第13話 おれの知らないおれ
英雄になった実感なんてないし、自覚もなかった。
泣き疲れたのか、眠ってしまった真穂ちゃんをベッドに寝かせることにした。
それから立ち上がり、部屋を見回したが、あれから何日経ったのかは分からない。
いつの間にか、仕立ての良いシャツとゆったりとしたズボンを着ている。おれの制服はどこだろうか。
「真穂ちゃん、忍さまはどんな様子ですか?」
そう言いながらジェニファーさんが部屋に入ってきた。そして、おれを見るなり、仕事の時の真面目な顔が崩れた。
「ウェンを守ってくれて、ありがとう」
ジェニファーさんが抱き付いてくる!
彼女の腕がおれの背中に回された。彼女の顔はおれの右肩に乗せられた。
え、なに、これ。
「忍がいなかったら、ウェン……いえ、討伐へ向かった人たちが帰ってくることは出来なかった。ホントにありがとう」
ジェニファーさんの整った綺麗な顔がおれの肩の上にあるせいで耳元で囁かれているみたいで、会話の内容なんて頭に入ってこない。
おれは開けっ放しのドアから視線を感じて目を上げると、イリーナさんがこちらを睨んでいた。
「英雄は色を好むなんて言いますが、どうやらホントだったみたいですね」
凍り付くような冷たい声を発しながら、イリーナさんが近づいてくる。
ふえぇ、プレッシャーが領主さま譲りだよ。逃げたいようぅ。
「だいたい、昔からジェニファーはズルいんですよ。あの時も、今も!」
ジェニファーさんとイリーナさんの付き合いは長いみたい。
「イリーナさん、落ち着いて!」
と、おれは呼び掛けてみたが効果はない。
「いやーん、忍さま。助けてください」
ジェニファーさんは、おれの背後に隠れてしまう。
怒っているイリーナさんが右手を振りあげて、今にもビンタしてきそう。
イリーナさんは領主さまの娘だから、もしかしたらだけど、ものすごい怪力の持ち主かもしれない。
ふえぇ、ビンタで首が180度回転したら、どうしよう。
「ジェニファーお姉ちゃんだけズルい! 私も!」
眠っていたはずの真穂ちゃんが起きて、おれの右腕に抱き付いてきた。
「ほら、イリーナお姉ちゃんも」
なんて真穂ちゃんが言うものだから、イリーナさんは顔を真っ赤に染める。
「えい!」
イリーナさんは両手を広げて飛びついてきた。彼女の豊満な胸がおれの顔面に当たり、おれは受け止められなくて、ベッドへ倒れる。
もちろん、ジェニファーさんと真穂ちゃんを巻き込んでだ。ラッキースケベかと思ったけど、真穂ちゃんが楽しそうに笑うから、ほのぼのした雰囲気になってしまった。
でも、ジェニファーさんとイリーナさんのおっぱいは堪能したぜ。
「おれはどんなふうに戦ったんですか?」
お昼になり、おれとイリーナさんはランチを食べている。
領主さまは魔物と戦ったせいで腰痛が悪化してベッドから起き上がれないらしい。
真穂ちゃんはまた寝ている。
「ジェニファー、ウェンからの報告書があるでしょ。忍さまにも見せてあげなさい」
「はい、忍さま。こちらです」
おれはジェニファーさんから渡された報告書に目を落とす。
自分の記憶にないところを見付けて、そこから読んでいく。
報告書。筆者はウェン。
忍が魔剣ドラグロワを手にしたかと思うと、魔剣の力を使いこなしたようだ。身体能力を強化して戦い始めた。今までドラグロワ候しか使えなかったので、兵士たちは唖然としてしまった。
剣を狼の魔物のボスに突き刺し、魔剣の力で雷を落として焼いた。そこからは若き頃のドラグロワ候にも劣らないくらいの活躍だったと呟く兵士も現れるほどだ。
魔物だけに雷を落とし、次々と炭にしていく。残った魔物を全て倒したあと、忍は倒れてしまった。
トラックと呼ばれる魔導車も魔力切れで動かなり途方にくれたが、ドラグロワ候が魔剣の魔力を注入し、動かして領地へ戻ってくることができた。
追記。
オレは忍を運転席の後ろにあるスペースに寝かせて、真穂と一緒に運転席に座って帰ってきたのだが、その時にトラックの魔力についてきいた。彼女もよく分かっていないらしいが、■■の■■■■しか入れてないと聞いた。そんなものに魔力があるとは思わなかった。あと、真穂はオレのことを男っぽい女だと思っていたらしい。(乙女の沽券に関わるので消しておきました。あと、ウィンも殴っておきました。byジェニファー)
とりあえず化け物じみた活躍をしたらしい。やっと英雄としての実感がわいてきた。あと、この報告書にはトラックのオッサンについて大事なことが書かれている気がするけど、校閲が入っている。
ジェニファーさんが怖いので、真穂ちゃんにも聞かないでおこう。大方、トラックの燃料の予想は付いているけど。異世界に来てからトラックに入れたものはおしっこだけだ。
「忍さまは魔剣に選ばれていたのですね。次期ドラグロワの領主も夢ではありませんよ」
なぜか、イリーナさんは顔を赤らめて言った。魔剣に選ばれて領主になるのは分かったが彼女が照れる理由が分からなかった。




