第14話 ドラグロワの危機
討伐作戦から2週間が経った。
英雄がやっている運び屋として話題になり、そこそこ順調に運営できている。
届けものをする時には真穂ちゃんを1人置いていく訳にもいかないので連れて行く。店番してくれる人が欲しい今日この頃。
さて、今日は珍しく真穂ちゃんよりも早く起きたので、おれがパンを買いに行こう。
冷蔵庫とかはないので、毎日パンを買う。日持ちのする野菜や干し肉なんかはまとめて買って、地下室に置いておく。
ちょっと不便だよ。
おれは正面入り口のドアを開けて通りに出た。
「あら、英雄さん。今日は早いのね」
近所の酒場を切り盛りする年齢不詳の美人の女性に話し掛けられた。
「お姉さんは今から帰るところですか?」
おばさんって呼ぶとぶん殴られるので、おれはお姉さんと呼んでいる。
「ええ、金の採掘が再開したから出稼ぎに来る人も増えたみたいでね。朝まで大騒ぎする人もいてねー。疲れちゃったわー。じゃあ、たまには、私のお店に来てね」
お姉さんは、投げキッスしてから隣の建物の中へ入っていった。おれはその前を通って、パン屋へと歩き始めた。
パン屋の前には5人くらい主婦が並んでいて、まだオープンしていない。ちょっと早すぎたかな。
パン屋と言っても屋台のような感じの店構えで、この街でも小さなお店だ。
「おはようございます」
なんて笑顔で彼女たちに挨拶した。彼女たちの夫は討伐へ行っていた人も多いらしく、めちゃくちゃ感謝されたんだよな。2週間までのことだけど、ちょっと懐かしく思える。
主婦たちと話していると、やっとパン屋がオープンした。
「すいませーん。開店が遅れました」
茶色の髪を後ろで束ねているおれと同じ歳くらいの女子が出てきた。ここのお店は太ってるおばさんが切り盛りしていたはずだ。
「あら、カティーちゃん。どうしたの?」
カティーというらしい。そばかすがある地味な感じの女子だ。
「父は討伐作戦で怪我をしてしまっていて、母も膝を痛めてしまってと、今日は私しかいないんです」
「そうなの……じゃあ、英雄さん。手伝って差し上げたら?」
主婦の1人がそう言うと、周りの主婦も言い出して断れなかった。
主婦たちがパンを買って帰っていくと、パン屋に残っているのはおれとカティーさんだけになった。気まずい。
「えーと、英雄さん、無理に手伝わなくてもいいんですよ」
「いえ、大変そうなので手伝います。おれの名前は我慢忍。君はえーと、カティー」
「カティー・サークルです。ありがとうございます。じゃあ、お店にどうぞ」
そう言われて、おれはパン屋の中に入った。焼きたてのパンのいい香りがする。
「私の後ろに立って、お客さんが来たら私にパンを渡してください。ああ、おはようございます。3つですね」
おれからは見えないがお客が来たみたい。焼きたてのパンを3つ取って、カティーに渡す。こんな感じの作業が15分くらい続いた。
「あーこれでたいだい売れたかな。忍さん、お疲れ様です。手伝っていただきありがとうございました」
「いえいえ、困った時はお互いさまですよ」
「何か、お礼を……あ、ちょっと待っててください」
カティーさんはお店の奥に戻っていった。今、何時なんだ? そろそろ真穂ちゃんが起きてるんじゃないかな。
少ししてカティーさんが戻ってきた。
「パンと、いつも買いに来る女の子のためのビスケットです。今日はホントにありがとうございました」
おれはお金を払おうとしたが、パンとビスケットを渡されてお店から出されてしまった。
自分の家に戻ると、真穂ちゃんの機嫌が悪かったけど、ビスケットをあげたら機嫌を直してくれた。
「お兄ちゃん、今日は久しぶりに仕事がないね! お休みだね!」
「仕事がないとかネガティブなこと言わないでよ! 仕事が来るかもしれないだろ」
朝食を食べながら、今日の予定を確認するのが日課になっている。確かに仕事がない。
急ぎの仕事があるかもしれないし、今日はお店でじっとしてよう。
午前中は特にすることがなくて、お昼ご飯の準備を始めるようとしている。すると、お店のドアが勢いよく開き、パン屋の娘のカティーさんが飛びこむように入ってきた。
「し、忍さん! 大変なんです。ミガナ村から小麦粉を運んでいた馬車が壊れて、立ち往生してるそうです。小麦粉が届かないと、明日の分のパンが焼けないんです。小麦粉を取りに行ってください」
早口で状況を説明してくれた。カティーさんのお店がパンを焼けないと、ここら一帯の朝ご飯がなくなってしまう。一大事だ! これはドラグロワの危機と言ってもいいだろう!
この情報が周りに広がって、おれのお店に同じことを頼もうとした人が集まってきている。もちろん、断るわけがないじゃないか。
「おう、任せ――」
「おう、任せておけ!」
ふえぇ、またトラックのオッサンに台詞を取られた。
おれと真穂ちゃんがトラックに乗りこんで、出発しようとしたら、カティーさんがトラックの窓を叩いてきた。おれは窓を開けて、顔を出す。
「馬車が壊れた場所はわかりますか?」
おれは知らないし、真穂ちゃんも知らないだろう。オッサンも知ってるわけがない。
首を横に振る。
「私が道案内しましょう」
カティーさんも一緒にトラックに乗って、馬車へ向かった。
それほど離れていなかったが、小麦粉の量が多かったので移し替えるのに時間が掛かったよ。
男はおれしかいないので、めっちゃ運んだ。もう疲れたよ。
帰りは運転席の後ろで横になっていた。
領主さまの館やおれのお店がある中心街に戻ってくると、荷物を下ろすのは町の人が手伝ってくれたので助かったよ。だんだん町に馴染んでいる気がする。
今回の仕事が終わった後、カティーさんがおれのところにやってきて、
「忍さんはドラグロワの新しい英雄ですね……格好いいですよ」
と言って帰っていった。
「フラグメイカー忍お兄ちゃん。これはイリーナお姉ちゃんに伝えないと」
真穂ちゃんがボソリと呟いた。




