外患滅落
とある漁村の酒場にてスキンヘッドに入墨がある海賊船員ゾーマと海賊頭目ミラドが酒を呑み交わしながら世間話をしている。
ゾーマ「この片田舎の漁村にもドラゴンの話題が届いているようだぜ、お頭!」
ミラド「...ああ、それに伴って、隣国の行軍、ゴブリンのスタンピード、魔獣の発生、...俺たちのビジネスのネタは尽きないな。」
ゾーマ「まさにドラゴン様々ってヤツでしな!
ところでお頭、ドラゴンってのは結局なんなんですかい?」
ミラド「...さあな。俺も見た事は無い。だが、ドラゴンと並ぶとされる厄災ならガキの頃、目の当たりにしたことはある。」
ゾーマ「?へぇ?何です?それ?」
ミラドとゾーマが会話しているとドレッドヘアで長身の黒人船員ケヴィンが真面目な顔をして報告に来る。
ケヴィン「キャプテン、悪いニュースだ。」
場面は変わり、小柄で少し禿げた中年船員カルムは漁村に買い出しに訪れていた。
カルムは柑橘類とオリーブ油を販売している三姉妹の三女エレンに品物を勧められる。
エレンは指差しながら
エレン「おじさんはあの船から来たの?」
カルム「ん?ああ、あの辺に停めてある船から来たけど、ここからじゃあ見えんだろう?」
エレン「見えるよ、あの軍用船みたいのでしょう?」
カルム「君は目がいいんだな。普通の人にはみえんよ。」
エレン「へへ♪私は天体観測だって出来ちゃうんだから♪
あんな大きな船で来たのは向こう側の大陸に行くの?」
カルムは少し呆れて、
カルム「...君はこのあたりの海洋地図を見たことがあるのかな?
確かに向こう側にある大陸と近くにあるように感じるかもしれない。
だがなぁ、この海域は海の魔獣さえ棲息を拒む魔の海域で有名なんだ。知らなかったか?」
エレン「え?通れるよ?」
カルム「へぇー、そりゃあ凄い、君が船を操縦するのかい?」
エレン「私が渡った訳じゃなくて、大きな商業船が魔の海域を通って数ヶ月後にこの村に戻って来た事があったよ。」
カルムは聞いた情報に驚愕する。
エレンとカルムの会話の続き。
エレン「商人の人達が大勢でこの村に泊まりに来たことがあるんだ。3か月ぐらいかな?
そのときに海流の流れとか雨の降り方とか調べていたみたい。
アナなんて商人の人達の海図を見様見真似で作っちゃったんだよ。」
カルム「!!アナ!?」
エレン「私の2番目のお姉ちゃん。
アナが言ってたけど、海図を作るときに気をつけなきゃいけないのは記録する内容と尺度を全部一緒にする事だって。
いろんな国の海図の本があるけど、みんなバラバラで勉強するのも最初からやり直しなるってアナが言ってたよ。」
カルム「ふむ。アナ姉さんの言う通りだな。
アナ姉さんはどんな尺度がいいと言っていたんだい?」
エレン「確かメートル法?だよ。」
カルム「うちと同じ!?」
カルム「うちの船は他から強奪、じゃなかった、再利用している訳じゃなくて、船長が一から船を設計してドッグで組み立てをしているんだ。」
エレン「すご〜い!船を全部わかっているから修理もすぐ出来るね。」
カルム「その通り!確か向こうの大陸もメートル法が主流だったな。」
エレン「でもアナは海図ばかり描いていて家の仕事全然手伝わないんだよ。
1番上のシーラお姉ちゃんがボヤいてた。私も海図を描きたいのに、って。」
カルム「はは、それはシーラお姉ちゃんが可哀想だな。
そのシーラお姉ちゃんは何をしているんだい?」
エレン「収穫したオリーブ油とかを行商人に買い取ってもらっていると思うよ。」
場面が変わり、シーラが行商人と交渉している。
シーラ「今回は買い取れないとはどういう事ですか!?」
行商人「...別にあんただけに悪い待遇を押し付けている訳じゃない。
ドラゴンの騒動は聞いているだろう?
国際交通路の流通が妨げられてギルドのやり取りが出来ないんだ。
わしのような下っ端じゃ値段を決められないんだよ。」
シーラと行商人のやり取りの続き。
シーラ「私達には生活があるんですよ!
