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第2話「Don't Let Me Down」

総合病院にて詳しい検査が行われ、あまねの妊娠が確定した。


推定、妊娠18週だった。


その後、カウンセリングが始まった。


妊娠の事実について、あまねは一瞬目を丸くするが多少の予感はあったようだ。

大きな動揺などは見られなかった。


今後のスケジュールや注意事項を説明されるが、あまねは無表情に大人たちの説明を聞いているだけだった。


ただ、妊娠の相手については一切口を開かない。

これにはカウンセラーも両親も困惑した。


◇ ◇ ◇


産科医とカウンセラーから、出産と中絶の選択について説明があった。


「発見が遅れたため、母体保護法に基づき、中絶が可能な妊娠22週未満という期限が迫っています。」

「本人の希望は、出産とのことですが、彼女はあまりに幼い。ご両親の覚悟が必要になります」

「年齢のわりに発育が良いので、仮に出産となっても危険性は低いと考えますが、何と言っても父親不明ですし、今後のあまねさんの人生と、加えてご両親の人生にも関わりますので。じっくりかつ迅速に決めて頂く必要があります」


あまねの母親は耳から入って来る情報が多すぎて思考が止まりそうだったが、歯を食いしばって夫と各種書類を確認し、今後について話し合った。


あまねの母親は中絶しかないと思っていたが、夫が「産ませてやってもいいんじゃないか」と言いだした。娘が腹部を優しくなでている横顔が忘れられないと話す夫を茫然と眺めた。自分より先に思考が停止しているのではないかと疑ったが、夫を説得する気力も残っていなかった。


結局、あまね本人の希望を受け入れ、出産の方向で決まった。


その日から母親は家庭内で孤立を感じ始める。


夫の無責任さ。普段は会社勤めで家にいない。あまねの顔をきちんと観察もしていない。深く考えているように思えない。


娘の無頓着さ。こんな歳で子供を産んで育てられる筈が無い。結局私が面倒みることになるだろう。


夫が帰宅し、微笑みながらあまねのお腹をなでる姿が、見ていられなくなりトイレに閉じ籠る。


そしてあまねの目は、そんな母親の変化に気づかない訳がない。


◇ ◇ ◇


あまねは日々少しづつ変わっていく両親の変化に気づいていたが、どうして良いか分からない。

家の中の色と音が、どんどん暗く変わっていく恐怖感で、絵を描くことが出来なくなっていった。

両親の姿がぼやけ始める。あまねは必死で二人の声を忘れないように耳をふさいで過ごした。


父親は優しい言葉を掛けてくれるが、あまねの目を見ようとしない。

母親はあまねを気遣ってくれているが、声はどんどん無機質になっていく。


二人はあまねの視線に気づくと「どうしたの?」とほほ笑む。


昔は絵を描くと褒めてくれた。初めての個展の時は涙ぐんで喜んでくれた。

自分は愛されていると思っていたが、今の両親は遠くから眺めている鳥のようだ。


ある日、学校から戻るあまね。珍しく母親がソファーで母がうたた寝をしている。

風邪ひいちゃうと、そばにあったブランケットを掛けてあげようかと身を寄せた際、母親が目を覚まして短い悲鳴を上げた。


その目をみて、あまねは戦慄する。恐怖の色だった。寝ぼけて……いる?


「ママ、あまねだよ」

「ちがう、あんたはあまねじゃない」

「……ママ?」


「返して、あの頃のあまねを返してよ」


◇ ◇ ◇


その晩、あまねが失踪する。


朝、母親が起こしに部屋に入るともぬけの殻だった。

書置き等は無い。ハイキングの際に買ったリュックと水筒が見当たらない。貯金箱も空になっていた。キッチンにあった食パンも無くなっている。


両親は街中を一日中探し回った。クラスメートの家や知り合いにそれとなく連絡したが行方が分からない。


結局その夜、警察に相談することにした。

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