24
アルテミシアの不思議なペンダントに導かれて、三人は、小屋を出た。
そのまま、裏手に回っていく。
小屋の裏には、ベリーの木の茂みがあった。
「わお。
ベリーだ。」
ベリーが大好物な拾い子は、思わず叫んでから、慌てて自分の口を押えた。
今は、アルテミシアが秘術を使っているのだから。
静かにしなければならない。
それにしても、ベリーは、きらきらな実をたくさんつけている。
とても美味しそうだった。
「こっちだ、って、言ってるんだけどさ。」
アルテミシアは困った顔をして振り返った。
後のふたりは、無意識に堪えていた息を、はあ、と吐いた。
アルテミシアが口をきいたので、安心して口をきいてもよさそうだった。
「こっち?」
ルクスはベリーの茂みを指差して聞き返した。
その茂みは、とても大きくて、おまけに小枝が混みあっていて、まるでちょっとした壁のようだった。
「このむこうには、行けないぞ?」
左右見渡してみても、ベリーの壁は、しばらく続いている。
「あっち、回り込むか?」
ベリーの壁の途切れる辺りを見渡して、ルクスは言った。
「うん。でも、このベリー美味しいよ?」
その声に振り返ってみると、拾い子は、その辺りのベリーを早速摘んで、もぐもぐと頬張っていた。
「あーあ。こらこら。口の端、たれてる。」
アルテミシアは手拭を取って、口元を拭いてやる。
拾い子は、されるがままになってから、にこっと笑った。
「ふたりも食べたら?」
「晩ごはんの前に、そんなの食べたら、ミーロンの釣ってきたお魚、食べられなくなるよ?」
アルテミシアは小言のように言うけど。
「それなら、僕のお魚は、ルクスにあげるよ。
ルクスはたくさん食べられるものね?」
そうにこにこと返してきた。
「そっか。
君は、お魚、あんまり得意じゃなかったっけ?」
アルテミシアは、思い出したように言った。
すると、拾い子は、へへっ、と首をすくめた。
「だけど、ルクスは大好物でしょ?
僕もね、ベリーは大好きなんだあ。」
話しながらも、ベリーをむしりとっては口に放り込んでいる。
またぞろべたべたになった口元を、アルテミシアはもう一度拭いてやった。
「まあ、仕方ないっか。
だけど、それなら後で、ここのベリーを摘んで帰ろうよ。
夕ご飯にしたらいいよ。」
「そっか。
そうだね。
分かった。」
拾い子はそう言うと、つまみ食いをするのを止めた。
「小屋の中に籠、あったね?
あれ、取ってこよう、っと。」
あわてて駆けだそうとする襟首を、後ろからアルテミシアは掴んだ。
「ちょっと待った。
今は、水が先。」
「あ。そうだった。」
「まったくもう。ベリーのことになると、見境なしなんだから。」
「みさかいなし?って、なに?」
「他のこと全部忘れちゃうこと!」
「ああ、じゃあ、僕、みさかいなし、だ。」
にこにこと認めている。
そんなに喜ぶことじゃないんだけどな、とアルテミシアは思ったけれど、もう黙っていた。
「で、さ。
ベリーの木たちはね、こっちに道があるよ、って言ってるんだよ?」
ほんのなにかのついでのように、拾い子は言った。
「は???」
いきなりな発言に、ルクスとアルテミシアは目を丸くした。
「なに、それ?
あんた、ベリーの木と話せるの?」
「うーん、話せる、のとはちょっと違う。
けど、こっちに道がある、って…歌って…」
拾い子は、何やらひとりごとのように呟きながら、とてとてと歩き出した。
すると、灌木の茂みに隠れて、さっきの場所からは分からなかった小径が、すっと茂みを貫いているのを見つけた。
「なんと!」
アルテミシアのペンダントも、その小径のむこうをさしている。
思わず、駆けだした。
「こっちだ!
行くよ!」
おう!!と、ルクスと拾い子も、アルテミシアの後について駆けだした。
小径を抜けると、滾々と湧く小さな泉を見つけた。
泉の傍には、水を溜めておく木の槽もあって、水がなみなみと溜まっていた。
「わお。」
三人は同時に叫んだ。
ルクスは、桶を振り回し、拾い子は柄杓を振り回し、アルテミシアは両手を振り上げて、水槽の周りを三人並んで、奇妙な踊りを踊った。
笑いが込み上げてきて仕方がない。
互いの肩や背中をバシバシと叩きあう。
一人前に任務を達成した喜びだった。
「おう。これなら、どざばーっ、だぜ?」
ルクスは水槽に桶を突っ込んで水をたっぷり汲み上げた。
ほう、と後のふたりは、桶に並々と入った水を見て、感心した声をもらした。
「さって。
帰るか。」
「そうだよ。
ちゃんと水を持って帰るまでが任務なんだから。
こぼさずに持ってよ?」
「へいへい。
ここは俺の出番だぜ。」
ルクスは張り切って桶を抱えた。
来るときには、ベリーのつまみ食いで寄り道をしたり、道を探したりしていたので、遠いような気もしたけれど、実は、泉は、小屋のすぐ近くだった。
なるほど。
小屋を使う人々は、普通に、いつもそこを水汲み場にしていたのだろう。
なので、帰りはあっという間だった。
小屋に戻った三人は、水瓶に桶の水を移すと、そのまま籠を取って、ベリー摘みに行った。
そして、たっぷり、籠いっぱい、ベリーを摘んだ。




