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彼の彼女は意地悪ガール  作者: 夢遥
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彼の彼女は意地悪ガール

瑞輝君の看病に行ったものの、寝言で比奈と間違えられて抱きしめられた哀華ー。

そんな時、渉に思いがけないことを言われてー!?



「比奈ー」って呼んだ瑞輝君の声が、まだ耳の奥に残っている。


 こんなことなら、深羽と一緒に帰ればよかった……。


 靴を履いて帰ろうと、玄関のドアを開けた時、目の前に比奈ちゃんが立っていた。


「どうして、あなたがいるのー?」

 比奈ちゃんは、驚いた顔で眉をひそめた。

「……」

「あたし言ったよね?瑞輝のことは、ほっといてって」

 比奈ちゃんが、じろっと睨みつけた。

「ご、ごめんなさい。し、心配だったから……。も、もう帰るから……」

 あたしは、涙をこらえながら、やっとの思いで声を振り絞った。


 でも、比奈ちゃんはあたしのことなんか無視して、玄関を開けた。

「お邪魔しまーす!」

 まるで、自分の家のように入って行ってしまった。


 何のために来たんだろうー。自分がなさけなくなってきた。



 翌日、朝のラッシュに煽られながら、電車に乗り込んだ。


 毎日、どうしてこう混んでいるんだろう。


 あたしが出入り口の座席のパイプに掴まりながら、溜め息をついた時、ポンと誰かに肩を叩かれた。

 振り向くと、瑞輝君が立っていた。

「おはよー。昨日は、ありがとな」

 瑞輝君が、笑顔でお礼を言った。

「あ、うんー」ー」

 あたしは、少し俯きかげんで返事をした。

「いつの間にか、哀華ちゃんいなくて比奈がいるから驚いたよ」

「……」


 やっぱり、昨日のことは覚えてないらしい。

 その時、電車がガタッと動いて、倒れそうになった。

「おっと!」

 瑞輝君が、あたしの腕を掴んだ。その拍子に抱き締められるような形になってしまった。


 昨日のことを思い出して、あたしの心臓はまた、ドキドキと高鳴る。

「大丈夫か?」

 瑞輝君が、あたしの顔を覗き込んだ。

「う、うんー」

「顔も赤いけど俺の風邪うつしちゃったかな?」

 瑞輝君が、あたしのおでこに手をやった。


 瑞輝君に触られるたび、顔から火が出そうなくらい、真っ赤になる。


 どうしよう。これじゃ、心臓がいくらあっても足りないよー!


「瑞輝!おはよー」

 比奈ちゃんが、人の群をかき分けながら、こっちに歩いてきた。

「比奈、昨日はりんごサンキュー」

 瑞輝君が、比奈ちゃんの頭をポンと叩いた。

 えっ!何、言ってるの?


「あたし、りんご剥くの慣れてなくて、ごめんねぇー」

 比奈ちゃんが、甘えた声で言った。

「いいよ、そんなの。哀華ちゃんも昨日、忙しいのに引き止めてごめん。代わり

に比奈がりんご剥いてくれたから」

「えっ……」


 りんごは、あたしが剥いたのに!


「哀華ちゃん、お見舞いに来てくれたんだ?」

 あたしと会って話までしているのに、比奈ちゃんは白々しく言うと、クスッと笑った。


 どうして、そんな展開になっているのー?




