第8話「Better That We Break」
あまりの話題の変化に戸惑うあまね。
ただ、それは冗談では無いと分かる。
いつも不思議な道具を操っているバネッサ。
こっそりと、どこからか取り出していた「光る槍」を手入れしている姿を、盗み見てしまったからだ。
「……バネッサさんは、魔法使いだったんですね」
「正確には、魔法を使える何か、としておきます」
「どんな魔法が……使えるのですか?」
バネッサは即答せず、あまねを背に向ける。
「あまねさん、忘れたい事はありますか。私なら忘れさせてあげますよ」
あまねを背にしたまま、ブローチのような宝飾具を見せる。
鈍い金色の三角の形をした綺麗な意匠。赤、青と紫の宝石がはめ込まれている。
見たこともない不思議な模様が彫り込まれており、日本のものとも西洋のものとも分からないが、あまねはそれをただ綺麗だなと思った。
「この道具は、指定された《《2つの事》》を永久に忘れることができます」
「……」
「……例えば、お相手の男性のことを、全て忘れたい、とか」
あまねは息を吞んだ。
◇ ◇ ◇
バネッサは、あまねに顔を見られたくなかった。
嘘はついていないが、表情を見られたくないし、あまねの顔も見られない。
あまねが一人で抱え込んで苦しんでいる事に、違和感があった。
この国の現在の雰囲気的には、あまねの年齢では堕胎するのが普通だろう。
あまねが乱暴されたのか同意だったのか不明だが、少なくとも「相手」に相談できない状態とバネッサは推測した。
「……特定の日の出来事を、全て忘れたいという指定もできます」
しばらく、会話が止まる。
焚火の薪が、パチパチと小さな音を立てている。
あまねが静かにバネッサの背中に声を掛ける。
「……少し、考えさせてもらって良いですか」
◇ ◇ ◇
あまねは、先に毛皮に横たわった。
山で過ごす疲れもあるのだろう、しばらくすると寝息が聞こえてきた。
しばらく、バネッサは焚火の炎の前で、先ほどあまねに見せた「忘却の三角」呼ばれる魔道具を眺める。
残酷な救済装置と呼ばれる魔道具。呪いのアイテムとも呼ばれる時もある。
・対象者は魔道具の使用者に対して忘却内容を伝えなくて良い(思い描くだけで良い)
・忘却内容は復活できない。基本的に記憶を「破壊」する
・忘却内容に関連する記憶に障害が残る場合がある
適当で、乱暴で、人の人生を無茶苦茶にしかねない、暴力装置みたいなものだ。
ただ、今手持ちのアイテムで、あまねを救う他の方法が思いつかないのも事実。
もう一つ、この魔道具には、製作した職人の意地の悪い仕様がある。
が、これはあまねには伝えない。伝えられない。




