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おねえちゃんを取り戻せ

今回はきりのいいとこまで投稿したため、いつもより少し長くなります。

 2時間くらいしてノックの音とともに副ギルド長が入ってきた。

 先ほどのにこやかな表情ではなく、苦々しそうな顔をしている。


「うまくいかなかったんですか?」


 席を立って咄嗟にあげた声は裏返っていた。


「いや、作戦自体はうまくいったんだ。盗賊二人は問題なく捕らえ、奴隷として売られるはずだった女性たちも無事保護した。だが……」

「だがどうしたんですか?」


「いや、なに……」

「はっきり言ってください」


 どうも歯切れが悪い。


「その娘のお姉さんというのは魔族だったのかね」

「うん、わたしもおねえちゃんも魔族だよ」


 エルルが髪をかき上げ耳を出す。

 えっ、耳が尖ってる? もしかしてエルフ? いや、魔族って言ってるか。


「やっぱりそうか。申し訳ないんだが、君のお姉さんは警備隊の隊長が連れて行ってしまった」

「どういうことなんですか?」

「おねえちゃん……」


 エルルは俺の服の裾をギュッと握りしめている。


「いや、私としてもこちらに連れてくるつもりだったのだが、この国では魔族の扱いはあまりいいものではなく、そこに目をつけた隊長が勝手にこいつは俺の奴隷としてもらっていくと連れて行ってしまったんだ」

「そんな……」


 このままではまずい、どうにかしなければ。必死に頭をめぐらせる。


「だったら、俺にその隊長を紹介してもらえませんか。それとその隊長は賄賂は効くタイプですか?」

「あぁ、そういうことか。それなら協力させてもらうよ。ここの兵士に直接的な賄賂はまずい。見つかったら罰せられるからね。現金ではなく物だったらなんとか大丈夫だ。あの隊長は無類の武器好きだから珍しい武器を渡せばあの娘を渡してくれるかもしれん。おい、あれを持って来い」


 奥から持ってこさせたナイフの刃は薄っすらと青く光って見えた。 


「それは?」

「これはドラゴントゥースナイフというものだ。ドラゴンの歯という名前がついているが、竜の牙から作られたものではない。さすがにあれは高価すぎて商売にならない。これは牙を加工するときに出た粉を金属に混ぜ合わせて作られたナイフだ。金貨10枚でお譲りしよう」


「申し訳ありません、これが俺の全財産の金貨5枚と銀貨100枚、いや銀貨2枚使ったから金貨5枚と銀貨98枚です」


 俺はテーブルの上に金の入った袋を置く。

 海千山千の商人と駆け引きをしてもしょうがないと思って直球勝負を挑んだが、悪くない手だったようだ。


「はははは、面白いね。よろしい、このナイフは金貨5枚でお譲りしよう。ほぼ原価で儲けはまったくないが、今回の件はこちらの不手際もなかったとはいえないし、ひとつ貸しということにしよう」

「助かります」




 俺たちは紹介状を手に町の警備隊の詰め所に来ている。

 入ってすぐのところにいた兵士に紹介状を見せるとすんなり隊長の部屋へと案内された。


「隊長、商人ギルドからの案内状をお持ちのお客様をお連れしました」


 案内してくれた兵士はそう告げるとすぐに退室していく。


「おねえちゃん!」

「エルル!」


 そういった先では確かにエルルによく似た容姿の若い女性が部屋を掃除していた。

 エルルは姉へと駆け寄って腰に抱きつき、抱きつかれた女性は涙目でエルルの頭を撫でている。

 机に座って何か事務作業をしていた男は嫌そうな顔をしてこちらに声をかけてくる。


「何のようだ?」

「はじめまして、タルミと申します。まずはこれをご覧いただけますか?」


 用件も言わず、先に懐から取り出したナイフを隊長の机の上に置く。すると隊長の目の色が変わった。緊張の面持ちでそれを手に取り、鞘から抜く。


「こ、これは!?」

「はい、ドラゴン素材が含まれているドラゴントゥースナイフです。なかなかのものでしょう?」


「これはどこで? いや、俺にこれを譲ってくれ!」

「今日はお願いがあって参りました。あちらにいる少女ですが、私が雇っている少女の姉で私の元で働く予定のものでした。このナイフを差し上げますので、あれをどうか譲ってもらえないでしょうか」


「い、いや、う~ん」

「これほどのはなかなか手に入るものではないですよ」


 自分の趣味を目の前にして、それがなかなか手に入らないものだとするとどうしてもそれが欲しくなる。それがコレクターというものだ。

 俺もその気持ちは十分理解しているつもりだ。

 隊長もご多分に漏れず、随分心が揺さぶられているように見える。


「そちらの女性をどういう経緯で手に入れられたかは知っておりますが、それについては商人ギルドの方からどうこう言う気はありません。あの子のためにもどうかお願いします」