「おはよー。哀華!昨日、どうだった?」

 学校へ到着すると、昇降口の所で深羽に声をかけられた。

「おはよー、深羽」

 あたしは、しんみりした顔で挨拶した。

「どうしたの?元気ないね。昨日、何かあったの?」

「それがね……」

 あたしは、比奈ちゃんのことを話す。

「何それー!自分がやったことにするなんて、ありえない。あたしが先輩に言ってあげるよ」

 深羽が、フグみたいに頬を膨らませる。

「ううん、大丈夫。このままでいいよ……」

「哀華は、それでいいわけ?」

 深羽は、納得いかないような顔をさせた。


「うんー」

 昨日、比奈ちゃんと間違えて抱き締められたことを思い出す。

 本当は、瑞輝君にしたら、あたしが剥いたりんごより、比奈ちゃんが剥いたことにしておいたほうが嬉しいはずだ。


 そう思ったら、また胸が締めつけられる。


「哀華が、いいならいいんだけどー、何か言われたら、すぐに言ってね?」

 深羽が心配そうに、あたしの顔を見つめた。

「ありがとう」

 あたしは、深羽に心配かけないように笑顔を見せた。




 ピピッー! 

 1時間目の体育は、隣のクラスと合同授業で校庭10周とハードルだ。

「はあはあ……。校庭、10周なんてしんどいー」

 深羽は、ぶつぶつ文句を言いながら走っていた。


 確かに、10周はキツいかも。


「男子は、サッカーかー」

 深羽は息を切らせながら、チラッと男子の方を見た。


 ちょうど今、試合が始まったところみたいだ。

 その中に、渉の姿もあった。渉は、相手チームからボールを奪って、ドリブルをしていくと軽やかにシュートを決めた。


 女子達は走りながらも、渉に目を奪われているみたいだ。


「渡部君って、かっこいいよねぇ」

 校庭を走り終わった女子達が、ヒソヒソと話していた。

「意外と渡部君って、女子にモテるよねー」

 深羽は、次で使うハードルを用意しながら呟いた。


 確かに、中学の頃から結構、渉は女子に人気があって、告られるのもしばしばだった。

「でもさー、二股かけられているのに、いまだに付き合っているのもどうかと思うよねー」

 深羽は、呆れ顔で言った。

「渉も比奈ちゃんに、何も言わないのかなー?」


 比奈ちゃんが言ってこないってことは、渉が言っていないってことだよね……。


「きっと、渡部君言うに言えないんだよ!」

「あははー。ありえるかも」

 あたしは、思わず苦笑いをした。


 渉が言わないから、比奈ちゃんに意地悪されなくてすんでいるんだけどね。



「終わったぁー」

 体育の授業が終わると、更衣室で着替えて、あたしと深羽が教室へ戻ろうとた時、

「哀華ー」

 渉に呼び止められた。

「渉ー」

「ちょっと、話あるんだけど、視聴覚室に来てくれないか?」

「えっ……。ここで、話せないこと?」


 比奈ちゃんのことだったら、ここでだって話せるはず。


「うんー」

 瑞輝は、周りを気にしながら頷いた。

「ごめん、深羽。先に教室に入ってて」

 そう言うと、あたしは、渉の後をついて行った。


 視聴覚室の中に入ると、渉の顔が真顔になる。

「哀華、瑞輝先輩のこと好きなんだって?」

「えっ!」

 まだ、深羽にしか話していないのにどうして知っているんだろう……。でも、知っている人がいるとしたらー。


 あたしは、ハッとした。

「ー比奈ちゃんに聞いたの?」

「うん。でも、好きになるのは勝手だけど、瑞輝先輩はやめとけよー」

 渉が、真剣な眼差しで見つめた。

「どうして?」

「どうしてって、あいつは比奈と付き合っているのに」

「そうだけど……」

 あたしは、唇を噛み締めた。

「……俺さ、二股かけられているって知ってから、知らない振りして、俺と一緒にいる方が多いように引き止めてきたけど、もう限界なんだ」

 渉は、寂しそうな顔をさせた。

「渉ー」

「俺、比奈と別れる!だから、寄りを戻さないか?」

 突然、渉があたしを抱き締めた。

「な、何を言ってるの?」

 急に言われて、あたしの頭がついていけない。

「今頃、気づくなんて遅いかも知れないけど、やっぱり、哀華じゃないとダメなんだ!」

 真剣な瞳で、渉はあたしの瞳を覗き込んだ。


 何だか、昔に戻ったみたいな感覚が押し寄せる。


「哀華、今すぐじゃなくていいから、考えといてくれないかな?」

 もう一度、ぎゅっと渉に抱き締められた。


 嫌いで別れた訳じゃないけど、前みたいに切なくドキドキする感じはなくなっていた。


 ガラッ!


