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子どもたちを寝かしつけてから、ミーロンは郷に戻った
稀人たちは、族長の家に連れて行かれて、そこで饗応を受けている。
残りの郷人は、広場に集まって、ひそひそと話し合っていた。
ミーロンの顔を見て、真っ先に駆け寄ったのは、ルクスの母親だった。
「うちのバカ息子は?」
「大丈夫。
夕飯もちゃんと食べたし、今は、ゆっくり眠ってます。」
よかった…と言うと、力が抜けたように、母親はそこへ座り込んだ。
「いや、それは、フラウラからも聞いてたんだけど。
あの子、家以外で眠ったことなんかなかったから。
ちゃんと、眠れたかどうか、心配で…」
言い訳のように言い募るのに、ミーロンは、お気持ちお察ししますよ、と頷いた。
「俺だって、いてもたってもいられなくて、走っていきましたから。」
「お宅は、うちのより、もっとお小さいものね?
もっとも、お宅の息子さんのほうが、うちのより、何倍もしっかりしていらっしゃると思うけれども。」
母親はくどくどと言って頭を振った。
「あたしも、ルクスのところへ行きたいけれど…
あんまり大人たちがそこへ行ったりしたら、稀人たちに勘付かれてしまうかもしれないし…」
「ミーロンに任せておけば大丈夫だ、って言ってたんですよ。」
気丈にそう言ったのは、アルテミシアの母親だった。
「ええ、ええ。みなさん、そう言ってくださるんですけどね?
なんだかあたし、そら耳まで聞こえてきちまって…」
「そら耳?」
「うちの息子の声がね?したんですよ。
母ちゃん、俺は無事だ、心配するな、ってね?
聞き間違いなんかじゃない、確かに、息子の声ではっきりと、そう聞こえたんです。
けどね?
あの子がそんな殊勝なことを言うはずがない。
これはなにか、いけないことの前触れなんじゃないか、って。
そりゃあもう、気が気じゃなくて…」
あっちゃ~、とミーロンは額を抑えた。
「それは、あの、秘術、というか…」
「秘術?!
いやいや、あの子に、そんな高尚な真似は…」
「すいません。
驚かせてしまって。
そのやり方を教えたのは俺です。
正直、うまくいくかどうか、分かりませんでしたけど。
あいつら、案外、器用で…」
「ええっ?
じゃあ、あれは、本当に、うちの息子が、寄越したものなんですか?
なんとまあ。」
母親は、なんとまあ、なんとまあ、と繰り返した。
「そのような秘術があるのですね?」
そう言ったのは、アルテミシアの母親だった。
「わたしも、あの子の声を聞きました。
お母さん、わたしたちは大丈夫、って。」
「わたしたち?」
そう聞き返したミーロンに、アルテミシアの母親は、ちらりと微笑した。
「あの子はいつも、わたし、ではなく、わたしたち、と言うのですよ。
わたしたち、で考えるのが、もう癖になってしまっているのですね。」
「そっか。
アルテミシアらしいな。」
アルテミシアが、ごくごく自然にそう伝えるところに、ミーロンは少し感心した。
淡々としているように見えて、いつもアルテミシアは、あとのふたりに気を配っている。
仲間を守ろうとしている。
「あたしのところには、ふたつ、届いた。
あなたの声と。うちのおチビさんの声。」
フラウラはそう言って近付いてきた。
「だからね、みなさんに、そう言って、大丈夫だ、ってお話ししたの。」
「ごめんなさいね、あたしってば、あなたのおっしゃることをなかなか信じられなくて…」
ルクスの母親は申し訳なさそうにフラウラに謝った。
「いいえ。
うちの郷の人たちなら、この秘術に馴染みもありますけれど。
秘術だと知らなければ、驚いても当然です。」
フラウラにそう言われて、ルクスの母親も、少しほっとしたようだった。
「なんにせよ、今のところ、子どもたちは無事なのですね。」
アルテミシアの母親は頷いた。
ルクスの母親は、今のところ、と小さく呟いてから、ため息を吐いた。
「この難局を、いったいどうやって切り抜けたものか。」
そう言ったのはアルテミシアの父親だった。
「あんな人たちに、なんとしても、可愛いおチビちゃんを渡すものですか。」
ルクスの母親は怒ったように言った。
「大丈夫。きっと、皆の知恵を合わせれば、切り抜けられます。」
ルクスの父親は、皆を励ますように言った。
あの稀人たちに見つかって危険なのは、拾い子だけだった。
ルクスとアルテミシアは、おそらく、なんの危険もないだろう。
けれども、誰も、さっさと拾い子を差し出してしまえ、とは言わなかった。
むしろ、皆は、当然のように、拾い子のことも、救おうとしていた。
ルクスやアルテミシアの両親も、うちの子どもは巻き込まれて迷惑だ、とは言わなかった。
ミーロンは、そのことを、とても有難いと感じていた。
「わたしたちが、あの子を連れて、郷を出るのは、どうかしら?」
そう言ったフラウラに、ルクスの母親は、ぶんぶん首を振った。
「そんなのダメよ。
まだあんなに小さいのに。
旅をさせるなんて、無理。」
「もし、稀人たちに見つかったら、君たちふたりじゃ、対抗できないだろう?」
アルテミシアの父親も言った。
「郷の子どもは、郷の大人、全員で守る。」
ルクスの父親も言った。
「稀人たちには、この郷に、子どもがいることは知られてしまった。」
誰かがそう言った。
「いずれ、子どもたちを、あの人たちに会わせないわけにもいくまい。」
「ルクスとアルテミシアだけ会わせるのはどうだ?」
「しかし、稀人は、子どもたちに何か聞くかもしれん。
アルテミシアはともかく、ルクスは、何もかも話してしまうだろう。」
皆が口々に話し始めた。
「ならば、アルテミシアだけ、会わせるか。」
「アルテミシアならば、きちんと言い含めれば、うまく切り抜けてくれるのではないか?」
確かに、そうだな、とあちこちから飛び交う声の中、アルテミシアの両親だけ、少し困った顔をしていた。




