人気者
人気者のオズは自分のクラスのみならず私のクラスの皆様にも親しまれている。たまに私に会いに来てくれるんだけど、他国の留学生のような高飛車な態度がなく、にこやかに声をかけているとのこと。少し妬けた。そう言ったらぎゅうぎゅう抱き締められちゃったのが嬉しくなかったなんて言わないわ。
その婚約者である私はちゃんとオズに似合う婚約者ができているのか時々とても不安になる。
オズが熱を出した翌日は王妃様のつけてくれた教師による外国語レッスンだった。4か国語を話すトレバー子爵は現役外交官で、一つの文を一気に4か国語で理解できなければいけないのだと言う。それは王妃の務めだと思うのだけど、結婚後に生活する辺境は国境が重なった地域のために憶えて損はないとのことだ。
オズの役に立てる、と学院の授業の他にもたくさんの講師をつけてもらっている。
ありがたいけれど、正直いっぱいいっぱい。オズのことも心配だし、お見舞いに行きたいし、泣きたい。
「どうしました、アンジェラ殿下?」
出された文章をうまく訳せなくてうつむいた私に、トレバー子爵は柔らかく尋ねた。長兄の王太子と学院時代仲が良かった子爵の授業は厳しいけど、わからないところをしつこく問い詰めるような理不尽なことはしない。
「この文章は先日やったものと同じ文法でできますよ」
「……、ごめんなさい」
「ふむん」
視線が痛い。ただ謝るしかできない私に、子爵はため息を吐いた。
「そうですね。それでは簡単な文章でいいので、私が言うことを三か国語で書いてみてください」
教科書を閉じ、ノートの白い部分をトントン指で叩きながら指示を出すトレバー子爵。
新しい課題ね。私は甘えていた心を引き締め、耳を傾ける。
「私は熱を出した婚約者が心配です」
「はい。私は……、え?」
「今すぐ帰って看病したいのに授業が終わりません」
「……」
「婚約者のことが大好きで、そのことばかり考えて、気を抜くと涙が出てしまいます。勉強なんて手につきません」
「………」
「本当に乙女心がわからない人です。イケメンイケボの先生なんて爆ぜてしまえ」
「……、イケメンイケボってなんですか?」
「下町言葉で素敵な顔の男性を『イケメン』、素敵な男性の声を『イケボ』というそうですよ。ちゃんと下町言葉で書いてくださいね。さあ」
う、ううううう……。
私は真っ赤になって両手で顔を覆ったけど、先生は許してくれなかった。もう、無駄にイケメンイケボなんだから!
必死になって書いた文章は何度か添削され、その都度音読までされて恥ずかしさに『いっそ殺してええ』と涙ぐむ。こんなのオズへの手紙にも書いたことないのに!
必死な私を見ているトレバー子爵は二やついていた。
「ふふ、アンは相変わらず可愛いですねえ」
「……、一応公務でしょう、トレバー兄様?」
「おっと、素が出た。失礼、アンジェラ殿下」
実はトレバー子爵と私はとても仲がいい。兄様が学院生だったとき、爵位の隔たりなく兄様と仲が良かったトレバー様はよく私と遊んでくれたのよね。その関係で忙しいトレバー様が語学を教えてくれてるのだ。
とはいえ親しき中にも礼儀あり。一応公務だからちゃんとしなくては。
などと思いつつも私の顔はずっと赤いままだ。
だって、すっかり見透かされちゃってるんだもの。さすがに爆ぜろとは思わないけど。
「はい、合格です。今日の授業はここまで」
やっと終わった。
とはいえいつもよりだいぶ早い。次の講義まで時間が余ってしまった。次は同じくトレバー子爵から外交で必要なことを学ぶ講義。今はまだ歴史を学び始めたところで、憶えることがたくさんある。
『憶えられるかな……』
今の状態の私はポンコツもいいところだと自覚してる。帰ったら復習頑張らなくちゃね。
「ああ、次の講義はお休みだよ」
思ってたことが顔に出ていたようで、トレバー様はにこりと笑って、子どもの時のように私の頬をつついた。
「オズワルド殿下のところに行きたいって顔に出てる」
「っ!!」
「だから次の授業は来週に持ち越すからね。早く行きな」
「兄様ありがとう!大好き!!」
私は一瞬トレバー子爵に抱き着いて、すぐにお辞儀をし、荷物をまとめて部屋を飛び出した。
後ろから笑い声が聞こえたけど、気にしない!
子どもっぽくてもいい。オズに会いたい。
そしたら私はまた明日も頑張れる気がするの!
読んでいただいてありがとうございます。
切りが良かったので短いですがアップしました。
毎日更新したかったなあと思いつつ1か月過ぎてます。イチャイチャ練習なのになかなかイチャコラしてくれないのはもう仕様としか(滝汗)
こんな話ですがぼちぼち続けていきたいと思います。