 その時、ドアが開いて、誰かが入ってきた。

「哀華ちゃん?」


 あたしを呼ぶ声に、ハッとする。

「瑞輝君……!」

 あたしは、慌てて渉から身体を離した。

「……ごめん。邪魔しちゃって」

 瑞輝君は、罰悪そうな顔をさせると、すぐにドアから出て行った。


 どうしよう……。勘違いされちゃったー。


「あ、待って!違うの……」

 あたしが、慌てて瑞輝君を追おうとした時、

「哀華!行くなよ」

 渉が、あたしの腕を掴んだ。

「離して!誤解されたままになっちゃう」

 あたしは、無我夢中で渉の手を振りほどこうとしたけど、逆に身体を引き寄せられて、渉の唇があたしの唇に重なった。

「イヤッ!!」

 あたしは、思いっきり渉を突き飛ばす。


「ごめん、急にー」

「どうして、こんなことするの……?」

「哀華が好きだから、行ってほしくなくてついー」

 渉は、すまなさそうに目を伏せた。

「渉は、好きだったら、誰とでもキスするんだ?」

 あたしは、目に涙を浮かべながら問いかけるように言った。

「はっ?何、言ってるんだよ!」

「比奈ちゃんのことも好きだから、キスしたんでしょ!?」

「……」


 そこは、否定しないんだー。


「まだ、別れていないのに、こんなことするなんて、渉のこと信用できるわけないでしょ!」

 あたしは、身体を翻すと視聴覚室から出た。


 久し振りの、渉とのキス。でも、今はただ辛いだけしかない。


 誤解を解きたくて、特進クラスまで行ったり、帰りの電車で逢えるかなと期待していたけど結局、逢えずに翌朝になってしまった。


 昨日、誤解を解こうとしたのに逢えなかったなー。


 そんなことを考えながら、学校へ行くのに、とぼとぼと、駅まで歩いて行く。ホームには、もう電車が到着していた。


 あたしは、急いで電車に乗り込む。


「間に合って良かったね」

 あたしが、一息ついた時、瑞輝君が微笑みながら目の前に立っていた。

「お、おはよー。いつも、瑞輝君には恥ずかしいところ見られちゃうね……」

「あ、そっかー。昨日もそうだったね」

 瑞輝君にそう言われて、あたしは慌ててしまう。


 違う!昨日のことを言っているわけじゃないのに。


「き、昨日のことなんだけど……、渉とは何でもないの!」

 あたしは、必死に誤解を解こうとした。

「わかったから、哀華ちゃん。だから、落ち着いて」

 瑞輝君が、あたしを落ち着かせようと、子供の頭を撫でるみたいに、優しく撫でた。


 ドキンドキンー。


 どうして、こんなに優しくするの?寝言で彼女の

名前がでるほど好きなのにー。


 あたしは、何だか胸が苦しくなって、瑞輝君の手を払いのけてしまった。


「ごめんー。哀華ちゃんの髪、妹と同じでサラサラなものだから、つい撫でちゃって」

 瑞輝君は、苦笑いしながら頭をかいた。


 妹……。髪の事とはいえ、あたしのこと妹みたいにしか見ていないってことかー。だから、優しくしてくれたんだ……。


 チクンチクンー。


 急に胸が締め付けられる思いがして、思わず俯いた。


「そんなに嫌だった!?本当にごめん!」

「ううんー」

 あたしは、ただただ首を振ることしかできなかった。



「哀華ちゃん」

 昼休み、売店でパンを買って教室へ戻ろうとした時、比奈ちゃんが怖い顔で立っていた。

「比奈ちゃん……」

 あたしの顔が引きつる。

「話があるの。ちょっと、来てくれない?」

 そう言うと、比奈ちゃんは、さっさと先に歩き始まった。

 あたしは、慌てて後をついて行く。


 学校の裏庭に連れて行かれると、いきなり比奈ちゃんがあたしの頬をひっぱたいた。


 バチーン!!


