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パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


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郷人たちが、広場でそんな話し合いをしていたころ。

森の狩小屋で子どもたちは、すやすやと眠っていた。


家以外で眠ったのは、どの子どもにとっても初めてのことだ。

眠りに就く前は、そのことが、不安だったけれど。

ミーロンは、そんな子どもたちが、ぐっすりと眠りに落ちるまで、ついていてくれたから。

そのうちに、うつらうつらして、ひとり、またひとりと、夢の中へ落ちていった。


拾い子を真ん中にして、左右にはルクスとアルテミシア。

アルテミシアは、拾い子を抱きしめるようにして眠っている。

そして、ルクスは、そのアルテミシアを、拾い子ごと抱きしめて眠っていた。


親しい人のぬくもりは、不安なときに、とてもいい薬になる。

三人の子どもたちにとって、お互いがお互いを助け合ういい関係なのだと、その寝姿を見ても分かった。


三人を残して、ミーロンは郷に戻った。

そうして、静かに、夜は更けていく。


真夜中。

ルクスに蹴とばされて、アルテミシアは、ふっと目が覚めた。

ルクスは、ぐぅぐぅとよく眠っている。

のせられた足を、ぐいと押しやったら、ふーん、と何か言ったけれど、目は覚まさなかった。


アルテミシアも眠くて眠くて仕方ない。

もう一度、眠りに就こうとして、はっとした。


拾い子が、いない。


暗い中、あちこち探ってみたけれど、眠る前には、確かにこの腕の中にいたはずのぬくもりは、どこにも見つからない。


そういえば、ミーロンの姿もない。


とうとうアルテミシアは起き上がると、拾い子とミーロンを探し始めた。


小屋の中には、小さく暖炉の火を残してあった。

その薄明りを手掛かりに、アルテミシアは、小屋の隅々まで見て回った。


けれど。

どこにも、いない。


もしかして、小屋の外に行ってしまったんだろうか。


アルテミシアは、ルクスを起こそうとした。

けれど、揺すっても揺すっても、ルクスは起きない。

大きな声で名前を呼んだり、思い切って、腕をつねってみたけど、起きない。

腹立ち紛れに、軽く蹴っ飛ばしたら、うーん、と言ったけれど、目は覚まさなかった。


これはダメだ。

これを起こしているくらいなら、早く探しに行こう。


そう思ったアルテミシアは、小屋の戸に手をかけた。


戸に鍵はなかった。

元々ついていない。

把手を軽く掴むと、簡単に開いた。


外は思ったよりも寒かった。

アルテミシアは、ふぅ、と思わずからだを縮めた。

このまま、小屋に戻って、もう一度寝てしまおうか、と思った。

温かい寝床を思うと、そうしたほうがいいような気がした。


拾い子は、多分、ミーロンと一緒だ。

拾い子は、ミーロンの家の子どもなのだから。

だから、きっと、何も、心配することなど、必要ない。


頭の中ではそう思うのだけれど。

足は、一歩、前に踏み出していた。


ひゅう、と風が吹く。

寒い。


戻って、何か、羽織るものを取ってこようか。

やっぱり、ルクスを起こして、一緒に行こうか。

いやいや。とりあえず、その辺りまで…


思案しながら、ぐるっと小屋を一周した。

ふたりの姿はない。

裏手のベリーの茂みを覗き込む。

まさか、こんなに寒い夜中に、ベリーをつまみ食いに行くとは思わないけれど。

ルクスなら、びっくりするようなことも、よくやるし。

あの子も同じ男の子だから、もしかしたら、そういうところも、あるかもしれない。


けれど、茂みにも、ふたりはいなかった。

思い切って、水場にまで足を延ばしたけれど、そこにも見つからなかった。


ううう。寒いぃぃぃ。

それにしても、寒い。

歯の根が合わずにがちがち言う。


もう、帰ろう。

帰ってしまおう。


頭の中ではそう言うのに、アルテミシアは、まだ歩き続けた。


郷まで、歩く?

かなり、遠いと思う。

それに、正直、道も分からない。


うろついて迷子になったら、余計な迷惑をかける。

それは、いいことだとは思わない。


ルクスと一緒なら?

ルクスには、不思議な力がある。

森の中で、一切、迷わないのだ。

それは、アルテミシアも、常々不思議だった。

いつも、適当に、好きなように、歩いているのに。

必ず、目的地には、辿り着くのだ。


そうだ、やっぱり、ルクスを起こそう。

それがいい。


一筋縄では起きそうにないけど。

そうだ。

この水を、頭からかけてやろう。


アルテミシアは水場をきょろきょろすると、ちょうど、小さなカップを見つけた。

これに汲める水の量は、そんなにはないけど。

勢いをつけて、いきなりかけたら、きっと、驚くはず。


カップに並々と水を汲むと、そろりそろりと振り返る。

この水を零さずに小屋に戻るのは、また至難の業だった。


そのときだった。


ふわり、と目の前が光った。

はっとして顔をあげると、ほんのり温かい色の光の中に、人の姿が浮かび上がった。


「こんばんは。お嬢さん。」


その人は、アルテミシアに穏やかに声をかけた。


銀色の長い髪に、銀色の瞳。

年は分からないけれど、もしかしたら、うんとお年寄りかもしれない。


アルテミシアは、ぼんやりと、その人を見上げた。


その人は、アルテミシアの手のカップを見ると言った。


「こんな真夜中に、喉が渇いたのかな?」


アルテミシアは、はっとして、慌ててカップを背中に隠した。

並々と入っていた水が、ばしゃりと足元に零れてしまう。

なんとなく、ルクスにかけるために、汲みました、とは言い難かった。






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