12話 運び屋ってなんだっけ? いや以外とマジで
道は平らで、思ったよりも早く金山への入り口が見えてきた。おれウィンから貰った紙を見て、オッサンにトラックを停める場所を教えていた。
「あの小屋の近くにみたいだ」
「どの小屋だ? 5、6軒あるぞ」
「指さしてるやつ!」
「運転席の様子は見えねえんだよ! 言葉で伝えろ!」
そんな言い合いをしている内に小屋がある場所の真ん中に来てしまった。その時だ、狼の遠吠えが聞こえたかと思うと、小屋の影からワラワラと大きな狼の群れが現れて、囲まれてしまった。
トラックはいきなりバッグしたかと思うと、後ろにいた狼を跳ね飛ばしたようだ。
「魔物に気を付けて出てくれ!」
オッサンの声がした後に、巨大な盾を持った兵士がトラックの両脇を通って狼とトラックの間に並んだ。魔物たちはトラックを恐れているのか、距離を保っている。兵士たちも狼の数が多いために攻撃を仕掛けられずにいた。
「こんな小物だけで吾輩の邪魔を出来ると思ったのか!」
トラックのクラクションよりも大きな領主さまの声がしたかと思うと、トラックの屋根に衝撃が走った。一瞬、何が起こったかが分からなかったけど、領主さまが10メートルくらい空中にいた。それを見てトラックを足場にして跳んだのは分かったが、鎧を着て黄金の剣を持って、そんな動きをするのが信じられなかった。
領主さまは狼たちの中に着地し、魔剣を地面に突き刺すと、金色の光が地面から噴き出し狼たちをぶっ飛ばしてしまった。その衝撃はトラックを少し後退させるほどだ。
「領主さま、凄すぎるよ」
上から真穂ちゃんの声がしたが、おれは特に疑問に思わず頷いた。あれ、でも真穂ちゃんは留守番させていたはず。おれは声のした方を見ると、真穂ちゃんがいる。
「なんでいるの!?」
このトラックの運転席の後ろには、大人でも1人が横になるには十分なスペースがある。
長距離運転を想定される大型トラックには、運転手が横になって眠れるようにこのようなスペースが設けられている、ということを先日知った。
まさか潜り込んでいたとは。
「1人ぼっちは嫌だから!」
ぴょん、と真穂ちゃんは降りてきて助手席に着地する。
「わがまま言うな、危ないだろ」
そんな場合ではないのだけど、おれと真穂ちゃんが言い合いをしている。すると、トラックの横に領主さまが落ちてきた。さっきまでは負ける要素なんてなかったじゃないかと思い、前を見るとトラックと同じくらいの狼がいる。この狼たちのボスか?
おれはドアを開けて領主さまに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「こんな魔物に苦戦するとは、吾輩も歳を取ったものだな。忍、ここは吾輩と老兵で食い止めよう。だから、若い兵士だけでも連れて逃げろ。これは命令だ!」
領主さまは魔剣を杖代わりにして立ち上がり、巨大な狼に飛び掛かっていく。他の狼は兵士たちに迫ってきていた。せめて、ウィンだけでも連れて帰るしかない。
「オッサン、荷台を金山の方に向けてくれ!」
「すまん、どうやらガス欠みた……」
「こんな時にか!?」
トラックのエンジンが切れてしまい、オッサンの声も途切れた。異世界にきたのに何も力がないおれには、もうどうしようもない。
真穂ちゃんがおれの手を強く握ってきた。彼女の体の震えが伝わってくる。おれはそれを握り返した。そうしている間にもどんどん狼たちに追い込まれている
「うわあああああああ!」
ウィンの悲鳴が聞こえてきた方を見ると、ウィンは尻もちを着いてしまっていた。そして今にも飛び掛かってきそうな狼と対峙している。おれは考えるよりも先に、真穂ちゃんの手を振りほどき、トラックから飛び出していた。
落ちていた槍を掴み、ウィンの前にいた狼の腹に突き刺す。運よく、急所に当たったのか狼は倒れた。
あれ、おれって戦えるんじゃね。そう思い、狼から槍を引き抜く。そして、巨大な狼を睨んだ。
「かかってこいよ! この狼野郎!」
おれは声を上げ、槍の先端を巨大な狼へ向ける。すると、巨大な狼は領主さまを弾き飛ばし、おれに向かってきた。領主さまとの死闘で傷付いている狼だが、弱っている様子はない。
巨大な狼はお手をするみたいに前脚を振り降ろしてきた。なんとか槍で受けたら、折れて吹き飛ばされる。
ふえぇ、やっぱただの槍じゃこんなのに勝てないよぅ。
巨大な狼はまた殺人的なお手を繰り出そうと左の前脚を上げている。おれは腰が抜けてしまっていて動けない。次こそ当たってしまう。
「逃げろと言ったろうが!」
声のした方を見ると、満身創痍の領主さまが何かを投げたような格好をしていた。狼は唸り声を上げている。狼の左の前脚には領主さまの魔剣が深々と刺さっていた。
魔法の剣なら、狼に勝てるんじゃ……。
巨大な狼の左の前脚はおれの左側に着いた。魔剣も手が届く位置にある。おれは魔剣の柄に手を伸ばし、成人の儀の時みたいに引き抜いた!
体に凄い力が流れ込んでくる。重いはずの剣を片手で持ち、地面を蹴った。一瞬で視界に映るものが変わる。
全身に力がみなぎり、視界が広くクリアになる。
感覚が鋭くなり、さっきまで見えなかったネコパンチならぬ狼パンチをスローモーションで捉えることが出来た。
攻撃を難なく避け、狼の懐に潜り込むと、
「はぁぁっっ!!」
おれは魔剣を突き刺した。
この後はよく覚えていない。
気が付くと、お屋敷のベッドに横になっていた。体中が痛い。顔を動かすと、ベッドサイドにいた真穂ちゃんが目に入る。
「よ、良かったよぅ」
ボロボロと涙を流して抱き付いてきた。体が痛いから引き剥がしたいが、痛くて動かせない。
「狼と戦った後、倒れちゃって、今まで目を覚まさなかったんだよぅ」
「あの後、どうなったんだ?」
「お兄ちゃんはイリーナお姉ちゃんと領主さまを助けたから、このドラグロワの英雄になったみたい」
信じられなかった。
「お兄ちゃんは超有名人になってるんだよ」
異世界での生活は思ったよりもアグレッシブになりそうだった。




