奴隷商人と会う
「よぉ、カール、久しぶりだな」
「んだ、久しぶりだ。ほい、今日は3人だ」
「そいつらは?」
「町に行きたいってんで一緒に来ただよ」
「そっか、若いもんは町に興味を持つって言うしな」
町の入り口で出入りの人間と荷物のチェックをしているらしき兵士は、俺とエルルのことをおじさん――名前を今まで聞くのを忘れていたがカールさんというらしい――と同じ村の人間だと思っているようだ。
いや、まぁ、都合がいいんで訂正はしないけどね。
まずはエルルのお姉さんを探さないといけないんだよな。奴隷として売られるって話だったけどどこに行けばいいんだろう。
カールさんに『実はですね』とエルルとお姉さんが盗賊に捕まり、エルルだけは助けることができたけど、お姉さんの方は奴隷として町で売られることになったらしいということを説明した。
「そりゃ大変だ。明日は月に一度の自由市が立つ日だべから、きっとそこで売られるだ」
「この町ではいつもは奴隷は売買されてないんですか?」
「んだ、もっと大きな町だと奴隷を売る店があったりするだども、この町では市の時だけだ」
「ということは、明日までは売られる可能性は低いってことか。どうにかして、それまでに会えないかな」
「おねえちゃんと会える?」
「この町には宿は2軒だけだから、そのどちらかか、馬車ん中にいるんでねぇか」
「すごい、それだとなんとか絞り込めるかもしれない。エルル、お姉ちゃんを一緒に探そうね」
「うん!」
カールさんは商人ギルドへ翌日の市の出店場所の登録に、俺とエルル、そして人前では胸ポケットに入ったまま人形かただのハムスターのごとく一言も喋らないハムマルの3人は宿へと向かう。
このエルルの期待を込めた眼差しを無下には出来ない。なんとか見つけなくては。
カールさんに聞いた1軒目の宿では特に収穫はなかった。
というか、そちらは値段の高い方の店で、ここでは奴隷商人が泊まっていないかどうか聞いただけで追い出されてしまった。
やっぱ、対応がまずかったかもしれない。となると、次の宿屋では同じ失敗はできない。
予めどのように声をかけ、それに対して相手がどう返事してくるだろうかとシミュレーションを立て、話す言葉を準備しておく。
「こんにちは、ここに奴隷商人が泊まってるって聞いたんですが、いますか? 商談のために来ました」
「あぁ、あのしぶちんたちかい。あいつらには一昨日から馬車置き場だけ借してるよ。なんでも荷物が心配だから見張りを兼ねて馬車で寝起きするんだとさ。部屋を借りて奴隷も一緒に連れて行けばいいのに随分ケチ臭い話さ」
「ということは、奴隷商人は今も馬車置き場にいるんですか?」
「たぶんね、あの二人はどちらか一人は常に馬車にいるようにしてるみたいだからね」
よっしゃぁ、情報ゲットだぜ。
奴隷商人は二人で、馬車置き場(コーチハウス)にいるってことだな。
宿屋のおかみさん、情報ありがとです。
俺の所持金は金貨5枚と銀貨が98枚、足りるといいんだけど。
おかみさんが教えてくれた扉から宿に併設されている馬車置き場へと向かう。
「こんにちは。奴隷商人ってあなた方ですか? 奴隷を見せてもらいたいのですが」
「あぁん? 誰だてめぇは」
馬車に寄りかかって話をしていた二人のうちの一人が俺に向かってドスの効いた声で言葉を返してきた。
奴隷を扱うとはいえ、商人にしては随分とガラが悪いな。
後ろにいるエルルが俺の服の裾をくいくいと引っ張っている。
なんなんだ、俺は今話し中だぞ。
「あ、お頭、あいつ、あのガキ」
「お頭じゃねーと何度言えば……あ、あいつはあれか、アジトに置いてきた」
「あの人たち、わたしをいじめた人」
