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第三十九話 物語に酔う

 二人は、それぞれ村で有名な乱暴者との結婚を決められていた。彼女たちはそれを嫌い、村を飛び出した。村から出た彼女たちに、街の人々は厳しかった。まともな仕事には就けず、酷い仕事でボロボロになりながらも、二人は何とか暮らしていた。

 しかし、あるとき二人は常春の国の噂を聞いた。それはいつも温かく、誰もが幸せに暮らせる国だった。彼女たちは常春の国を目指し旅に出た。


 物語自体はありふれたものなのに、ファブルの楽器と語り口が絶妙で、いつの間にか二人の女性の苦しみや悲しみに引き込まれていた。


 苦しい旅の末に二人は常春の国の入り口だという、冬の川の前に辿り着いた。彼女たちはついに幸せになれるのだと、明るい笑みを浮かべ、手を繋いで川へと入っていった。


 暖かな午後の日差しが差し込む部屋にいるのに、まるで暗い冬の川に立ち、足元から凍えるような冷たさが伝わってくる気がした。


 彼女たちは、二度とこちらの世界に戻ってこなかった。それがこの物語の終わりだった。


 「うっ、うっ、うっ……」


 あちこちから、すすり泣く声が聞こえてきた。ミルカもだし、私もだ。


 「ひどいです……。せっかく、二人で頑張ってきたのに……」


 ミルカは目元を拭いながら、鼻をすすった。


 「きっと、二人は常春の国で幸せに暮らしたのよ」


 私は気安めにそんなことを言った。そんな風には思えなかったけど、ミルカを慰めたかったし、自分もそう信じたかった。

 みんなが涙を拭ったり、鼻をすすったりしていると、今度は春のうららかな森の中のような、陽気な曲が流れてきた。


 「泣いた後は、笑わせてやるさね」


 ファブルが次の物語を語り始めた。



 二つ目は、二人の少女が森へ探検に出かける、ただそれだけの楽しい物語だった。最初の話のような、重い事情は何もない。明るく温かな森には、緑いっぱいの美しい景色が広がっていた。

 彼女たちは果物を見つけては頬張り、花を見つけては蜜を吸った。どれも村では見たことのない珍しいものばかりで、果物も花の蜜も、今まで味わったことがないほど美味しかった。


 少女たちが果物を食べる場面では、ミルカも目を輝かせて焼き菓子を頬張った。花の蜜を吸う場面では、蜂蜜酒を飲んでいた。私もつられて、ついつい杯を重ねてしまった。何だか体が、ポカポカしてきた気がした。


 森の中には奇妙な姿をした動物がたくさんいたが、みんな優しく陽気だった。お腹がいっぱいになった二人は、そんな動物たちと駆けっこやかくれんぼをしたり、泉で遊んだりして楽しく過ごした。

 動物たちの中で、アナグマは道化役だった。駆けっこで近道をしようとしてクマを踏んづけ、追い回されたり、木の実を欲張って抱え込みすぎて落としてしまい、拾っているうちに大蛇に襲われたり。何をしても失敗ばかりだった。

 弾むような調べが、その滑稽な姿をいっそう引き立てていた。


 「うふふっ」「クスクス」


 ファブルの語りは、その様子が目の前で起きているかのように生き生きとしていた。客の女性たちは笑いを堪えきれず、目に涙を浮かべている。

 ミルカもテーブルをバンバン叩いて笑っていた。そんなミルカの姿を見ていると、私まで嬉しくなってきた。この世界に来てから、理不尽なことや辛い思いもたくさんしてきた。でも、ミルカとこうして笑い合っていると、どんなことだって乗り越えていけるような気がした。こんなに笑ったのは、日本にいたとき以来かもしれない。


 少女たちは、そうしていつまでも森の中で楽しく暮らした。そんな言葉で、物語は締めくくられた。


 あれ? 少女たちは家に帰らなかったの?


 そんな疑問が一瞬頭をよぎったけど、楽しい気分に浸っているうちに、いつの間にか忘れてしまった。

 隣ではミルカが笑っていた。顔は真っ赤で、首筋には汗まで浮かんでいた。うわっ、エッロ~い。

 私も身体が熱くなり、頭がふわふわしてきた。蜂蜜酒と焼き菓子の甘さが、幸せな気分をいっそう膨らませてくれた。


 酔ってるのかな? でも、どうでもいいや。だって今、何だかすごく楽しいんだから。


 「ミルカぁ~、大好き~」


 「リンさぁ~ん、私もですぅ~」


 私がミルカをぎゅっと抱きしめると、ミルカも抱き返してくれた。


 「きゃ~、きゃ~」「あははは」


 とにかく、はしゃいでいた気がする。それから誰かに話しかけられて、どこかを上がったような。そこから先のことは、よく覚えていない。



 窓から差し込むオレンジ色の日差しが、顔に当たっていた。私はゆっくりと目を開けた。ここはどこだろう。狭い部屋だったが、牢屋ではない。そこはベッドが一つあるだけの、宿屋の一室のようだった。

 体を起こして周りを見渡すと、床には私とミルカのチュニックやスモッグが脱ぎ散らかされていた。

 サッと血の気が引いた。

 起こした半身を見下ろすと、毛布がずり落ちていて、自分が裸なのが分かった。

 そして、隣にはひと一人分の膨らみがあった。そっと毛布をめくってみると、そこにはミルカが寝ていた。ミルカも裸だった。


 まさか、ヤッちゃった?

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