何とかお金の融通をきかせられないのですか!?」
行商人「今はこの辺りを治めている辺境伯が権限を停止させられているから領民である事を担保にはお金の貸し借りは出来ないよ。」
シーラ「そんな!土地の使用代は請求されるのに!」
行商人「...これは独り言だけどね。人買いならカネは持っていると思うよ。」
シーラ「!!!妹達を奴隷にしろと!?」
行商人は余計な事を言ってしまったと後悔する素振りをみせて店の奥に引っ込んでしまった。
シーラは海を眺めながら停泊している軍艦を見詰めて1人ごとを呟く。
アナは何で私の仕事を手伝ってくれないのだろう。
...違う、私に姉や寄りかかれる人がいればきっとアナやエレンのように振舞っていただろう。
アナやエレンはもう1人の私なんだ。
3人で冒険者の服を着たのは村のお祭りの時だったかな。
考えてみれば女が自立して旅に出るなんて馬鹿げている。
自分の意思で行動するなんて私にあり得るの?
ドラゴン?辺境伯?私にとって何が違う?
先に生まれた大人や村に来た宣教師は結局この世界を教えてくれなかった。
誰も私に質問しなかった。
お前は何がしたい?と。
漁村の酒場でミラドとゾーマとケヴィンが会話している。
ケヴィン「中央政府はドラゴンの件で辺境伯を召集した際、辺境伯の悪事を暴露したという体裁で辺境伯の権限を一時的に剥奪する事になったようだ。」
ミラド「...ブタに裏金をはたいて手にした通行許可証がゴミになったか...。」
ゾーマ「か〜ついてねーな!
ドラゴンの騒ぎが裏目に出ちまったか!」
ケヴィン「これまでのビジネススタイルではやっていけないぞ、キャプテン。」
ミラド「...上納金を納める前で良かった、と言ったところか。」
場面は変わり、三姉妹の自宅の屋根で次女アナが寝転がっている。
アナ「あ〜陸からの測量じゃ情報が足りないよ〜。
また商業船とか村に来ないかな〜。」
仕事の手伝いもせずに屋根上で遠くの景色を見ていると、沿岸部から正規海軍が現れる。
アナはこれはチャンスかとはしゃぐが、一方で陸の街道方面から軍隊の旗が現れる。
アナ「なんだあれ?見た事ないぞ?」
酒場でゾーマとケヴィンが会話のやり取りをしている。
ゾーマ「だからよ、ミルドランの軍艦なんざびびってないで沈めちまえばいいんだよ。」
ケヴィン「ウチの戦力が正規軍に劣るとは考えていない。
しかし、正規軍と戦った後はどうする?無傷ではすまんぞ。
それでは同業者の餌食になるだけだ。
正規軍との戦闘は避けるべきだ。」
ミラド「...」
ミラドは村の様子がおかしい事を察する。
すると突然、ゴブリンの群れが何匹か酒場に侵入して来た。
酒場に侵入して来たゴブリンたちにゾーマ達は応戦する。
ゾーマ「なんだ!?なんでゴブリンの群れが村にやって来るんだ?」
ミラドはゴブリンを観察する。
非武装のゴブリンの群れ、スタンピード?、しかし人間の集落に突然現れるのは落雷や山火事だけでは無く、、、
状況を予測したミラドは
ミラド「...ケヴィン、村の高い位置から遠方を確認しろ。」
ケヴィン「!?了解した!!」
ケヴィンは高台に登ると驚愕する。
ケヴィン「隣国のカーネル騎士団!?越境して来たのか!!
ゴブリンは行軍に刺激されたスタンピードか!!」
ケヴィンは同時に沿岸部に正規軍の軍艦に気付き、ミラドの元に報告に行く。
ケヴィン「キャプテン!!カーネル騎士団だ!!おそらく威力偵察だと考えられる!!
問題はそのカーネル騎士団を武力威嚇するために沿岸部にいるミルドランの正規海軍だ!!
数は軍艦1,フリーゲート3,小型艇目算で6だ!」
ミラド「...退路を確保するぞ。」
ゾーマ、ケヴィン「了解」
ミラド「酒代はここに置いておくぞ。」
ミラドはゴブリンにすでに撲殺された店主の横に酒代を置いて酒場を後にする。




