乾坤一擲
シーラは未収穫の柑橘類の畑に身を潜めながら自宅へ急いでいた。
柑橘類はゴブリンの忌避するものであり、この地方の人間とゴブリンの共存を可能にしていた。
しかし、シーラは日常の常識を盲信せず、以前辺境伯の領土が戦場だった頃の記録をまとめた本の内容を思い出していた。
これはスタンピード!?
平均的なゴブリンは女子供でも武装すれば十分に撃退できる。
しかし、ゴブリンの群れを単身で挑むのは鍛えらた兵士すら危うい。
シーラは自分が置かれた危機的状況を理解し、慎重に帰宅を果たした。
アナ「シーラ姉ちゃん!!」
再会したシーラとアナは抱きしめ合って互いの安全を確かめる。
シーラ「エレン!?アナ!エレンはどうしたの?」
アナ「確か村の市場に行くって言っていたけど...」
シーラに最悪の状況が頭をよぎる。
すると、ドアから、
エレン「お姉ちゃん達!?居る!?エレンだよ!」
ドアを開けると柑橘類の匂いを漂わせたエレンとカルムが立っていた。
カルム「良し!無事に着いたぞ!」
するとアナが
アナ「誰?この人?少し大きめなゴブリン?」
カルム「!?失敬な!!」
ミラドとゾーマとケヴィンは自分達の船に戻っていた。
ゾーマ「カルムのヤツがまだ戻ってないだと!?あの馬鹿どこをほっつき歩いているんだ!?」
ケヴィン「中央政府正規軍は俺達の船に何らリアクションをして来ない。
辺境伯の権限が無い状態での軍事権限はどうあるかと判断すべきか。」
ミラド「...総員戦闘配置並びに出航の準備をしておけ。
中央政府正規軍の攻撃行為あるいはカーネル騎士団が漁村に到達した時点で出航とする。」
シーラ「妹を助けて頂きありがとうございます。何とお礼を言えば良いか。」
カルム「うん、うん、まあ事態は急を要するからな、手短かに行こう。
えーとアナお姉ちゃんはどちらかな?」
アナ「私だよ。なんか用?」
カルム「...まあ、話を聴く限りお前だよな...
早速だがアナ、君が作図した海図を見せてくれないか?」
アナ「あ?ああ、こっちだよ。」
カルムはアナから提供された海図を眺めながら少し沈黙している。
アナは少し恥ずかしそうに、
アナ「...どうなんだよ、私が作製した海図は?」
カルム「率直に言えば未完成だ。
だが、未熟と言う意味では無い。
アナ、君なら分かるね?」
アナ「...ああ、海上での継続的な測量が足りていない。」
カルムは少し沈黙したのち、話しを切り出した。
カルム「...アナ、いや君達三姉妹で私達の船に乗らないかね?」
アナ「...どんな船なんだよ。」
カルム「はは、それはね...」
シーラ「いわゆる海賊船ですね。」
カルム「!?」
カルムは素直に驚きを顔に出し、同時に浮かび上がる疑問を口にした。
カルム「...何故そう考えるのか理由を聞かせてくれるかな?」
シーラ「推測の部分が大きいですが、おそらくあなたは辺境伯公認の私掠船の船員だと考えられます。」
シーラは淀みなく自分の思考を口にした。
シーラ「「私が見かけた村の近くに停泊している船は、明らかに軍艦を改造したものです。
正規軍のものではないけれど、完全に無法海賊の船でもない、、、
しかも今現在、辺境伯の権限が停止されている状況にて、堂々とこの村に停泊している。
これは、辺境伯から私掠許可を得ていた船が辺境伯領土での活動をしていると考えるのが自然な流れです。」
カルムは沈黙をしながらも実直に関心していた。
シーラ「多くの国と国境を接する領土を管轄する辺境伯の戦略の一つが公認の傭兵団や私掠船です。
王都で権力を振るう勢力はどうしても貴族的で硬直した組織運営になってしまいますが、その現状を打破し、領土拡大や有利な公益をもたらしたのが辺境伯です。
同時にその在り方が中央との確執を産み、現在の辺境伯の権限停止し繋がっていると私は考えます。」
カルム「見事だ。王都でただ暮らしているだけの人間には思いつかない生きるための力が備わっていると言える。」
シーラ「...辺境伯の権限が停止されているということはあなたがたを守る後ろ盾が無い事を意味します。
そんな船に乗り込んで私にどんな未来があるのでしょう?」
カルム「もっともだ。ただ夢をみるお嬢さんでは無いな。
結論から言おう。わしは外洋に出るべきだと考える。決めるのは船長だがな。」
シーラとカルムが会話をしていると村の方から爆音が聞こえる。
ケヴィン「キャプテン!正規軍が村に対して砲撃を始めた。
カーネル騎士団への牽制?ゴブリンの掃討?どちらともとれるが戦闘行動を開始した。」
ゾーマ「ひでーな、自国の領地の村を焼き払うのかよ。海賊と変らねーじゃねか。」
ミラド「...船を陸から切り離せ。
正規軍の射撃射程外の距離を保ちつつ、交渉があれば応じろ。
辺境伯の通行許可証がまだ通用するかもしれん。」
カルム「もう長々と説明する余裕が無くなったな。」
シーラが立ち上がって、海図を手に持ち、
シーラ「カルムさん、一時待ってください。」
カルム「...手短かにな。」
シーラはアナとエレンを別の部屋に連れて行き、2人を抱きしめる。
シーラ「アナ、エレン、3人で海の上で死にましょう。」
漁村に正規軍の砲撃が続き、あちらこちらに火の手が上がる。
カルムは焦りを滲ませる。
部屋のドアが開く。
カルム「おい!!外は...
はは、似合うじゃないか!」
三姉妹は冒険者の格好に着替えていた。
シーラは海図など最小限の荷物を持ち、カルムに告げる。
シーラ「船に案内してください。」




