第二十七話 魔法の鎧
ガステールに絡まれた日、店に戻るとカーターがいた。彼は私たちに気づくと、夕食に誘ってくれた。
何となく、女の子二人を連れていくのだから、オシャレなお店だろうと勝手に思っていた。
でも、連れていってくれたのは、昨日と同じお店だった。失礼だけど、ちょっとガッカリ。
「はははは。身内だけなら、大体ここなんだよ。値段のわりに味もいいし、店主も信用できる。商人仲間と話したい時には、彼らが集まる店に行くけどね」
オシャレな店じゃない、なんて苦情を言う気はない。でも、せっかく大きな街なのだから、毎日違う店に行くと思った、と言ったらカーターに笑われた。
そもそも、日本みたいに値段がきっちり決まっているわけじゃないし、その日に何が食べられるかも、行ってみないと分からない。知らない店だと、メニューも値段も色々心配みたい。安心して食べようと思ったら、お店も決まってくるのかも。
「ドラークス神殿から逃げ出したり、衛兵に絡まれるとは、散々だったね」
カーターは、そう言って慰めてくれた。
「はい。それで私たち、神殿以外に当てがなくて。カーターさんは、どなたか詳しそうな人を知りませんか?」
「ふむ。すぐにはムリだけど、この街にいる間、機会があれば商人仲間に聞いてみよう」
「お願いします」
私はそう言って、頭を下げた。
「リンさん、折角エルバーデンまで来たんだし、明日は買い物をしませんか?」
ミルカが私の袖をゆすって、聞いてきた。
カーターもすぐに紹介してくれる、っていうわけでもないし、それもいいかもしれない。
「そうね、エリスに聞いた革職人のところも、行きたいし」
この日は、それからカーターの店に戻って、休んだ。
翌日、私たちは職人街に向かった。
そこは、大通りから三本奥に入った通りで、鍛冶師が金属を叩く音や、木工職人が木を切る音が響く、騒がしいところだった。いくつかの建物には、金槌や鋸、糸巻きなどの看板が掛っていた。また、戸口が開け放たれて、中で何をしているか見えるところも多い。
私たちは、看板を見たり、中を覗いたりして、革職人を探しながら通りを進んだ。
「すいませーん。ここって、革職人ジャーキンさんの工房ですか?」
私はそれらしい店を見つけて、中に声を掛けた。
「ああ、そうだよ。何か用かい?」
返事をしたのは四十代ぐらいの、顔の皮膚が荒れて、ところどころひび割れた男だった。
「一年前、エリスさんという女性に、革のズボンを作ったと聞いています。私にも、同じものを作って欲しいんですけど」
私がそう言うと、男は顔を顰めた。いかにもやりたくない、という顔だ。
「アレは面倒臭かったんだよな。何だって、女がズボンなんか、はこうって言うんだ。スカートはいとけよ」
そう言う男に、私は自分の腰の小剣を叩いて示す。
「旅をしていると、女でも狼と斬り合うこともあるんです。スカートが絡まって、食べられたりしたくないですから」
何だか、この件は前にもやったことがある気がする。
男は少し考えてから、口を開いた。
「戦うためだっていうなら、もっといい物がある。魔法の鎧だ」
「魔法の鎧ぃーっ。凄い見せて下さい!」
ミルカが叫ぶ。私も、魔法の鎧と聞いて声を上げそうになったけど、ミルカに先を越されて、タイミングを逃した感じになった。でもきっと高いだろう。そんな物を私たちが、買えると思っているのだろうか。
工房の真ん中には大きな作業台があって、そこには仕掛りの革が広げられていたのだけど、男はそれを端へ寄せた。それから奥に行って、木箱を取ってくる。何というか、お歳暮の海苔の箱くらいで、鎧が入っているようには見えなかった。それでも魔法の鎧という言葉に、私も期待を寄せてしまう。
男は作業台の上に木箱を置くと、蓋を開けた。私とミルカは、ワクワクしながら覗き込む。
は?
それは一見して、鎧には見えなかった。金色の湾曲した金属のプレートが三つ。それと何本もの革紐が入っていた。男は、両手それぞれに中のプレートを取り出して、作業台に並べた。革紐はその金属プレートに結び付いているようだった。
さらに、最後に残ったプレートが出されて、作業台に置かれた。先の二つが近く、最後の一つが少し離れて、二等辺三角形のような配置だ。何か意味があるのか、それぞれのプレートについた革紐を横や上下に広げる。
嘘でしょ!
信じられなかった。
それはブラとパンツに見える。それもブラは胸の半分しか覆わないし、下は際どいところだけ、後ろなんてTバックというよりただの紐だ。サンバの衣装だって、こんな攻めた面積じゃない。
しかも、ブラのすごく微妙なところに、ピンクの小さな丸い宝石みたいなのが嵌っているし、下は同じ色の宝石がわざわざ縦長にカットされて付いている。こんなの、悪意しか感じないよ。
「ちょっと何が魔法の鎧よ! 裸同然じゃない!」
真っ赤になって怒る私に、男は嬉しそうに話し出す。
「問題ない。これは魔法の道具なんだ。これを付ければ、守りの魔法が身体を覆う。金属鎧ほどじゃないが、しっかり剣や槍から守ってくれるぜ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「本当は金貨千五百枚する品だが、なかなか売れないからな。アンタになら、金貨十五枚で売ってやるぜ」
私の非難もなんのその。男は得意そうにそう言ってきた。
「馬鹿でしょ! こんなの買う人、いるわけないじゃない」
私はそう言ったのだけど、その値段にミルカが食いついた。
「リンさん、私も半分出しますから、買いましょうよ。魔法の鎧がそんな値段なんてお買い得ですよ!」
「何言ってんのよ! ミルカ、アンタが着るの?」
「えっ、こんな恥ずかしい恰好。私はできませんよ。でも、リンさんはこういう、変態……動きやすい服、好きじゃないですか」
「はぁ~っ、喧嘩売ってる? そうだ、この上に服を着れば?」
ミルカと喧嘩になりそうなところで、いい案が浮かんだ。何も、これしか着ないなんて、することない。お守りのようなものだと思って、服の下に付ければいいんだ。しかし男の言葉で、私の案はアッサリと否定された。




