11話 運び屋って何だろう
運び屋を開いて2日が経ったが、全然仕事が来なかった。
1階の広い部屋の真ん中に机と椅子を置いて待っているが冷やかしにくるウィン以外に誰も来ない。どうしよう、このままでは真穂ちゃんを養えない。
今後のことを考えようとしていたら、パンを買いに行っていた真穂ちゃんが戻ってきた。その後ろにはウィンが立っている。
「よう、忍。運び屋は繁盛しているかって、繁盛してたら師匠が店先にいるわけないか」
買い食いしたパンの最後の1口を放り込んで、痩躯の美少年がからかってくる。
こいつ本当イケメンだな。兵隊なんかしないでモデルとかすればいいのに。
女装して男娼になればきっと今の10倍のお給料は貰えるだろうな。
「また冷やかしかよー」
「違う違う、仕事を頼みたいんだ。トラックの師匠で兵士を金山まで運んでほしい」
ウィンの冷やかしにイラついていたが、今度はウィンが神様に見える! もうずっと冷やしに来てもいいよ。
ウィンは腰に付けたポーチから1枚の紙を取り出した。それを見ると今日の午後から金山の魔物討伐作戦なるものがあるらしい。
以前領主様から教えてもらった。
このドラグロワ地方の流通の生命線とも呼べる金山が魔物に占領されて、金が取れない状況が続いているのだ。
このまま金が取れないままだと、この町は飢饉で滅びてしまう。
領主様がついに、金山奪還作戦を実行に移すらしい。
「出来れば巻き込みたくないんだが、馬車が足りなくてさ。どうだ、受けてくれるか?」
「もちろんだ!」
店の外にいたオッサンにも聞こえていたようで、オッサンが答えた。
「マジすか、師匠。じゃあ、早速伝えてくるから。師匠と忍は北門で待っていてくれ」
ウィンが店を出て行くと、奥のキッチンへ行っていた真穂ちゃんが戻ってきた。
「真穂ちゃん、今日は運び屋の仕事があるんだけど……」
「聞こえたよ、お兄ちゃん。私もついて行っちゃダメかな?」
「魔物に襲われるかもしれないからダメだよ」
「でも、もしお兄ちゃんとトラックのオッサンが死んじゃったら、私ひとりぼっちになっちゃう」
真穂ちゃんはズボンを強く握りながら呟くように言った。
「大丈夫、お兄ちゃんは死なないから。トラックのオッサンも大丈夫」
真穂ちゃんを安心させるため、その小さな頭をそっと撫でる。
真穂ちゃんはせめて見送りに行くと言い、おれと一緒にトラックに乗って北門に行くことにした。
北門はイリーナさんを助けた後、領地に入るときに使った門で金山の方を向いていた。この町で1番大きい門らしい。
そこにはジェニファーさんやイリーナさんみたいな若い女性が数人と警備兵たち、それに黄金色の輝く鎧を着た領主さまもいた。
おれがトラックから降りると、領主さまが話し掛けてきた。
「すまぬな、本当は巻き込みたくなかったのだ」
おれは「気にしないでください」と言うつもりだったのだが、鎧を着た領主さまが怖すぎて声も出ない。
「気にするな、一宿一飯の恩義ってやつだ」
おれの代わりにトラックのオッサンが答えてくれた。
「この魔導車は良い性格をしておるな。気に入ったぞ。荷台に椅子と魔電灯と付けようと思うのだが、良いかね?」
オッサンは「好きにしな」と答えて荷台のドアを開けた。兵士たちが荷台に板とかを載せたかと思うと、荷台の壁を背もたれにした椅子が出来ていた。そこに槍や剣を載せる。
「準備完了です、領主さま……いえ、隊長!」
「そうか。では、魔物退治へ行こうではないか」
領主さまが荷台へ乗りこむと兵士がそれに続いた。そして最後に浮かない顔のウィンが乗りこんでいった。おれは荷台のドアを閉めると、運転手へ乗りこんだ。
「忍さまもお気を付けて!」
と、イリーナさんが声を掛けてくれたので、おれは手をあげて答える。オッサンはエンジンをふかして出発させた。
おれはジェニファーさんがとても心配そうな顔をしていたのを見逃さなかった。
そうだよな、ウィンのことが心配だよな。真穂ちゃんも同じ気持ちなんだろうな。




