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パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


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7

するすると崖をのぼり、光っている香草に辿り着いたルクスは、そこからアルテミシアを見下ろして言った。


「やっぱ、これ、香草だぜ。

 最高の火口、見つけたな!」


アルテミシアははらはらしながらも、ルクスがいいものを見つけられてよかったと思った。


「じゃあ、それ採って、下りといでよ。」


足場も手でつかむところもおぼつかない崖に、見ているほうも、胸の辺りがぎゅっとする。

早く安全な場所に下りてほしいのだけれど、ルクスは、そんなことにはお構いなかった。


「おおっ!

 あれは、なんだ?」


振り返った拍子に、なにか見つけたらしく、そっちのほうへ身を乗り出している。

アルテミシアは、血の気が引いていくのを感じた。


「いいから。

 早く、下りなって。」


「ぃゃ、ちょっと、待ってくれ…

 んんん?」


このままルクスのところへ飛んで行って、首根っこを捕まえて引きずり下ろしたい。

けれども、アルテミシアには、それは難しい注文だった。


「あれ、なんだろう?

 なんかさ、光ってるんだ。」


ルクスは危険、なんてものは、自分にはまったく関係ないと思っているのだろう。

何かをしきりに確かめるように、崖に沿って生えている木のほうへと身を乗りだした。


「ぅっ、ぅっ、ぅっ…」


驚き過ぎると、声も出ないらしい。

アルテミシアは、ただ、息を止めて、ルクスのすることを見守っている。


すると何を思ったのか、ルクスはいきなり、ひょい、とその木へと飛び移った。


「きゃあああああ!!!」


思わず、叫んでしまったのは、アルテミシアだった。

しんとした冬の森に、その声は響き渡った。


しばらくして、我に返ったアルテミシアが恐る恐る目を開けると、木のてっぺんから、ルクスが見下ろしているのに気付いた。


「おい。どうした?」


ルクスに尋ねられて、アルテミシアは、べつに、とそっぽをむいた。

もう、こんなやつ、ほうっておいて、帰ってしまおうか、という気になる。

ひとりで危ないことして、怪我でもなんでもすればいいんだ。

けれど、そこで、ルクスひとり放り出して帰ることのできないのが、アルテミシアだった。


「いや、それよりさ!」


アルテミシアの怒りはルクスには伝わらないらしい。

嬉しそうに報告をする。


「ここに、なんか、光ってるんだ。

 これ、なんだろう?」


「もう、いいからさ。

 火口だけ採って、早く下りておいでよ。」


泣きたくなってきた。

今ほど、空を飛べるようになりたい、と思ったこともない。

けれども、言うことなんか聞かないルクスだ。


「いや、本当、なんだろう?

 けっこう、大きいな。

 う、ん?

 おう。あったけえ。」


冬でも落ちない常緑樹の葉っぱに遮られて、ルクスの様子はアルテミシアには見えない。

けれども、なにやら、木の上で見つけたらしい、というのは、分かった。


「何、見つけたの?」


木の実か何かかな。

なら、さっさと採ってくればいいんだ。

だけど、大きい?

それに、あったかい?

あったかい木の実なんてのは、見たことがない。


「お?

 おおっ?」


ルクスは、そのあったかい木の実が気になって仕方ないのだろう。


「なんか、柔らかいんだ。

 ぷにぷにしている。」


ぷにぷに?

大きくて、あったかくて、ぷにぷに?


「あんまり、妙なもの、触らないほうがいいかも。」


森の中には、不思議なものが、たくさんあるんだ。

祖母はアルテミシアに、そう教えた。

そういうものの中には、手を触れずに、そっとしておくほうがいいものも、たくさんある。

うっかり見つけてしまっても、見なかったことにして、知らない顔をするんだよ。


すると、がさがさっと、木の枝が揺れたかと思うと、ぶちっ、と何かを引き千切るような音がした。


「おうっ!

 採ったぞ!」


そうかそうか。

採ってしまったか。


「いいから、下りて…」


「おわ?

 おっ、おっ、おっ…」


「ルクスッ!!!」


アルテミシアは、思わず、ルクスを受け止めるように、両手を差し出した。

受け止められるかどうか、なんて考えてなかった。

ただ、反射的にそうしていた。


がさがさがさっ。

木の枝が、あちこちで揺れる。

どこだ?

ルクスはどこだ?

アルテミシアは目を凝らした。


すると、そのときだった。


ふわり、と温かな色の灯が灯った。

すると、森全体が、まるで呼応するように、同じ色の光に染まった。


光のなか、ゆっくりと、気を失ったままのルクスが、地面に下りてきた。

眠ったように目を閉じているけれど、その腕の中には、大切そうに、何やら抱えていた。


慌てて駆け寄ったアルテミシアは、ルクスの息がちゃんとあるのを確かめて、とりあえず、ほっと一息ついた。

それから、その腕の中のものを確かめた。


それは、一抱えもあるほどの、大きな丸いものだった。

形だけなら、虫の作る繭に似ている。

恐る恐る手を触れて見たら、ふにふにと柔らかくて、ほんのり温かかった。


どうやら、これが、ルクスが木の上で見つけたものらしい。

これをむしり取ったときに、バランスを崩したのだろう。


けれど、ルクスが怪我をしなくて、本当によかった。

さっきの不思議な光のおかげだと思う。

まるで、森全体がルクスを守ってくれたみたいだった。


それにしても、奇妙な木の実だった。

こんなものは見たことがない。


しげしげと、アルテミシアが見ていると、大きな繭は光りながら、ゆっくりと形を変え始めた。

まず最初に、頭とからだが分かれて、小さな手足も生えてくる。

顔立ちがはっきりしたかと思うと、ぱっちりとひらいた目は、アルテミシアをじっと見つめた。


「う、うわっ。」


っ、こ、これは…


赤ん坊の木の実だっ!

アルテミシアは思った。







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