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ルクスはなかなか目を覚まさなかった。
赤ん坊は、一度目を開けたけれど、ルクスの腕の中で安心したように、すやすやと眠っていた。
そうしていると、本当に仲のいいきょうだいに見える。
アルテミシアは、ふたりが風邪をひかないように、自分の上着を脱いで、かけてやった。
それから、小さな声で、森の祝歌を歌っていた。
冬の森に、静かな歌声が響く。
森も、冬も、その歌声に惹かれて、小さな子どもたちを包み込むように護ってくれた。
冬の早い日暮れが訪れようかというころ、ようやく、ルクスは目を覚ました。
すると、赤ん坊も、合わせたように、同時に目を覚ました。
腕の中のあたたかい感触に、ルクスは首を傾げた。
寝起きのぼんやりした頭に、ゆっくりと記憶が戻ってくる。
光る香草を取ろうと、崖を登ったら、傍の木が光っていて。
飛び移ったら、アルテミシアが叫んで、それから、大きな木の実があって、触ったらあったかくて、ぷにぷに…
ぷにぷに。
そういえば、こんな、感じだった。
ルクスは腕の中のものを、ぷにぷにと握ってみた。
ぷにぷに。
ぷにぷに。
ぷにぷにぷにぷに…
「んあ?」
突然、それが声を上げたので、ルクスははっきりと目が覚めた。
ちゃんと開いた目でそれを確かめると、赤ん坊は、清んだ目をして、ルクスをじっと見つめ返した。
それから、にこっと、ルクスを見て笑った。
「!!!!!」
声にならない。
あれは、夢じゃなかったのか!
ルクスは飛び起きると、赤ん坊を両手で掲げて、歓声を上げた。
「やった!弟だ!
もう、俺の願い、叶った!」
今夜、灯を灯すときに、精霊に頼むつもりだったのに。
気の早い精霊だ。
だけど、そんなの構うもんか。
よし、じゃあ、お願いは、弟と一緒に遊ぶための何かにしよう!
喜ぶルクスに、アルテミシアは、気の毒そうに言った。
「いや、それは、まだちょっと、早いかも。」
えっ?と振り返るルクスに、アルテミシアは、困ったように続けた。
「この子は、ミーロンの家の子じゃないかなあ。」
「ミーロン?」
ミーロンはこの前の春、隣の郷のフラウラと婚礼式を挙げたばかりの若者だ。
アルテミシアは大真面目に言った。
「あたし、おばあちゃんに聞いたんだ。
婚礼式を挙げたら、森の精霊の木のところへ行って、報告をするんだって。
そうしたら、精霊の木に、赤ん坊の木の実が成るんだ。
森の民はみぃんな、そうやって生まれてきたんだ、って。」
へえ~、とルクスは傍らの木を見上げた。
「もしかして、この木って、そのせいれいの木なのか?」
「どうだろ。分かんない。
おばあちゃんは、どの木が精霊の木なのかは教えてくれなかった。
大人になったら教えてあげる、って。」
そっか。とルクスは納得した。
アルテミシアってつくづく物知りだ。
おばあちゃんにいろんなことを習ってるからな。
「きっと、ミーロンとフラウラはこの木にお願いしたんだな。
じゃあ、この赤ん坊、届けてやろうぜ?」
アルテミシアは、恐る恐る尋ねるみたいに、ルクスを見た。
「弟じゃなくて、残念じゃない?」
「え?」
ルクスは、きょとんとアルテミシアを見返した。
「いや、べつに?
構わないだろ?
ミーロンとこの子なら。
同じ郷なんだし。
俺たちの弟みたいなもんじゃねえか。」
ルクスの返事を聞いて、アルテミシアは、ほっとしたように笑った。
ずっと、ふたりが眠っている間、心配していたのだ。
ルクスは、この赤ん坊は弟じゃない、って分かったら、がっかりするかもしれない、って。
「けど、ときどき、ミーロンに貸してもらおうかな。
俺、弟と一緒に寝てみたいんだ。」
ルクスは、へへっ、と笑って付け足すと、アルテミシアの心配にはまったく気付かずに、けろりと立ち上った。
「きっと、ミーロンたちも楽しみにしてるだろう。
早く届けてやろうぜ?」
「あ、そっと。気を付けて?」
ふたりは赤ん坊が寒くないように自分たちの上着でくるむと、慎重に、でも、なるべく急いで郷に帰った。
赤ん坊は泣くこともなく、清んだ大きな目でふたりをずっと見ていた。
ルクスはもう嬉しくて仕方なくて、何度も何度も、腕の中の赤ん坊を確かめた。
そうして、赤ん坊と目が合うたびに、ますます嬉しくなるのだった。
あっという間に日は暮れてしまって、辺りは、暗くなっていった。
暗くなる前には帰るように言われていたから、また、遅くなって、と叱られそうだ。
だけど、今日は、仕方ないじゃないか。
赤ん坊を、見つけてきたんだから。
それを知ったら、きっと、みんな許してくれるだろう。
早く、早く、と焦って急ぐ目の前で、最後の残照は消えていって、ちょうど、村の入口にさしかかったときだった。
「ああっ!」
突然、アルテミシアのあげた叫び声に、ルクスは、なんだ?と顔を上げた。
そうして、アルテミシアの指差す先を見て、ルクスも、ぽっかりと口を開いた。
「にじ、だ…」
それは虹だった。
昼間、雨上がりになら、何度か見たことはあったけれど。
夜に虹を見たのは、初めてだった。
「すげー…」
急ぐのも忘れて、足を止める。
虹は、郷の上に見事にかかっていた。
何故だか、今年の冬至祭りは、いつにもまして、特別な感じがした。




