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葉っぱの蝶を送ると、みんなして夕食の支度を始めた。
ミーロンは、沢で魚をたくさん釣ってきていた。
それを丁寧に鱗を取ってから、削った木の枝を刺す。
その間に、子どもたちは、近くから、粗朶を集めてきた。
「お前ら、なかなか有能だなあ。」
ミーロンは、子どもたちの集めた粗朶を見て言った。
生木ではなく、ちゃんと乾燥したのを集めてある。
太さも太すぎもせず、細すぎもせず、ちょうどいい頃合いのを、揃えてあった。
「こいつがうるさいんだ。
それはダメ、そっちのはダメ、って。」
ルクスはぶつくさ言ったけれど。
どうやら、アルテミシアの選択眼の成果のようだ。
「あのね、ルクスは、たっくさん集めるんだ。
だからさ、アルテミシアは選び放題なんだよ。」
拾い子は、ルクスの後ろから、ちらっと顔を出して注進した。
ミーロンは、この三人の関係がおかしかった。
なんとも絶妙なバランスだ。
三人三様なのだけれど、それがうまく組み合わさって、いい関係を築けている。
そのひとりに、自分の子が加わっているのも、妙に嬉しかった。
突然、現れた拾い子だったけれど。
今やもう、ミーロンにとっては、かけがえのない我が子だ。
粗朶を積み重ねて小さな焚火を作り、その周りに串に刺した魚を並べる。
手際よく作業をするミーロンを、子どもたちはわくわくと見守っている。
どんなときも、子どもの好奇心は、失われることはない。
ことにルクスは、少し見ていると、すぐに自分もやりたがる。
よく言えば積極的、悪く言えば、怖いモノ知らずだ。
うまくできないかもしれない、などという懸念は、ルクスの中には、欠片もない。
その点、アルテミシアは、いつも、一歩引いて、慎重だった。
じっと観察をして、必要な技量を量っている。
それから、自分もそれはできそうだ、と判断すれば、恐る恐る手を出してきた。
三人の中で、一番慎重なのは、拾い子だった。
一番幼いから、というのもあるのだろうけれど。
まず、あとのふたりに了解を取らないと手を出さない。
判断も、自分自身でするより、年長のふたりに任せているところもあった。
ぱちぱちと粗朶は燃えて、魚からじゅうじゅうと脂が垂れる。
ルクスはもう、涎を垂らさんばかりに、目をきらきらさせて、魚を凝視している。
アルテミシアは、魚の焼ける変化が面白いのか、じっと観察していた。
ただ、拾い子は、魚が怖いのか、アルテミシアの背中に隠れて、そこからときどき覗いていた。
滅多に困らせることをしない子どもだけれど、偏食だけは、ミーロンとフラウラも手を焼いていた。
森の民は、確かに、あまり肉は食べない。
木の実やベリーが食の中心になっている。
けれど、まったく食べないわけではない。
ことに、魚は沢で手に入れてよく食べていた。
けれど、この子どもは、魚もほとんど食べなかった。
食事に出すと、いつまでも食べきれなくて、困った顔をして、ずっとテーブルに座っている。
フラウラは、それでも、食べなさいと厳しく言ったけれど。
ミーロンは見かねて、こっそり、自分が食べてやったりしていた。
偏食など、そのうち治るものだと思うけれど。
フラウラに叱られてしょんぼりするのは、見ていられない。
フラウラも、子どものことを思えばこそ叱るのだろうし。
ミーロンには、こっそり、皿の上の魚を減らしてやるくらいしかできなかった。
さて、今日は食べるかな?