ということは、やべっ、奴隷商人ではなくて盗賊かよ。
「おい、エルル、逃げるぞ」
エルルの手を引き、入ってきた扉から戻りかんぬきをかける。宿のおかみさんには『後で謝りに来るから』の言葉を残し、急いで建物をでて雑踏に紛れ込んだ。
「困ったなぁ。おい、ハムマル、お前はやつらの所へ偵察とか行けるか?」
「それは主様次第にございます」
「大丈夫だよ、あたしがついてるもん」
「お~い」
向こうから男が手を振りながら歩いてくる。カールさんだ。
丁度いい、相談してみるか。
俺はカールさんに捜していた相手は実は奴隷商人ではなく盗賊だったこと。それとたぶん襲った行商人に成りすましているのだろうという自分の想像を話した。
「そりゃ、大変だ。おらたち近隣の村のものがたまに町に物を売りにくるのと違って行商人や、町に店を構えてるものは大概商人ギルドに登録してるだ。商人ギルドに相談してみるといいだ」
ただの田舎の村のおっちゃんかと思ってたけど、案外物知りというか頭が回るんだな、侮ってた。
商人ギルドへはカールさんに案内されてついていく。
「よぉ、カール。さっき出て行ったばっかりだというのになんか忘れ物かい?」
まだ若い青年が俺とエルルを値踏みするような目つきで無遠慮に見つつカールさんに話しかけている。
「なに、ちょこっとこのおらの知り合いの話を聞いてやってくれねぇだか」
「はじめまして、タルミといいます」
俺はカールさんに話したことと同じことを言い、そして商人ギルドで本物の商人かどうかの確認をおこなってもらえないかとお願いした。
すると青年は自分の手には余ると建物の奥へと小走りに入っていった。
「お待たせいたしました。私はこの商人ギルドの副ギルド長を務めているテリドと申します。以後お見知りおきを」
「タルミと申します。こちらこそ副ギルド長なんて偉い人にお会いできるなんて光栄です」
青年が連れて来たのは恰幅のいい、終始笑顔の中年男性だ。
あの若いやつのようにあからさまにこちらを値踏みするのではなく、腹の中でどう思ってるか知らんが余裕の笑みを浮かべている。
なんか面接を思い出すわ。若いのがただの面接担当官で、副ギルド長は同席してる部長とかのお偉いさん。
担当官はこちらをじろじろ眺めて観察するが、部長とかは笑顔でどっしりと構えている。まぁ、会社によって少し違ったりもしたけどな。
あ~、日本に帰ったらハロワ行って面接か、また面倒だなぁ。
意味もなくそんなことを考えていたら、胸ポケットの中のハムマルがもぞもぞと動き、俺の意識を現実世界に引き戻してくれた。
「失礼しました。何から話せばいいのか考えてました」
「かまわないとも。さぁ、話してください」
俺は3度目の同じ説明に少しうんざりしながらも、ふたりにしたのと同じものを副ギルド長に話した。
「貴重な情報をありがとう。盗賊が商人ギルド員に成りすますなんてギルドの信用に関わる問題だ。速やかに対処することを約束しよう。お嬢ちゃんのお姉さんもきっと助けてあげるからね」
「ありがとうございます。俺たちもそれに参加させてもらえないでしょうか」
「気持ちは分かるが、君の入る余地はないだろう。町を守る警備兵に密かに馬車置き場の建物の出入り口を封鎖させ、理由をつけて兵士と一緒にギルド証を確認するだけで片がつくはずだ。ここで待ってるがいい。お姉さんを取り戻したら連れてくるから」
「わかりました。それではここで待たせてもらいます」
「おねえちゃんをお願いします」
「おらは村の者に頼まれた買い物があるだで、申し訳ないが失礼するだ」
今まで付き添ってくれていたカールさんと別れ、エルルとハムマルの二人と一匹で待つことになった。




