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そんなことがあった数日後。
ルクスは、アルテミシアと一緒に、森に薬草を探しに行くことになった。
実は、ルクスは、この幼馴染のことが、あまり得意ではなかった。
ルクスより、ほんのひと月先に生まれただけなのに、皆の中では、アルテミシアは、姉、で、ルクスは、弟、な扱いをされていた。
しっかり者の賢い姉と、何をしでかすか分からないバカな弟。
みんなの評価はほぼそれで一致していて、何かあるたびに、アルテミシアを引き合いにされて、叱られる。
実は、アルテミシアには、その責任はなかったのだけれど、ルクスは、それを、多少、恨みに思っていた。
無口で真面目。
何事にも、こつこつと努力をするタイプ。
大人に言われたことは、すぐに分かるし、素直に言いつけも守る。
家族に習っている薬草の知識は、郷の大人たちも顔負けなほどに、広く深い。
それでいて、歌を歌わせれば、森の木々を吹き渡る風さえも、鳴りをひそめる、と言われるほどの上手。
最近習い始めた弓も、みるみる上達して、落ちてくる木の葉さえ射抜くそうだ。
まったく、褒めるところしかないお嬢さんだ、と、ルクスの母親は、アルテミシアのことを話すたびに、そう言って深々とため息を吐く。
それも、ルクスにとっては、面白くなかった。
確かに、ルクスは、口数は多い。
何かしゃべりだすと止まらなくなって、そのうちに、自分でも何を話していたのか分からなくなったりするけど、それでも、黙らない。
そうして大抵、いい加減黙りなさい、と叱られるまでしゃべっている。
真面目?
いや、それは、おいておくとして。
こつこつ…は、石で何かを叩く音だ。
大人に何か言われたら、もちろん、それは分かる。
ただ、それに従いたくなければ、従わない。
薬草の得意な家族なんかいないから、自分ができなくても仕方ない。
歌?
歌は歌える。もちろん。
力いっぱい、歌う。
風がびゅうびゅう吹いてきて、ルクスの歌を掻き消してしまうけど。
負けるもんか。
弓…は、むいてない。自分は。
多分、きっと、むいているものは、他にある。
今はまだ、それを決めていないだけ。
だけど、ルクスにも、アルテミシアよりできる、と思えることもあった。
たとえば、木登り。
高いところから飛び下りるのも。
走るのだって、ほんのちょっぴりだけど、アルテミシアより速く走れる。
あとは…
いろいろ、あるはずだ。うん。今はちょっと見つかってないだけで。
そのルクスの能力を買われて、今日は、薬草採りを手伝うことになった。
どうやら、その薬草は、崖っぷちの、きわどいところにしか生えていないらしい。
アルテミシアひとり、そんな場所に行かせるのは、心配だから、とルクスの出番となったわけだ。
朝早く、ルクスの母親のとびきりのお弁当を持たされて、ふたりは、郷を出発した。
母親はふたりぶんのお弁当を作って、アルテミシアにも手渡すと、くれぐれも息子を頼む、と何度も言った。
ルクスはそれも、多少、不満である。
けれども、気持ちのいい森の小径を歩いていると、そんなことも次第に忘れていった。
「なんなら、俺、ひとりで、行ってきてやってもいいけど?」
ルクスはここぞとばかりに、アルテミシアに得意風を吹かせた。
アルテミシアは、ちらりとルクスを見て、淡々と返した。
「いや。
君ひとりだと、毒草を採ってきたら、困る。」
「そおいうところなんだよおおおお!」
思わず叫んだルクスに、アルテミシアは、きょとんとしている。
まったく、身に覚えはありません、という顔だ。
ルクスは、ぜいぜいと息を吐いた。
どんなに本気で喧嘩を売っても、アルテミシアはいつも、さらり、とかわしてしまう。
まったく、喧嘩にならない。
怒ったり、怒鳴ったりで、ルクスはすっかり気力体力を使い果たし、たいていいつも、不戦敗だった。
「お前ってさあ、腹が立つとか、思わないわけ?」
「何に?」
「俺に。
喧嘩売られてんのに。」
「そうだったのか。」
目を丸くして、そんなふうに返されれば、ルクスの闘志も、すっかり毒気を抜かれて、萎んでしまった。
「ちぇっ。」
後は、足元の小石を蹴って、八つ当たりするくらいしかない。
「今日は一緒に来てくれて、有難う。」
てくてくと先を急ぎながら、アルテミシアは急にそんなことを言った。
驚いたルクスは、振り返った拍子に、石につまづいて、転びそうになった。
そこを、おっとっと、とバランスを取って、転ぶのは回避。
うん、やっぱ、俺って、格好いい、と、悦に入ってから、アルテミシアに話しかけられていたのを思い出した。
「え?
有難う?
なにそれ、俺に言ってんの?」
アルテミシアは慎重に辺りを見回してから、答えた。
「ここには、他に、誰もいない。」
「なんで?
なんで、お前が、有難う?」
「一緒に、来てくれたから。」
アルテミシアは律儀に、さっき言ったことをもう一度繰り返した。
「今日は、一緒に来てくれて、有難う。」
「あ。
ぁぁ………うん。」
どうにも調子を狂わされる。
ルクスは、きょろきょろと辺りを見回した。
「な。
そうだな。
こんなふうに、お前と森を歩くのも、悪くないな。」
「うん。」
アルテミシアは、にこっとして、ルクスの真似をして、森を眺めた。
そのアルテミシアの笑顔に、ルクスの目はじっと釘付けになっていた。
「………う、ん?
どうかした?」
ルクスの視線に気づいたアルテミシアは、不思議そうに尋ねた。
「いいや!!!」
急いで否定したら、なんだか余計な力一杯になった。
だけど、アルテミシアの笑った顔が可愛いとか、ちらっと、思ったなんて、絶対の絶対に、誰にも知られたくなかった。




