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パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


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4

そんなことがあった数日後。

ルクスは、アルテミシアと一緒に、森に薬草を探しに行くことになった。


実は、ルクスは、この幼馴染のことが、あまり得意ではなかった。

ルクスより、ほんのひと月先に生まれただけなのに、皆の中では、アルテミシアは、姉、で、ルクスは、弟、な扱いをされていた。


しっかり者の賢い姉と、何をしでかすか分からないバカな弟。


みんなの評価はほぼそれで一致していて、何かあるたびに、アルテミシアを引き合いにされて、叱られる。

実は、アルテミシアには、その責任はなかったのだけれど、ルクスは、それを、多少、恨みに思っていた。


無口で真面目。

何事にも、こつこつと努力をするタイプ。

大人に言われたことは、すぐに分かるし、素直に言いつけも守る。

家族に習っている薬草の知識は、郷の大人たちも顔負けなほどに、広く深い。


それでいて、歌を歌わせれば、森の木々を吹き渡る風さえも、鳴りをひそめる、と言われるほどの上手。

最近習い始めた弓も、みるみる上達して、落ちてくる木の葉さえ射抜くそうだ。


まったく、褒めるところしかないお嬢さんだ、と、ルクスの母親は、アルテミシアのことを話すたびに、そう言って深々とため息を吐く。

それも、ルクスにとっては、面白くなかった。


確かに、ルクスは、口数は多い。

何かしゃべりだすと止まらなくなって、そのうちに、自分でも何を話していたのか分からなくなったりするけど、それでも、黙らない。

そうして大抵、いい加減黙りなさい、と叱られるまでしゃべっている。


真面目?

いや、それは、おいておくとして。


こつこつ…は、石で何かを叩く音だ。


大人に何か言われたら、もちろん、それは分かる。

ただ、それに従いたくなければ、従わない。


薬草の得意な家族なんかいないから、自分ができなくても仕方ない。


歌?

歌は歌える。もちろん。

力いっぱい、歌う。

風がびゅうびゅう吹いてきて、ルクスの歌を掻き消してしまうけど。

負けるもんか。


弓…は、むいてない。自分は。

多分、きっと、むいているものは、他にある。

今はまだ、それを決めていないだけ。


だけど、ルクスにも、アルテミシアよりできる、と思えることもあった。


たとえば、木登り。

高いところから飛び下りるのも。

走るのだって、ほんのちょっぴりだけど、アルテミシアより速く走れる。

あとは…

いろいろ、あるはずだ。うん。今はちょっと見つかってないだけで。


そのルクスの能力を買われて、今日は、薬草採りを手伝うことになった。

どうやら、その薬草は、崖っぷちの、きわどいところにしか生えていないらしい。

アルテミシアひとり、そんな場所に行かせるのは、心配だから、とルクスの出番となったわけだ。


朝早く、ルクスの母親のとびきりのお弁当を持たされて、ふたりは、郷を出発した。

母親はふたりぶんのお弁当を作って、アルテミシアにも手渡すと、くれぐれも息子を頼む、と何度も言った。

ルクスはそれも、多少、不満である。

けれども、気持ちのいい森の小径を歩いていると、そんなことも次第に忘れていった。


「なんなら、俺、ひとりで、行ってきてやってもいいけど?」


ルクスはここぞとばかりに、アルテミシアに得意風を吹かせた。


アルテミシアは、ちらりとルクスを見て、淡々と返した。


「いや。

 君ひとりだと、毒草を採ってきたら、困る。」


「そおいうところなんだよおおおお!」


思わず叫んだルクスに、アルテミシアは、きょとんとしている。

まったく、身に覚えはありません、という顔だ。


ルクスは、ぜいぜいと息を吐いた。


どんなに本気で喧嘩を売っても、アルテミシアはいつも、さらり、とかわしてしまう。

まったく、喧嘩にならない。

怒ったり、怒鳴ったりで、ルクスはすっかり気力体力を使い果たし、たいていいつも、不戦敗だった。


「お前ってさあ、腹が立つとか、思わないわけ?」


「何に?」


「俺に。

 喧嘩売られてんのに。」


「そうだったのか。」


目を丸くして、そんなふうに返されれば、ルクスの闘志も、すっかり毒気を抜かれて、萎んでしまった。


「ちぇっ。」


後は、足元の小石を蹴って、八つ当たりするくらいしかない。


「今日は一緒に来てくれて、有難う。」


てくてくと先を急ぎながら、アルテミシアは急にそんなことを言った。

驚いたルクスは、振り返った拍子に、石につまづいて、転びそうになった。

そこを、おっとっと、とバランスを取って、転ぶのは回避。

うん、やっぱ、俺って、格好いい、と、悦に入ってから、アルテミシアに話しかけられていたのを思い出した。


「え?

 有難う?

 なにそれ、俺に言ってんの?」


アルテミシアは慎重に辺りを見回してから、答えた。


「ここには、他に、誰もいない。」


「なんで?

 なんで、お前が、有難う?」


「一緒に、来てくれたから。」


アルテミシアは律儀に、さっき言ったことをもう一度繰り返した。


「今日は、一緒に来てくれて、有難う。」


「あ。

 ぁぁ………うん。」


どうにも調子を狂わされる。

ルクスは、きょろきょろと辺りを見回した。


「な。

 そうだな。

 こんなふうに、お前と森を歩くのも、悪くないな。」


「うん。」


アルテミシアは、にこっとして、ルクスの真似をして、森を眺めた。

そのアルテミシアの笑顔に、ルクスの目はじっと釘付けになっていた。


「………う、ん?

 どうかした?」


ルクスの視線に気づいたアルテミシアは、不思議そうに尋ねた。


「いいや!!!」


急いで否定したら、なんだか余計な力一杯になった。


だけど、アルテミシアの笑った顔が可愛いとか、ちらっと、思ったなんて、絶対の絶対に、誰にも知られたくなかった。







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