第三話 お次は、巨大なヒキガエル?
今度は、一体何なのよ!
でも、誰かが危ない目にあっているなら、見過ごせない。
私はそちらに向かって走った。
スカートや上着に入り込んだ空気が風船のように膨らみ、体を引っ張って、さっきより動きづらい。
これじゃあ、スローモーションみたいな速さでしか進めない。
日本の公園や学校ではなかなか見ないような太い木々を避けながら、声の方に進む。
そして、目の前の藪を押しのけると、それが見えた。
牛のような大きさの、あれはヒキガエルでいいのかしら?
その口から、白い足が伸びている……。
って、もう食べられちゃってる?
私はなるべく急いで、ヒキガエルまで走った。
ヒキガエルは私に気付いているはずなのに、動く気配がない。
時々モチャっと口を動かしているだけ。
口に物が入っていると、動けない? ……だったら。
背後へ回り込み、思い切り蹴る。
……そのつもりだったけど、足はひどくゆっくりとしか動かない。
こんなので効くの?
思ったよりヒキガエルが揺れるが、口を開けない。
だったら、吐き出すまで蹴り続ける。
「吐け! 吐け! 吐け! 吐け……」
ブニ、ブニ、ブニ、ブニ……。
何発目かで、ヒキガエルが大きく体を震わせた。
「ゲコッ!」
ついに口から少女が吐き出され、地面へ転がる。
手を付いて咳き込む彼女は、映画に出てくる古い時代の欧米の村人みたいだった。
クラシックな生成り色のワンピースを着て、亜麻色の髪を後ろで一本の三つ編みに結んでいる。
でも、彼女をゆっくり眺めている余裕はなかった。
動きが遅すぎて気づかなかったけど、ヒキガエルがこっちに向きを変えていた。
そして、ヒキガエルの口の中から舌が飛び出してきた。
私の目には遅く見える。
けど、こっちも空気に邪魔されるので、気を抜くと避けるのが間に合わなくなりそう。
ベキッ。
嘘でしょ!
あの遅く見える舌が当たっただけで、木の皮が弾けた。
太い木が十センチくらいは削り取られている。
あんなの食らったら、ひとたまりもない。
ヒキガエルは舌を引き戻すと、今度は連続で舌を撃ってきた。
近付かなければ、当たらないけど、近付けない。こっちには反撃手段がない。
舌を動かすだけのヒキガエルと、身体全体でそれをかわす私。
どっちの体力が尽きるかは、考えたくない。
舌の攻撃の中、女の子を連れて逃げるのも無理だろう。
……待って。あの子、腰に小さな斧みたいなのを下げてる?
他に刃物は見当たらない。
舌をかいくぐって、女の子に近づき、斧を取って、ヒキガエルの舌を切る。
それしかない。
でも制服のまま、これ以上近づくのは難しい。
……恥ずかしがってる場合じゃない、よね。
この場には、女の子とヒキガエルしかいないんだから。
私は制服を脱いで、女の子まで走った。
スカートや上着が膨らまない分、やっぱり全然動きやすい。
ヒキガエルの舌が飛んできても、余裕で避けられる。
そのまま女の子のところまで辿り着くと、手斧を取る。
そして、またヒキガエルが舌を伸ばしてきた。
ステップで横に回る。
目の前で伸びきった舌に、手斧を振り下ろす。
ビチッ。
思ったより先端に近いところになったけど、舌はスパッと切れた。
ビチビチ。
地面に落ちた舌の先は、蛇かミミズがのたうつように、出鱈目に動き回っている。
根元側は、ヒキガエルの口の中に引き戻されて、しばらくしても出てこない。
ヒキガエルは痛みを感じないのか、そのままの姿勢でピクリとも動かない。
私はヒキガエルに注意を向けながら、女の子に手を貸して立ち上がらせる。
「ありがとうございます……」
少女の瞳に私が映る。
この子も天使と同じように、物凄くゆっくり話している。
それに合わせるように、私も意識をゆっくり落とし、彼女の速さに合わせる。
「いいから、早く離れま……」
私は、彼女のお礼を遮り、離れようとしたのだけど。
「……変態さん?」
「あんたの為に、やってんでしょうがぁぁぁ!」
私は思わず、彼女の頭をはたいてしまった。
「痛いです~」
それから私は制服を着直したが、彼女はまだ痛がっていた。
「それで、あなたはここがどこだか分かるの?」
「ここはウチの村の裏の森です。変態のお姉さ……」
「私はリン。そう呼んで」
私は彼女をひと睨みしたが、彼女は嬉しそうに笑っていた。
彼女は私より背が低く、どこか子供っぽい雰囲気がある。
きっと歳も私より一つか二つ下だろう。
「私はミルカです~」
いい笑顔だ。カエルの涎まみれなのに。
ちょっと天然なのかも。