ルクスにつられて食べてくれるといいんだが。
ベリーをたくさん摘んできたみたいだけれど、もしかしたら、そのときにつまみ食いをして、もうお腹いっぱいかな。
流石に、息子の生態をよく把握している。
まあ、それならそれでいいか。
今日は、フラウラに叱られる心配もないしな。
そこは、ミーロンも、ほっとしているところだった。
それにしても、あの水場をよく見つけたなと思う。
ベリーの茂みは、鬱蒼としていて、ちょっと見たところでは、小径の存在も気付かない。
そのむこうに、水があると知っていなければ、わざわざ、その見つけにくい道を見つけようともしないはずだ。
ミーロンは、息子をじっと見つめた。
もしかしたら、それも、この子どもの…
さっき、拾い子の葉っぱの蝶が、真っ先に飛んだのを思い出す。
それから、拾い子が、何かを念じるようにした途端に、ルクスたちの蝶も飛んだのを。
アルテミシアの秘術で見つけた、と言ったか。
確かに、そういう秘術があることは、ミーロンも知っていた。
けれど、その秘術は、そう簡単に習得できるものじゃない。
何年も、ことによっては、何十年も、練習が必要なものだ。
それを、たった数年しか生きていない子どもが、やってのけた。
それも、もしかしたら…
子どもたちは、それがどんなに特別なことなのか、気付いていない。
うまくいったことを、ただ単純に喜んでいた。
それはとても危ういことのように思う。
あの稀人たちに、もしもうっかり、誰かがそれを話してしまったら…
子どもたちに悪気など毛頭あるはずもない。
ただ、それはそれで、危険な要因だった。
とはいえ。
子どもの口に戸は立てられない。
ましてや、ルクスの口には、戸どころか、帳をかけるのさえ、難しいだろう。
こういうときにうまく切り抜ける術など、まだまだ縁のない子どもたちだ。
しかし、この子どもたちの存在を、稀人の目から隠し続ける、というのもまた、至難の業だった。
この郷には、子どもがいる、ということは、知られてしまっている。
いつかは、子どもたちを、稀人に会わせないといけないだろう。
さて、どうやって、切り抜けるか。
咄嗟に、子どもたちを隠したけれども。
こうやって稼いだ時間も、そうたくさんはない。
今のうちに、なにか妙安を思い付かなければ。
気持ちは焦るけれど、そもそも、そんな妙案など、思い付けそうにもない。
郷の平穏な日常に、隠し事も謀も、まったくの無縁な暮らしだった。
人の好い郷人たちには、そのような才はまったくなかったのだ。
どうしたものかな…
夜になって、こどもたちを寝かせたら、郷に戻ってみるか。
大人たちは、稀人たちに気付かれないように、きっとどこかに集まって、こっそり相談をするだろう。
ひとりでは難しくても、郷の大人たち全員の知恵を集めれば、何か、思い付けるかもしれない。
子どもたちも、三人の知恵と力を合わせて、見事に、任務を果たしたのだから。
大人も負けているわけにはいかない。
「なあなあ、ミーロン。
魚、焦げてないか?」
焚火をぼんやり見つめながら考え事をしていたミーロンは、つんつんと袖を引かれて、はっと我に返った。
見ると目の前の魚は、こんがり、を今にも通り越そうとしている。
「う、わっ、やべっ。」
ミーロンは慌てて魚の串を取った。
「おう、ルクス。お前も、そこの、自分で取って食え。」
「え?自分でやっていいのか?」
ルクスは途端に目をきらきらさせて、さっさと目の前の串を取った。
「アルテミシア、お前も。」
「分かった。」
アルテミシアも難なく、魚を救出した。
「ぼうや…は、無理か…」
目を丸くして、口をへの字に曲げ、困ったようにこっちを見上げている息子に、ミーロンは苦笑した。
分かった分かった。お前は、無理だ。
「おう。俺が取ってやる。
任せとけ。」
ルクスはそう言うなり、両手に串を持って、ひとつを拾い子のほうへ差し出した。
「ここへかぶりつけ。
ここなら、食いやすいから。
うんまいぞ?」
拾い子はびくびくしながらも、ルクスの差し出した串を取った。
「食べやすいところだけ食べな。
残したら、後はルクスが全部食べるって。」
アルテミシアにもそう言われて、恐る恐る、拾い子は、魚に口をつけた。
「うん。美味しい。」
この子どもが、魚を食べてそう言ったのは、初めてだった。
ミーロンは、つくづく感心して、三人の子どもたちを見た。
この子どもたちなら、もしかしたら、きっと、どんな困難も、三人で乗り越えていくかもしれない。
ふと、そう思った。