 少し卑怯かと思いながらも商人ギルドの名前を出してみたが、もうひと押しかな。

 隊長の手にしているナイフを取り上げようと手を伸ばすと、隊長は身を引きそれをかわす。


「わかった、その女は連れて行け。盗賊から接収しただけで奴隷の登録もまだしていない。もちろん手もつけていないから安心しろ。それでこのドラゴントゥースナイフは俺のものでいいんだな。後から返せといってもそうはいかんぞ」

「ありがとうございます。もちろんそのナイフは隊長さんに差し上げます」


 事の成り行きを見守っていた女性はほっとした様子を見せ、俺に促されて3人で部屋の外に出た。


「主様、ようございましたね」

「内心びくびくしていたが、うまくいってよかった」


 女性はハムスターが喋ったことに驚きの様子を見せるが、エルルが「ハムマルちゃんは凄いんだよ」の言葉に笑みを浮かべ、エルルの頭を撫でている。


「お礼が遅れ申し訳ございません。エルルの姉のサシャと申します。助けていただきありがとうございました。差し支えなければどのような状況なのか教えていただけますと助かります」

「あぁ、そうだな。これから帰るのは無理なので宿で部屋でもとってゆっくり話そう。いや、その前に商人ギルドへうまくいったことを伝えなきゃいけないな」




 商人ギルドで副ギルド長のテリドさんへ無事に隊長からエルルの姉を取り戻したことを話してから宿へと向かう。

 宿のおかみさんへは盗賊の一件を侘びて部屋をふたつとり、みんなに俺の使う予定の部屋に集まってもらった。


「さて、ちゃんとした自己紹介もまだだったな。俺の名はタルミ。わけあってダンジョンマスターをしている」

「タルミ様にお仕えしているハムマルと申します」

「サシャと申します。先ほどはほんとにありがとうございました」

「エルルだよ」


 サシャと名乗ったエルルの姉は身長175センチの俺より頭ひとつ小さいくらいだろうか。今までの生活からか体は細身で胸もそれほど成長しなかったようだ。

 しかしエルルと同じ金色の綺麗な髪は後ろで束ねられ――いわゆるポニーテール――横に見える尖った耳からエルフを連想させる美しい女性だ。隊長が欲しがるのも無理はない。


「ダンジョンマスターとはどういったものなのでしょうか?」


 サシャが聞いてきた。


「えーと……ハムマル、なんなんだ?」

「ダンジョンマスターとはダンジョンを支配するものの事です。昔は神々の代理戦争にも使われておりましたが、最近はあまり人気が、いえ、最近は神々の興味は他に移っているらしく、昔ほど噂を聞かなくなりました」 


 そうだったのか……

 俺をこの世界に送ったのは怠惰の神だというから、あまり神々の間の流行とか興味なかったのかもしれないな。


「それで私はダンジョンマスター様の奴隷になるのでしょうか?」

「ダンジョンマスターじゃなくて、タルミと呼んでくれ。そうだな、奴隷というかあの隊長に渡したナイフが金貨5枚だったから、その分だけは働くかどうかして返して欲しい。それが正直なところだな。エルルは盗賊から助けたときに死にかけていたから、その治療をするためにダンジョンサポーターという仕事についてもらっている。それと俺に対しては普通に喋ってくれていいから」


「ありがとうございます。そうさせてもらいますわ。それでお仕事は危険とかはないのでしょうか?」

「あぁ、もしかすると危険はあるかもしれない。でも盗賊に捕まって売られたりとかよりは安全だと思うよ?」


「それもそうですわね。妹も私もタルミ様には大きな借りがありますので、喜んでダンジョンサポーターというものにならせていただきますわ」

「ありがとう、これからよろしく頼む。詳しいことはダンジョンに戻ってからだが、その前に買い物だ」


 ダンジョンからこの町まで来るのに時間がかかりすぎて不便だ。

 まずは馬車が欲しいな、それに一日三食、一人分のご飯はDP(ダンジョンポイント)で買うことができるけど、それ以上は買えないから二人のご飯をどうにかしなけりゃいけない。

 鍋や釜、包丁などの料理道具、食材、服、買うものは結構たくさんある。あ、そうだ、あれも忘れずに買っておかないとな。それに商人ギルドに行ってと、やることは盛りだくさんだ。


「ふたりはこの町のことは詳しい?」

「この町ははじめてですわ」

「はじめてきたの」


「わかった。それじゃぁ、エルル。宿のおかみさんの所に行ってガイド料を払うのでこの町を案内してくれる人を紹介してもらえないか聞いてみてくれ」

「あ~い」


 エルルは元気よく返事をして駆け出していった。


次でダンジョンに戻ります

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