせ、ベッドをこちら側から扉の前に置きバリケードにする。


「今はどんな感じだ!?」

「はい、階段を降り、通路に沿ってこちらに歩いて来ていますわ」

「何事もなく、引き返してくれることを祈るのみでございます」


 ハムマルの言うとおり帰ってくれるといいのだが、ブラッディベアは何やら臭いを嗅ぎながらこちらに来ているようで嫌な予感しかしない。

 泉のある部屋で水を飲み、あちこちに散乱している盗賊たちからの戦利品。つまりゴブリンたちの持ち物を臭いを嗅ぎ、なにか探ってる様子だ。

 ていうか、随分モンスターたちの生活感あふれるダンジョンだな。もしかしてモンスターたちの居住スペースは舞台裏みたいな感じで、人目のつかないところに作ったほうがいいのか?


「タルミ様、なにぼんやりしてらっしゃるんですか? もう、すぐそこまで来てますわ」

「よしっ、俺たちは扉のところへ移動する。エルルはここで待ってろ、いいな」

「うん」


 扉の向こうからはブラッディベアの吐く息遣い、気配がビンビンに感じられる。

 こちら側では扉に立てかけたベッドを押さえながら皆息を殺していた。



 ガスッ


「きゃっ」


 扉を爪で軽く殴ったであろう音にサシャが驚いて小さく悲鳴をあげた。

 だが、咄嗟に口を塞いだ手がその声をすぐに止める。

 

 ガシッ! ガシッ!


 やばい、バレた!

 ブラッディベア先程より強く、そして連続して扉に爪を叩きつけてくる。

 奥の手だ。

 厨房から持ってきていた鍋を力一杯何度も叩いた。

 ガンガンと大きな音が辺りに響く。


 扉を打ち付ける音は治まるどころか、激しくなった感じさえする。


「主様、何をなさってらっしゃるのですか?」

「熊は大きな音に弱いって聞くからな」


「逆効果かと存じます。大きな音を立てると熊は近寄ってこないという話を聞いたことはございますが、目の前で大きな音を立てられると興奮して襲い掛かってくる可能性が高いらしいです」

「……」


 すまんかった。

 鍋をそっと床に置き、扉を押さえるグループに加わる。


 バキッ!


 ブラッディベアの一撃が扉にこぶし大の穴をあけた。

 続いてそこが重点的に攻撃されている。

 このままだとまずい。

 

「みんな、少し耐えていてくれ」


 戦列を離れ、マスタールームへと駆け込む。


「タルミさま……」


 一人マスタールームに残ってモニターを見ていたエルルが心配そうに声をかけてくるが、今はそれどころではない。


「キラーラビット召喚!」


 異様に鋭い目つきをした尖った歯の白い兎が目の前に現れた。

 俺はそれを抱きかかえ、急ぎ通路に出て扉のところへと戻る。

 あいた穴はバスケットボール大になっており、このままでは扉が破られるのは時間の問題だ。


 ブラッディベアの攻撃の隙を突き、先程拾ってきていた鶏肉をあちら側へ投げ込む。

 鶏の死体、つまり鶏肉がダンジョンに吸収されるかの実験のために通路に放置していたやつだ。

 攻撃が一瞬止まる。

 穴を覗くと、ブラッディベアは鶏肉に興味を示しているようだ。しかしそちらに移動する気配はない。


 でも、今しかない!


「頼むぞ、キラーラビット!」


 扉に開いた穴にキラーラビットが勢いよく飛び込み、ブラッディベアの脇を抜け向こう側へと走っていく。

 そして少し離れたところで足を止め、振り返りブラッディベアを眺める。

 1、2、3、踵を返し向こう側へ、つまり階段、そして出口方面へと走っていく。

 ブラッディベアも釣られて追いかける。


 扉のこちらでは皆一様に安堵の吐息を漏らしている。


「ゴブリンたちは穴を適当に何かで塞ぎ、引き続きここを押さえていろ! サシャとハムマルは俺と一緒にマスタールームへ」


 二人と一匹はエルルのいるマスタールームへと入っていく。


「どうだ?」

「くまさんはうさぎさんを追いかけて階段を登って上の階に行ったよ」


「よっし、そこだ!」


 モニターの向こうでキラーラビットが勢いよく跳ねる。

 すぐ後ろを追いかけていたブラッディベアはそのままの勢いで走っていく。



 ドスン!


 ダンジョンに振動が響きわたった。


「落ちましたわ」

「主様、あれは?」

「あぁ、さっきマスタールームに来たときにキラーラビットの召喚と共に入り口付近へ罠を仕掛けておいたんだ。落とし穴だ。20メートル以上遠くに設置しないといけないということで上の階になってしまったけどな」


「DPが少しずつですが、増えていってますね」

「落とし穴の中にトラバサミを仕掛けておいたんだ。それにかかったんじゃないかな。ほんとは落とし穴の中に槍とか仕掛けるべきなんだろうが、売っていたのは深さ2メートル程度の落とし穴で、ただ落とすためだけのものだったんだ」


「左様でございますか。それでは皆でブラッディベアを見に行きませんか?」

「いいですわね」

「エルルもいくー」

「このまま弱るまで放置でいいんじゃないか」


 さっきあれだけ恐ろしい目にあったんだよ。それを態々見に行くなんてこいつら正気か?

 ちょっ、サシャさん、腕に抱きつかないの。胸が当たってますよ、俺の腕に。でも、思ったより柔らかい感じがしないな、もっとこうふかふかなものをイメージしていたんだけど。

 俺の視線に気付いたのか、サシャはスッと身を引きエルルと手をつなぐ。


「16歳ですけど、まだこれから少しは……ですわ」

「えっ? なんかしっかりしてるから20歳くらいだと思ってた」

「エルルはね~、6つ~」


「私のことをそんなおばさんに見ていたなんて心外ですわ。タルミ様こそおいくつなのですか?」

「俺は24だけど」


「ショックですわ、同い年くらいだと思ってましたのに」

「主様は平和な生活を送っていらっしゃったのでお若く見えるのですよ」

「いや、それこそショックだ」


「そうこう言ってる間に着きましたわよ」


 目の前の地面には大きな穴が開いていた。

 謀られたー、話をしながら意識を別のところに向けさせられ、ここまで連れてこられてしまった。

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