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するすると崖をのぼり、光っている香草に辿り着いたルクスは、そこからアルテミシアを見下ろして言った。
「やっぱ、これ、香草だぜ。
最高の火口、見つけたな!」
アルテミシアははらはらしながらも、ルクスがいいものを見つけられてよかったと思った。
「じゃあ、それ採って、下りといでよ。」
足場も手でつかむところもおぼつかない崖に、見ているほうも、胸の辺りがぎゅっとする。
早く安全な場所に下りてほしいのだけれど、ルクスは、そんなことにはお構いなかった。
「おおっ!
あれは、なんだ?」
振り返った拍子に、なにか見つけたらしく、そっちのほうへ身を乗り出している。
アルテミシアは、血の気が引いていくのを感じた。
「いいから。
早く、下りなって。」
「ぃゃ、ちょっと、待ってくれ…
んんん?」
このままルクスのところへ飛んで行って、首根っこを捕まえて引きずり下ろしたい。
けれども、アルテミシアには、それは難しい注文だった。
「あれ、なんだろう?
なんかさ、光ってるんだ。」
ルクスは危険、なんてものは、自分にはまったく関係ないと思っているのだろう。
何かをしきりに確かめるように、崖に沿って生えている木のほうへと身を乗りだした。
「ぅっ、ぅっ、ぅっ…」
驚き過ぎると、声も出ないらしい。
アルテミシアは、ただ、息を止めて、ルクスのすることを見守っている。
すると何を思ったのか、ルクスはいきなり、ひょい、とその木へと飛び移った。
「きゃあああああ!!!」
思わず、叫んでしまったのは、アルテミシアだった。
しんとした冬の森に、その声は響き渡った。
しばらくして、我に返ったアルテミシアが恐る恐る目を開けると、木のてっぺんから、ルクスが見下ろしているのに気付いた。
「おい。どうした?」
ルクスに尋ねられて、アルテミシアは、べつに、とそっぽをむいた。
もう、こんなやつ、ほうっておいて、帰ってしまおうか、という気になる。
ひとりで危ないことして、怪我でもなんでもすればいいんだ。
けれど、そこで、ルクスひとり放り出して帰ることのできないのが、アルテミシアだった。
「いや、それよりさ!」
アルテミシアの怒りはルクスには伝わらないらしい。
嬉しそうに報告をする。
「ここに、なんか、光ってるんだ。
これ、なんだろう?」
「もう、いいからさ。
火口だけ採って、早く下りておいでよ。」
泣きたくなってきた。
今ほど、空を飛べるようになりたい、と思ったこともない。
けれども、言うことなんか聞かないルクスだ。
「いや、本当、なんだろう?
けっこう、大きいな。
う、ん?
おう。あったけえ。」
冬でも落ちない常緑樹の葉っぱに遮られて、ルクスの様子はアルテミシアには見えない。
けれども、なにやら、木の上で見つけたらしい、というのは、分かった。
「何、見つけたの?」
木の実か何かかな。
なら、さっさと採ってくればいいんだ。
だけど、大きい?
それに、あったかい?
あったかい木の実なんてのは、見たことがない。
「お?
おおっ?」
ルクスは、そのあったかい木の実が気になって仕方ないのだろう。
「なんか、柔らかいんだ。
ぷにぷにしている。」
ぷにぷに?
大きくて、あったかくて、ぷにぷに?
「あんまり、妙なもの、触らないほうがいいかも。」
森の中には、不思議なものが、たくさんあるんだ。
祖母はアルテミシアに、そう教えた。
そういうものの中には、手を触れずに、そっとしておくほうがいいものも、たくさんある。
うっかり見つけてしまっても、見なかったことにして、知らない顔をするんだよ。
すると、がさがさっと、木の枝が揺れたかと思うと、ぶちっ、と何かを引き千切るような音がした。
「おうっ!
採ったぞ!」
そうかそうか。
採ってしまったか。
「いいから、下りて…」
「おわ?
おっ、おっ、おっ…」
「ルクスッ!!!」
アルテミシアは、思わず、ルクスを受け止めるように、両手を差し出した。
受け止められるかどうか、なんて考えてなかった。
ただ、反射的にそうしていた。
がさがさがさっ。
木の枝が、あちこちで揺れる。
どこだ?
ルクスはどこだ?
アルテミシアは目を凝らした。
すると、そのときだった。
ふわり、と温かな色の灯が灯った。
すると、森全体が、まるで呼応するように、同じ色の光に染まった。
光のなか、ゆっくりと、気を失ったままのルクスが、地面に下りてきた。
眠ったように目を閉じているけれど、その腕の中には、大切そうに、何やら抱えていた。
慌てて駆け寄ったアルテミシアは、ルクスの息がちゃんとあるのを確かめて、とりあえず、ほっと一息ついた。
それから、その腕の中のものを確かめた。
それは、一抱えもあるほどの、大きな丸いものだった。
形だけなら、虫の作る繭に似ている。
恐る恐る手を触れて見たら、ふにふにと柔らかくて、ほんのり温かかった。
どうやら、これが、ルクスが木の上で見つけたものらしい。
これをむしり取ったときに、バランスを崩したのだろう。
けれど、ルクスが怪我をしなくて、本当によかった。
さっきの不思議な光のおかげだと思う。
まるで、森全体がルクスを守ってくれたみたいだった。
それにしても、奇妙な木の実だった。
こんなものは見たことがない。
しげしげと、アルテミシアが見ていると、大きな繭は光りながら、ゆっくりと形を変え始めた。
まず最初に、頭とからだが分かれて、小さな手足も生えてくる。
顔立ちがはっきりしたかと思うと、ぱっちりとひらいた目は、アルテミシアをじっと見つめた。
「う、うわっ。」
っ、こ、これは…
赤ん坊の木の実だっ!
アルテミシアは思った。




