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何日も熱が下がらない

 何日も熱が下がらないなんて久しぶりだ。国を離れて二か月、するべきことが多かったので気が付かなかったけれどものすごく体は疲れていたらしい。授業の疲れだけではありませんよと校医に言われた。


「まだこちらの国の魔力に体が合っていないのです。普通はだるさが1か月ほど続く程度で収まるのですが、保有魔力が多い方やストレスが強い環境下だと拒否反応が出て長引きます」


 そんなにストレスフルだったかな、と今までのことを思い出してみる。


 入学式前、花のころに祖国を出てアンの国、アーネット王国に来た。隣国なので気候もそんなに変わらないし、言葉にも不自由しないのでわりとすんなりなじんだと思う。


 アーネット王家の方々はとても親切だ。中には意地悪く嫌味を言ってくる奴もいるが、全部が悪意ではないのはわかってる。アンのことが心配なんだろうな、僕を試すような言葉ばかりだ。だから憎めないし、むしろ嬉しい。


 寮も快適だ。侍女の件で最初少しもめたけれど、解決してる。毎日一人ずつ来てくれる侍女はみんな綺麗で優しい女の子ばかり。食堂のマダムも守衛の騎士も、みな仕事熱心で見ていて気持ちがいい。挨拶をすれば笑顔で返してくれるし、生活しやすい環境を作るために心を砕いてくれている。僕の国の文化を取り入れてくれる部分も見られるのも嬉しい。


 学院での勉強も楽しいし、何よりクラスメイトに恵まれたと思う。1クラスが12人しかいないから派閥なんかができると大変だと聞いてたけど、今のところ僕がいる魔法剣士科1組はそういう雰囲気はない。ゲイブリアル=ハービーを中心に輪ができてると思う(王族の僕が中心じゃないのは生徒会に入るのが決まってるからだと信じる)。

 最初は「王族だから」という目で見てくる先生方に閉口したけど、クラスメイトが同等に扱ってくれるのはとても嬉しい。変な敬語とか使ってこないし、手加減もされない。国で同じ年頃の貴族と交流していたけど、アンと結婚すると決まってからは変な当てこすりとかわかりやすい皮肉とか陰でない陰口とか、まあいろいろあった。こっちでそういうのあったらげんなりしたと思う。

 まあ、留学生が1年の前期だけ着用を義務付けられている留学王族専用制服のせいで他学科の生徒からは一歩引かれるんだけどね。


 まあそんな感じで快適に暮らしているのでストレスで体が疲れていると言われても今ひとつピンとこない。


 ただ。

 自分では気づかないところで気を遣っていたのかなと思うところはある。


 だらーっとできないし。

 やらなきゃならないことはたくさんあるし。


 なにより、こんなに近くにアンがいるのにぜんぜんイチャコラできないし!


「イチャコラかあ……」


 ふう、とため息を吐きつつ呟いてみる。


 アンはものすごく頑張り屋なので僕よりたくさんの予定が入ってる。それを全部こなしつつ学院で勉強もするんだから、僕のところに来てイチャイチャして終わるってのは難しいのもわかってる。

 それにアンは照れ屋さんだから、人がいるところで手をつなぐのだって恥ずかしがるんだよね。そこが可愛いんだけど、嫌がられたら辛いなと思い、ついつい手が出ない。


 そりゃ、キスだってしたいよ。

 ぎゅっと抱きしめたいし、膝の上に乗せてクッキーをあーんとかしあいたい。

 子どもの頃みたいに一緒に転がって一晩中語り明かしたりもしたい。

 もちろんそれ以上のことだってしたいけれどそっちは卒業してからだな、うん。無責任ダメ、ゼッタイ。


 そういうストレスならたくさんあるんだけどなあー。


 ああ、なんか、熱のせいで変なことばっかり考えてしまう。

 そういえば一日休んでひたすら寝たのはこの国に来て初めてかもしれない。

 そう考えると気を張ってるのかも。この国に根を下ろすって言ったけど、時間かかるかも。

 まあ、いっか……。


 色々考えていたら熱が上がってきた気がする。

 少し寝ようかと思っていたら、控えめなノックの音がした。

 どうぞ、と掠れる声で答えると、アンが入ってくる。


「オズ、今日はゼリーを持ってきたわ」


 バスケットを持ったアンがベッドサイドの椅子に座る。

 額に伸びた手が冷たくて気持ちいい。小さくて優しい手。握り返したいけれど、関節が痛くて手が上がらないのが辛い。


「まだ熱が高いのね」

「うん」

「早く良くなるように薬草茶で作ったゼリーにしてみたの。ちゃんと味見してあるから安心して食べてみて」


 正直あんまり喉を通らないんだけど、アンが作ったものなら何でも食べたい。

 寝たまま口を開けると、青いゼリーを乗せた銀のスプーンが差し込まれた。


「すーっとして、甘いね」

「よかった。喉にいいハーブを先生に教えてもらったの。今日の薬草採集実習の時にクラスの皆さまがオズがよくなるようにって摘んでくれてね。全員で作ったのよ」


 魔術科1組の人がそんなことを……。


「こっちは喉にいい飴。私達がゼリーを作っているときに先生が秘伝のレシピって言いながら作ってくれたの。私達もいただいたわ。よかったら後で食べて」


 そういって差し出された瓶には金色の飴が入ってた。


 こんなに暖かい環境でストレスフルとか罰が当たるなあ。

 僕は髪をなでるアンの手からたくさんの温かさをもらい、明日はきっと熱が下がっているだろうと幸せな気持ちで思いながら、目を閉じた。







読んでいただいてありがとうございます。


どんなにいい環境でも自宅以外だと気疲れする、そんなオズの気持ちでした。

でもイチャコラしたいんだよ、男の子だもん。

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