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郷に戻ると、郷の人々は、大忙しで、冬至祭りの準備を進めていた。
「まったく、どこまで探しに行ったんだか。
火口にする香草なんて、いくらでも生えているだろうに。」
出迎えたルクスの母親は、いつもの小言を始めようとしたけれど、ルクスが上着に包んだ何かを抱えているのを見つけて、大きなため息を吐いた。
「まぁた、あんた、何か拾ってきたのかい?」
「あ。
火口なら、ちゃんと採ってきたよ。」
ルクスはポケットをごそごそとやると、摘んできた香草を差し出した。
そのときに、赤ん坊にかけておいた上着がめくれて、その隙間から、赤ん坊の顔が見えた。
ルクスの母親は、赤ん坊と目が合って、そのまま絶句した。
「あ。
母ちゃん、俺、ちょっと、ミーロンに用があるから。」
ルクスは母親に香草を押し付けると、赤ん坊に上着をかけなおして、行こうとした。
その襟首を、後ろから、母親は、ぎゅっと掴んでいた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、あんた!
どうしたの、その、赤ん坊!」
「………拾った。」
ルクスは渋々振り返ると、むっつりと答えた。
「こいつは、獣じゃねえ。人の子だ。
うちの郷の森に生ってたんだから、うちの郷の子どもだ。
郷の仲間を助けちゃいけないなんて掟はないって、母ちゃん、言ったろ?」
母親はルクス理屈がすぐに飲み込めなくて、目を白黒させた。
その間に、ルクスはさっさと行こうとした。
「放してくれよ、母ちゃん。
おい、アルテミシア、早く行こうぜ。」
う、うん…と曖昧にうなずいて、アルテミシアも行こうとする。
ちょうどそこへ、ミーロンとフラウラの若夫婦が通りかかった。
「ルクス!
みんな、お前の火口を待ち構えていたんだぞ?」
母親に捕まっているルクスを見つけて、ミーロンは苦笑した。
また、なにか、小言を言われているのか。
けれど、今日は、冬至祭りだ。
助けてやるか、と近付いてきた。
ミーロンを見たルクスは、おう、ちょうどよかった、と上着にくるんだ赤ん坊を差し上げた。
「こいつ、見つけたから、連れてきたんだ。」
「なんだ、またなんか、拾ってきたのか?」
ミーロンは、上着にくるまれた包みを見て、苦笑する。
「獣の子は連れてきちゃダメだ、って、こないだも叱られていたろう…」
そのとき、また上着がはらりとめくれて、ミーロンは赤ん坊と目が合った。
そのままミーロンはその場に凍り付いたみたいに立ち止まった。
「ちょうど、あんたのところに届けるところだったんだ。
こいつ、あんたんところの子どもなんだろ?」
え?とフラウラが、ミーロンを見る。
あ、ちょ、ぃゃ、と、ミーロンは、あたふたと何か言おうとしたけれど、言葉にならなかった。
「だけど、ときどき、貸してくれよな?
俺、弟がほしい、って、今年は精霊に頼もうと…」
言いかけたルクスは、ミーロンとフラウラの反応が予想していたのと違っているのに気付いて、怪訝そうに首を傾げた。
きっと、すごく喜ぶと思っていたのに。なんだか微妙な雰囲気だ。
しばらく何か考えてから、あ、っと気付いた。
「ごめん!
もしかして、俺が勝手に連れてきちゃったから、怒ってんのか?
そうだよな。自分で、採りたかったよな?」
ルクスは、フラウラのところへ歩いて行くと、ぐい、と赤ん坊を押し付けた。
「俺、とびっきりの香草を見つけよう、ってあっちこっち探してたんだ。
そうしたら、崖のところで、光ってるのを見つけてさ。
その傍の木に、こいつが生ってたんだ。
俺、最初は、赤ん坊だ、って思わなくて。
勝手に、採ってきちゃって、ごめんな?」
フラウラは戸惑うようにルクスを見た。
「え?
は?
…あの…」
「けど、こいつ、すっげぇ、可愛い。
俺、こいつのこと、弟にして、ずーっとずーっと可愛がるから。」
「は、い?」
きょとんとしているフラウラに、ルクスは赤ん坊を押し付けると、一仕事やり遂げて、ふぅ、と息を吐いた。
「よかった。
お前も母ちゃんに会えて嬉しいよな?」
フラウラの腕の中の赤ん坊を名残惜し気に覗き込むと、つんつんとそのほっぺたをつついた。
「じゃあな、フラウラ。
俺、火口をみんなに配ってこなくちゃ。」
そう言って駆けだそうとするルクスの後ろ襟を、今度は、ミーロンがぎゅっと掴んでいた。
「ちょ、ちょっと、待て、ルクス!
この赤ん坊は、いったい、どうしたんだ?」
「だからさ、見つけたんだよ、崖のところで。
木に生ってた。
ぷにぷにしてて、あったかくてさ。
なんだろう、って思って、採ってみたら、赤ん坊だったんだ。」
「は?
木に生ってた?」
「あんたたちなんだろ?
あそこの木に、婚礼式を挙げて…
それから、どうするんだっけか?」
ルクスはアルテミシアを振り返って尋ねようとしたけれど、ミーロンは、そのルクスを遮って言った。
「この子は、俺たちの子じゃない。」
「え?
…じゃあ、どこか違う家の子だったのか…?」
ルクスは困ったようにアルテミシアを振り返った。
けれど、頼りのアルテミシアも困ったように黙っていた。
アルテミシアの困った顔を見つけたルクスは、よし、ここは自分が頑張らなくちゃ、と思った。
「なら、族長に、言ってみよう。
誰か、赤ん坊をください、って、木に言ったやつ、いないか、聞いてもらおう。」
捕まえようとする手を器用に避けると、ルクスは、族長のところへと走って行ってしまった。
「おい!ちょっと、待て!」
ミーロンは引き留めようとしたけれど、ルクスは振り返らない。
アルテミシアは、そのルクスを追いかけて走っていった。