 突然の出来事で、あたしは目の前が真っ暗になる。


「なっー、何するのよー!?」 あたしは、頬をさすりながら、比奈ちゃんを睨みつけた。

「渉に、瑞輝と付き合っていること言ったでしょ!?」

「……!!」


 とうとう、バレてしまったのか。


「渉に、別れようって言われたんだからね!」

「で、でも。比奈ちゃんは、瑞輝君とも付き合っているのにー。瑞輝君、いつも比奈ちゃんのこと想っているのに、可哀想だよ……。だから、渉と別れたほうがいいよ!」

 今まで溜まっていた、ありったけの気持ちをぶちまけた。

「何よ。あたしだって、瑞輝のこと想っているし。渉のことだって、あたしにとっては大切なの。あなたに、指図される筋合いないし!」

 比奈ちゃんは、思いっきり手を振り上げた。


 キャッ!また、ぶたれるー。


 あたしは、ぎゅっと目を瞑った瞬間、


「やめろ!比奈」

 聞き覚えがある声が、裏庭に響き渡った。


 あたしは、そっと目を開けた。


「大丈夫か?哀華ちゃん」

 あたしの目の前には、瑞輝君の姿があった。


 また、助けられちゃった……。


「瑞輝、離してよ!」

 瑞輝君に腕を掴まれながら、比奈ちゃんはもがいた。

「哀華ちゃんに、暴力しないって約束できたらね」

 瑞輝君は、強い口調で言った。

「どうして、この子の肩持つの!?」

 比奈ちゃんが、独りで喚く。

「俺さ……、比奈が他にも付き合っている人がいるかもって、何となく気づいてはいたんだ……」


 瑞輝君の言葉に、あたしと比奈ちゃんは、瑞輝君に目を向けた。

「だから、哀華ちゃんは悪くないよ。二股かけている比奈が悪い」

 瑞輝君は、寂しそうな顔をさせた。

「瑞輝ー、ご、ごめんね。そんな顔しないで……」

 さっきとは裏腹に、比奈ちゃんがしゅんとした顔をさせた。

「比奈……。俺達別れよう」

 突然、瑞輝君言葉に比奈ちゃんは少し唇を震わせた。

「あたし、渉君とは別れるから、そんなこと言わないで!」

 必死に、瑞輝君の腕を掴みながら叫んだ。

「比奈、ごめん……」

「ど、どうして……?ごめんって言うの?ただ、あたしは、瑞輝も渉も好きだから付き合っていただけなのに……」

 比奈ちゃんは、小刻みに身体を震わせながら、目に涙を浮かべていた。

「きっと俺より、比奈に合う人がいるよ」

 瑞輝君は、辛そうに比奈ちゃんから顔を背けた。


 可哀想だけど、自分のしたことの報いだ。


 瑞輝君の言葉に、比奈ちゃんは、涙をこらえながら無言で行ってしまった。


「瑞輝君、ごめんなさい……。あたしのせいで別れるようなことになて……」


 渉とは別れるにしても、瑞輝君とも別れるなんて思ってもいなかった。


「哀華ちゃんが、謝ることないよ。さっきも言ったけど、比奈が二股かけているのは、前から何となく気づいてはいたけど、自分でも半信半疑だったんだ。でも、さっきの比奈の哀華ちゃんに対する態度を見て、はっきり確信した」

 瑞輝君が、辛そうに肩を落とした。


 まだ、瑞輝君は比奈ちゃんのことが好きなのに、何てことをしてしまったんだろうー。


 何だか、自己嫌悪に陥ってしまう。

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