↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/38

第二十四話 ドラークス神殿にて

 エルバーデンに着いたその日、酒場から出た私たちは、カーターの店に泊めてもらった。大通り沿いでは

ないものの、その一本奥で、立地は割と良さそうだった。この辺の建物は、みんな通りに面した間口が狭くて、その代わり奥行きがあって、縦長になっていた。

 彼の店も同じようになっていて、一階は売り場ではなく、事務所になっていた。その奥には常駐の人が住んでいて、二階にはカーターの寝室と、私たちが借りた客室がある。その上は屋根裏で、必要な時に誰かが泊まることもあるらしい。

 今回、カーターはエルバーデンに一、二週間滞在するらしく、彼がいる間はここに泊まって良いと言われた。ここでは、家事をやってくれるおばちゃんが通いで来るらしく、朝食の用意と掃除・洗濯はお願いしていいらしい。宿を取る必要がないのは、すごく助かる。



 翌朝、私たちはドラークス神殿に行った。

 北門近くにあったのだけど、ちょっと変わっていた。石造りで街壁と一体化していて、神殿自体はそれほど広くはないけれど、高い塔が一つあった。塔は誰でも登ることができて、その上からは街中はもちろん、街の外まで見渡せるようになっているという。

 私たちが神殿の正面に回ると、扉が開いていた。というか外れて立て掛けてあった。


 「すいませーん」


 私は外から呼び掛けてみた。

 しばらく待ったが、誰も出てこない。奥に人の気配はあるのだけど。


 「中に入っちゃいましょう」


 ミルカがあっけらかんと、そう言った。


 勝手に入るのは悪い気もするけど、全然出てこないから仕方ないよね。


 「すいませーん」


 中に入って、ゆっくりと奥へ進みながら、私たちは呼び掛けた。

 そうして、もう神殿の半ば、講堂のような部屋の真ん中まで入った頃に、奥から声がした。


 「だ~れ~じゃ~?」


 山姥? でも、その声は弱々しい。


 「私たち、ドラークス様について教えて欲しくて、来たんですけど~」


 私がそう声を掛けると、さっきと同じ声で、待っておれ、と聞こえた。

 しばらくすると、よぼよぼのおじいちゃんが、プルプル震えながら出てきた。

 既に刺繍も擦り切れているけれど、神官服のようなものも着ている。

 たぶん、ここの神官なのだろう。

 そのおじいちゃんは、私たちの前まで来ると立ち止まる。

 待つことしばし。

 反応がない。目も閉じているように見える。


 生きてるよね?


 「おじいちゃん、大丈夫?」


 声を掛けたけど、反応がない。

 肩を軽く叩きながら何度も繰り返すと、突然ブルっと震えた。一瞬、私もビクッとした。


 「何の用じゃ?」


 ミルカと顔を見合わせる。


 「ドラークス様について、教えて欲しいんですけど」


 私がそう言うと、おじいちゃんは、うむ、といって話し始めた。


 「ドラークス様は、星を見つめる神であり、外世界からの侵攻を見張る神なのだ」


 割としっかり目の声で、ドラークスの神話を話してくれた。

 相変わらず目が開いているように見えないし、こちらの様子にも反応しない。

 何だか音声データを再生しているような気がしてきた。


 外世界から来た魔物を、天使たちがやっつけた、なんて話には興味をそそられた。

 だけど千年の間、ただ星を眺めていたとか、そんな話を聞くと、神様相手に悪いけど、ぼうっとしている期間が、ものすごく長いように思えた。


 やがて唐突に再生が止まった。

 しばらく待って、動きがないのを確認してから、また私が口火を開いた。


 「神官様、ありがとうございます。それで実は」


 私が天の塔について聞こうとして声を出すと、再びブルっと震えた。


 「ドラークス様は、星を見つめる神であり、外世界からの……」


 「待って待って、その話はもう聞いたから!」


 私は始まろうとした再生を、慌てて止めた。


 「天の塔、ドラークス様がいるっていう天の塔は、どこにあるの?」


 「天の塔は神々が住まう神界にあるのじゃ」


 「神界はどこにあるの?」


 私は再生が始まらないよう、矢継ぎ早に質問を投げた。

 おじいちゃんは、そこで急に再生ロボットじゃない、感情のある動きに変わった気がした。

 彼の手がすっと動いた。

 そして質問した私ではなく、ミルカの胸へと伸びていく。


 「神界とは、ひとり一人のここにあるんじゃよ」


 いい話っぽく言ってるけど、ミルカの胸を触ろうとしているんじゃないのよね?

 ミルカもどうしていいか戸惑って、動きを止めている。

 私は触れる寸前に、おじいちゃんの手をはたき落とした。


 「そうじゃなくて、どっちの方とか、どの国の近くとか」


 「神界とは人が行くところではないし、行けるところでもないのじゃよ」


 私がもっと具体的な場所を聞いたが、そんな答えしか返ってこない。

 その間も手を伸ばそうとするので、私がハシッと叩き落す。


 「神界とは生命の神秘。明日への希望」


 「意味わからんですけど!」


 ハシッ、ハシッ、ハシッ、ハシッ。


 私たちがそんな攻防を繰り返していると、奥から一人の男が出てきた。

 その男、たぶん神官は、自分の手に持つ紙束を睨みながら近づいてくる。

 彼は、近くまで来てやっと私たちに気づくと、こんなことを言ってきた。


 「なんか、楽しそうなことしてるね」


 それだけ言って、通り過ぎそうになったので、私は慌てて声を掛けた。


 「すいません。天の塔って、どこにあるかご存じないですか?」


 「ほう」


 男の目がギラリと光った気がした。そして、ガッシリと私の手首が掴まれる。

 不意のことで、加速する暇がなかった。


 「分かるとも。来たまえ」


 そう言うと、ズルズルと私を奥の部屋へと引きずっていく。


 「えっ、えっ、えっ、えっ?」


 「リンさ~ん」


 異様な迫力に思考停止した私は、そのまま連れていかれ、ミルカもそれに続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。