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第6話「Take On Me」

別れの握手のつもりで、片手を差し出すバネッサは、あまねの顔をみて驚く。


暗い目の色、一文字に結んだ唇。


バネッサの脳内に、警報が響く。

まずい、これ、このまま帰しちゃうと、不味い事になるかもしれない。


バネッサ的には、

自分はキャンプ地で偶然会った金髪の美人のお姉さん。

たまたま、森で迷っていた少女を街の近くまで送ってきた。

不審なところは一つもなく、本当に害の無い一般人。

……という設定だった。


これ以上、転生者ではない未成年者に踏み込むことは危険である。


何か事情がありそうだが、聞いたところで、転生者である自分には何も解決できないし、そもそも関与すべきではない。


しかし、泣き叫ぶでもなく、絶望の表情を浮かべている少女を、ここで放り出して大丈夫かと、バネッサは不安になる。


この国の法律的に、子供を山で連れ回した事がばれたら、お巡りさんに怒られるかもしれない。


バネッサが考えを巡らせていると、不意にあまねが頭を下げた。

あっという間に、無言で駆け出すあまね。


まずい、今の「間」は最悪だったかもしれない。


「待って、あまねさん!ちょっと、えーと、待って待って!」


立ち止まり振り返るあまね。


バネッサはあえて一度思考を停止させる。難しい事は後で考えよう。


「えっと、良ければ、もう一泊キャンプしていきます?」


しばらくバネッサの顔をみたあまねは、こくりと頷きバネッサに近づく。


「ただーし、条件があります」

「条件……ですか」

「まず、マシュマロが無くなりましたので、今から買いにいきます」


あまねがキョトンとした目でバネッサを見る。マシュマロが条件?


「あっちの方にスーパーマーケットがあるのです、そこに付き合ってください」


よく理解できていないが、取り合えず頷くあまね。


「それと!今日の私はお風呂に入りたいので二人で銭湯に行きます。」


バネッサも自分が何を言っているのか分からない。さっき思考を止めた反動か。


◇ ◇ ◇


初めて訪れる街に入る前、バネッサがペンダントをあまねに渡した。

「それ首にかけておいて下さい、あ、貸すだけですよ」

「はあ、……分かりました」

「おまじないです。ほら、私とお揃いですよ」


あまねは初めて入るお店が少し苦手だった。見知らぬ照明、耳慣れないBGM。

しかし、バネッサが新商品などに大騒ぎするので、恥ずかしさが上回って何とかやり過ごせた。


「あ、買い忘れがあった。二階に行ってくるので、ちょっとここで待ってて下さい」

「はい」


店外の駐輪場脇でぼんやり立っている。自分が住んでいた街と山を挟んで反対側にある街だ。スーパーの前なんてどこも似たようなものだと思っていたが、ふと違和感に気づく。

誰もあまねを見ていないのだ。後ろから近づいてきてぶつかる店員。よけようともしない主婦。

こういう風潮の街なのだろうか。


「お待たせしました。では銭湯に行きましょう。久々だなぁ」


銭湯は初めてだ。あまねは少しドキドキしながらバネッサについて番台の横を通り過ぎた。


脱衣所で、バネッサからスーパーの袋を受け取る。


「替えの……下着パンツだけですけど。お風呂上りは綺麗なのが良いでしょ?」

「あ、ありがとうございます」


先ほどの買い忘れとは、この下着だったのだろうか。

あまねは、どこか抜けているようで抜けていない、バネッサの事が分からなくなる。


二人並んで髪と身体を洗い、久々の湯舟に入る。

一週間も経っていないのに、もうずいぶん昔のようだと感じる。


隣で鼻歌を歌っているバネッサは、金髪をタオルで巻いているせいか、外国人っぽさが抜けている。


「バネッサさんはスポーツとかやってたんですか」

「え、スポーツですか?そうですね、格闘技を少々かな、何でです?」

「結構しまってる身体付きだと思って」

「もう、ジロジロ見ないで下さいよお」


風呂上がりの脱衣所で、フルーツ牛乳を二人並んで飲む。


「ここ出たら隣のコインランドリーで洗濯です。洗濯中に食事にしましょう」

「はい」


コインランドリーで例の団子を食べるのだろうか。文句は言えないけど。


あまねの心配は外れ、食事は近くの牛丼屋だった。


外食経験が少ないあまねは、実は生まれて初めての牛丼だったが美味しかった。

バネッサは牛丼屋なのにカレーを食べていた。ずれている感がそれっぽいなと思う。


コインランドリーに戻り、洗濯が終わった衣類をリュックに詰めた。

あまねが、買ってもらったお菓子と下着は、自分で持つとバネッサに言う。


「じゃあ、この布袋を使って下さい」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、戻りましょうか」

「はい」


少し日が陰りかけた道を、二人は手をつないで歩く。山に戻るのだ。

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