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パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


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8

ルクスはなかなか目を覚まさなかった。


赤ん坊は、一度目を開けたけれど、ルクスの腕の中で安心したように、すやすやと眠っていた。


そうしていると、本当に仲のいいきょうだいに見える。


アルテミシアは、ふたりが風邪をひかないように、自分の上着を脱いで、かけてやった。

それから、小さな声で、森の祝歌を歌っていた。

冬の森に、静かな歌声が響く。

森も、冬も、その歌声に惹かれて、小さな子どもたちを包み込むように護ってくれた。


冬の早い日暮れが訪れようかというころ、ようやく、ルクスは目を覚ました。

すると、赤ん坊も、合わせたように、同時に目を覚ました。


腕の中のあたたかい感触に、ルクスは首を傾げた。

寝起きのぼんやりした頭に、ゆっくりと記憶が戻ってくる。


光る香草を取ろうと、崖を登ったら、傍の木が光っていて。

飛び移ったら、アルテミシアが叫んで、それから、大きな木の実があって、触ったらあったかくて、ぷにぷに…


ぷにぷに。

そういえば、こんな、感じだった。


ルクスは腕の中のものを、ぷにぷにと握ってみた。


ぷにぷに。

ぷにぷに。

ぷにぷにぷにぷに…


「んあ?」


突然、それが声を上げたので、ルクスははっきりと目が覚めた。

ちゃんと開いた目でそれを確かめると、赤ん坊は、清んだ目をして、ルクスをじっと見つめ返した。

それから、にこっと、ルクスを見て笑った。


「!!!!!」


声にならない。

あれは、夢じゃなかったのか!


ルクスは飛び起きると、赤ん坊を両手で掲げて、歓声を上げた。


「やった!弟だ!

 もう、俺の願い、叶った!」


今夜、灯を灯すときに、精霊に頼むつもりだったのに。

気の早い精霊だ。

だけど、そんなの構うもんか。

よし、じゃあ、お願いは、弟と一緒に遊ぶための何かにしよう!


喜ぶルクスに、アルテミシアは、気の毒そうに言った。


「いや、それは、まだちょっと、早いかも。」


えっ?と振り返るルクスに、アルテミシアは、困ったように続けた。


「この子は、ミーロンの家の子じゃないかなあ。」


「ミーロン?」


ミーロンはこの前の春、隣の郷のフラウラと婚礼式を挙げたばかりの若者だ。


アルテミシアは大真面目に言った。


「あたし、おばあちゃんに聞いたんだ。

 婚礼式を挙げたら、森の精霊の木のところへ行って、報告をするんだって。

 そうしたら、精霊の木に、赤ん坊の木の実が成るんだ。

 森の民はみぃんな、そうやって生まれてきたんだ、って。」


へえ~、とルクスは傍らの木を見上げた。


「もしかして、この木って、そのせいれいの木なのか?」


「どうだろ。分かんない。

 おばあちゃんは、どの木が精霊の木なのかは教えてくれなかった。

 大人になったら教えてあげる、って。」


そっか。とルクスは納得した。

アルテミシアってつくづく物知りだ。

おばあちゃんにいろんなことを習ってるからな。


「きっと、ミーロンとフラウラはこの木にお願いしたんだな。

 じゃあ、この赤ん坊、届けてやろうぜ?」


アルテミシアは、恐る恐る尋ねるみたいに、ルクスを見た。


「弟じゃなくて、残念じゃない?」


「え?」


ルクスは、きょとんとアルテミシアを見返した。


「いや、べつに?

 構わないだろ?

 ミーロンとこの子なら。

 同じ郷なんだし。

 俺たちの弟みたいなもんじゃねえか。」


ルクスの返事を聞いて、アルテミシアは、ほっとしたように笑った。


ずっと、ふたりが眠っている間、心配していたのだ。

ルクスは、この赤ん坊は弟じゃない、って分かったら、がっかりするかもしれない、って。


「けど、ときどき、ミーロンに貸してもらおうかな。

 俺、弟と一緒に寝てみたいんだ。」


ルクスは、へへっ、と笑って付け足すと、アルテミシアの心配にはまったく気付かずに、けろりと立ち上った。


「きっと、ミーロンたちも楽しみにしてるだろう。

 早く届けてやろうぜ?」


「あ、そっと。気を付けて?」


ふたりは赤ん坊が寒くないように自分たちの上着でくるむと、慎重に、でも、なるべく急いで郷に帰った。


赤ん坊は泣くこともなく、清んだ大きな目でふたりをずっと見ていた。

ルクスはもう嬉しくて仕方なくて、何度も何度も、腕の中の赤ん坊を確かめた。

そうして、赤ん坊と目が合うたびに、ますます嬉しくなるのだった。


あっという間に日は暮れてしまって、辺りは、暗くなっていった。

暗くなる前には帰るように言われていたから、また、遅くなって、と叱られそうだ。

だけど、今日は、仕方ないじゃないか。

赤ん坊を、見つけてきたんだから。

それを知ったら、きっと、みんな許してくれるだろう。


早く、早く、と焦って急ぐ目の前で、最後の残照は消えていって、ちょうど、村の入口にさしかかったときだった。


「ああっ!」


突然、アルテミシアのあげた叫び声に、ルクスは、なんだ?と顔を上げた。


そうして、アルテミシアの指差す先を見て、ルクスも、ぽっかりと口を開いた。


「にじ、だ…」


それは虹だった。

昼間、雨上がりになら、何度か見たことはあったけれど。

夜に虹を見たのは、初めてだった。


「すげー…」


急ぐのも忘れて、足を止める。

虹は、郷の上に見事にかかっていた。


何故だか、今年の冬至祭りは、いつにもまして、特別な感じがした。









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