7、眩しい日常
こうして私は隣に座る弁慶と一緒に夕食を共にした。
テレビにはパリーグの開幕戦の模様が映し出されている。
盛り上がるスタジアムの歓声がこちらの部屋まで響いてくる。
弁慶はそれほど野球に興味を示す様子はないが、私を真似て時折画面を見ている。独り身の私は最初興味なんてなかったけど、退屈凌ぎに見ていると気付けばテレビの前に釘付けになるほど野球観戦にハマっていた。
今日は弁慶も一緒だから、騒がず叫ばず落ち着いて選手たちの姿を見守る。
しっかり味の付いたオニオンスープが美味しい。
自分で料理をして自分で食べていても、あまり味わって食べることがない。
でも、これは噛み締めるようにゆっくり食べたくなる味だ。
ワンアウト満塁のチャンスに私の大好きな三番バッターがバッターボックスに立つ。
足は瞬足で盗塁王を獲得した年もあり、去年は20本以上のホームランを放ちクリンナップの仲間入りを果たした中堅選手。
自然と画面に釘付けになって期待せずにはいられなかった。
「野球、詳しいんですか?」
「実際に球場まで足を運んで観戦する程じゃないけど、そこそこに楽しんでいるわよ」
私は弁慶の問いに控え目に答えた。お酒が入るといつもはタオルを回して応援しているのは内緒だ。
この家には何着も選手ユニフォームやメガホン、タオルが置かれているので推しチームが何処かまで丸分かりになっているだろう。
でも、私は普段声を上げながら声援する程の野球好きであることを隠した。
「彼、打ちますよ」
何を思ったが、弁慶は唐突にそう宣言した。
「何? 予言ってやつ?」
「はい、そういう雰囲気がします」
「未来のことなんて分からないわよ。相手は開幕投手を任されたエース。そう簡単に上手く行かないのが野球の難しさよ」
簡単に打つなんて言うから、私は意地になって解説をした。
外角のスライダーを見逃し、高めのストレートに振り遅れてあっという間に2ストライク取られる。
それでも、弁慶は自信満々に選手の動向を見つめていた。
明らかなボール球とファールを挟んだ7球目。
甘めのストレートが真ん中に入ってきた。
私はその瞬間、息を呑む。
まるでそれが運命づけられたかのようにバットがボールへと向かって真っすぐに伸びていく。
バットを振り抜き、バットがボールに当たる刹那、一瞬スローモーションに画面が映った。
高々とスタジアムを駆け抜けていく白球。
一斉に皆がボールを目で追い、大きな歓声が一気に湧きあがる。
私は信じられないものを目の当たりにしたように立ち上がっていた。
そして、右中間スタンドに突き刺さる大飛球。
観客の声援に応える、衝撃的な逆転満塁ホームランだった。
「嘘……本当に入っちゃった……」
「言った通りになりましたね」
「本当よ……弁慶ったら凄いわ凄い、あはははははっ!!」
気付けば何時ものように私は豪快に喜び、予言を的中させた弁慶の両腕を掴んでいた。
行きずりと同居人と一緒に喜びを分かち合い、野球観戦を続ける。
一緒に食事をして、一緒にお酒を呑む相手が家の中にいる。
それは私とって、味わったことのない感動的な一時だった。
そして、翌日の朝、私は弁慶にスペアキーを手渡した。私も記憶探しを手伝うと言葉を添えて。
本当の意味で運命が回り始めた……そんな予感がするワンシーンだった。




