スカートがひらひらする
スカートがひらひらする。いつもはほとんど足が隠れるくらいの長いドレスか、せいぜいふくらはぎ丈のワンピースだからこんなに足を出したことはない。だから制服を試着した時はちょっと困った。
「私達にもそういう時期があったわねえ」
などとお姉さまたちはのんびりいうけど、お兄様や弟たちの顔はなんとも言えないものだった。
「その見苦しいものをいつまでも見せるなよなっ」
って、同じ年でお母様が違うダントン兄に言われたときはとても凹んで涙が出た。あとでダントン兄は他の兄弟姉妹にめちゃくちゃ怒られたって聞いたけど、そんなものをオズに見せるのは勇気がいる。
だけどオズは私の制服姿を見て開口一番こう言った。
「すごく似合ってる!制服ありがとう!!」
本当にオズって私の不安をすぐに拭ってくれるんだから。
そんなオズだけど、入学式が終わった後はなんだか機嫌が悪かった。
違うクラスだから離れてしまうのに、目が合っても顔を赤くしてそらすし、手を振っても下を向いてる。
ううう、私何かしちゃったかなあ。
落ち込んでたら、フローが隣に来てそっと肩を抱いてくれた。
そのまま説明会になったのだけど、ほとんど頭に入らなかった。もらった資料に書いてあることとほぼ同じだったとフローが唇を尖らせているからきっと問題ない。
いつの間にか私の周りには何人かの生徒たちがいて、話しかけてくれていた。
赤い髪の男の子は王立図書館の司書の息子、緑の髪の男の子は第四騎士団の副団長の息子、黒髪の男の子はオズと同じ他国の留学生の王子様だそうだ。
もちろん女の子もいる。くるくるした茶色の巻き毛の子爵令嬢や、明るい水色の髪の伯爵令嬢。こげ茶髪の女の子は酒場の手伝いをしていると言う。
フローを除く級友たちは王女である私に興味があるようで、いろいろな話を聞きたがった。
もちろん、私は適度に相槌を打って微笑みながら言葉を返していく。
でも、申し訳ないくらい頭に入らない。いつもなら一度聞けば名前などもすべて覚えられるのに。
そんなことをしているうちに時は過ぎて、昼食の時間になった。
今日だけはクラスごとの食事になるそうで、そろって食堂に向かう。
他科の生徒たちも同じように食堂に向かっているので廊下はぎゅうぎゅう詰めになっていた。
ふと目をあげると、オズたちのクラスが見える。オズたちのってわかったのは、すぐにオズを見つけたから。私の目はオズに反応するようになってるみたい。
でも、またオズは、目をそらすのかな?
オズがこちらに向いたのを見て、思わず目を伏せる。
胸がきゅっとなった。
オズはきっとクラスに馴染もうとして頑張ってる。私が邪魔しちゃだめだ。さっきだってたまたま気が付かなかっただけかもしれないし、こちらに気遣って手を振らなかったのかもしれない。
だけど、ちょっと、辛いかも。
そのとき。
「アン!」
唐突にギュッと抱き締められた。
「え? え? え?」
顔を上げると、オズが私に正面から覆いかぶさってる。うん、覆いかぶさるがぴったり。だってオズはもう私よりだいぶ背が高いんだもの。
「あー、アンだ。生き返る……」
「ちょ、ちょっと、オズ!?」
すりすり、と頭に頬ずりされて顔が熱くなる。
固まっていると、周りから新しい人々の声が聞こえた。
「うわあ、噂には聞いてたけどここまでか……」
「姫様気の毒だわー」
「愛ってすごいな」
恐る恐る顔を上げると、オズのクラスメイトと思われる生徒たちがかわいそうな子を見る目でこちらを見つめていた。私ではなく多分オズを見ているのよね?
やんわりと体を離すと、オズは大きくため息を吐き、ごめんと頭を下げた。
「さっき、冷たくしちゃってごめん」
「わざとやったの?」
「うん。嫉妬した。講堂中にあんな笑顔を振りまくなんてって」
「私が微笑んだのはオズにだけよ」
「知ってる。でもみんな見てたからつい。足も出てたし」
「スカートにまで嫉妬した?」
「うん」
「……、バカ」
こつん、と額を当ててくる。赤い瞳に私が写ってて嬉しい。
もう、オズって本当に、私の心を幸せにしてくれるんだから。
さっきまで落ち込んでいた心が嘘のように晴れていく。
ふふ、と笑うと、フローが呆れたような顔で肩を叩いた。
「砂糖吐きそう」
周りにいた全員が同意するように頷いた。
読んでいただいてありがとうございます。
やっと少し砂糖が。学生なのでこのくらいでも十分甘いかなと思うのですが、もっと甘くできたらいいなあ。




