第二十八話 ノー、絶対、ノー
「ああ、何かこれ、強さに関係なく、短い間に何度も何度も攻撃を受けると、しばらく魔法が途切れるらしい。それで服を着ていると、全身でずっと魔法が使われ続けて、すぐに途切れるってわけだ」
「つまり?」
嫌な予感に私は首を、ギギギと曲げて、男の方を見る。
「服を着てたら、魔法は消えちゃうぜ」
男は憎たらしい笑顔で、親指を立てた。
ミルカは何を期待しているのか、目を輝かせている。
落ち着け、私。
深呼吸して、気持ちを落ち着ける。そうしてから、私は口を開いた。
「じゃあ、いらない」
私はハッキリ拒否したのだけど。
「おいおい、勿体ないぜ、こんな機会。とりあえず、着てみたらどうだ? 気持ちが変わるかもしれないぜ」
「そうですよ、リンさん。着てみましょうよ。私も魔法がどんな風になるのか、見たいですよ」
男とミルカは、こんなことを言ってきた。
男が興奮しているのが気持ち悪い。ミルカも興奮しているけど。
「……ちなみに守りの魔法って、色が付いていたりは?」
私は最後の希望に賭けて、聞いてみた。
「もちろん、透明だ。その方が、いいじゃないか」
誰にとっていいんだ!
「やっぱり、絶対無理!」
私は胸の前で両腕を交差させて、絶対拒否のポーズを取った。
「後であのとき買っておけば、って思うかもしれないですよ?」
「そうだぜ。俺の期待をどうしてくれるんだ!」
ミルカと男が、やんやと口々に勝手なことを言う。
いくら言われたって、そんなの着れるかーっ!
そんな恥を晒すくらいなら、死んだ方がマシよ。
私は魔法の鎧は完全拒否して、革のズボンと上着を注文した。
またあの男は、採寸の時に触ってきたので、蹴っ飛ばした。
蹴られてもデレデレして、性懲りもなく触ろうとするので、さらに三回ほど蹴ることになった。
代金は、最初金貨十枚と言っていたけど、最後には金貨六枚でいいと言い出した。
何か、いいことあったの?
それから、憤慨した私は振り返りもせず、ミルカは未練タラタラで店を出た。
「ふうっ」
私は革工房で疲れて、ため息を吐いた。
そんな私を、ミルカは何か言いたげに見ていたが、何も言わなかった。
目的だった革ズボンが片付いたけど、そのまま私たちは職人街で買い物を続けた。
私はリネンの布と紐、それと剣を買った。
リネンは下着を自作するためだ。
ミルカには洗い過ぎだと言われているけど、やっぱり毎日替えたい。
仕立屋に頼むとお金がかかるので、簡単なものを自分で作ろうと思ったのだ。
それと剣は、ボガードを見て、旅を続けるなら必要だと思ったから。
あまり重い物は振り回すのも、持ち歩くのも大変だから、長さの割に細い物にした。
加速中なら、横に振るより突き刺す方が、空気の抵抗が少ないからだ。
ミルカはさっきとは違う工房で、鞄を買っていた。
職人街から大通りに戻ってきた私たちは、何となく通りを歩いていた。
そこで、ふとある建物に私の目が止まった。
それは円筒形の石造りの塔だった。横幅は周りの建物と変わらないのに、高さは五階建てくらいある。通り沿いの三階建てくらいの建物の裏にあるのに、その姿が通りからも見えていた。
「あの塔、何かな?」
私はミルカに聞いてみた。
「ああ、あれは知識の神ミ―ミラ様の神殿ですよ。丸い塔っていうのも、可愛いですよね」
ミルカの返事に私は考えた。
知識の神の神殿なら、きっと色々な知識が蓄えられているハズ。
「ねぇ、知識の神の神殿だったら、"彼方からの道"やドラークス様のことも知ってるんじゃないかな?」
「う~ん、中に入れてくれますかね」
「ダメかな?」
「ミーミラ様の信徒でもないですからね。でも、行くだけ行ってみましょうか?」
「そうね。ダメもとで行ってよう」
私たちは、通りの建物を回り込んで、知識の神の神殿へ向かった。
塔の入口は、別に巨大な門とかではなく、カーターの店と同じくらいの普通の大きさだった。
ただ、石造りの入口の上には、フクロウのような絵が彫られていた。
木製の扉は閉まっている。
私はノックしてみた。
しばらくして、扉が開く。
顔を覗かせたのは、フードを被った女性だった。生成りの長衣を来ており、袖口や襟回りには刺繍で飾られていた。
彼女は私たちの顔を見て、不思議そうな顔をする。
「どなたかしら?」
彼女は落ち着いた声でそう言った。何となく、くだけた言葉を使うのは躊躇われた。
「お約束もなくすいません。私たち、"彼方からの道"について知りたくて、旅をしています。エルバーデンのミーミラ様の神殿なら、何かご存知だと思って訪ねたのですが」
彼女は少し考えてから、手招きをした。
「入りなさい」




