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実は、この森には水場はたくさんあった。
小さな泉や湧き水はあっちこっちに湧いていた。
普段、よく森にいる子どもたちも、おそらくそのいくつかは知っているはずだ。
あまり意識していないかもしれないけれど。
水を持ち歩かなくても、喉が渇いたときには、いつでも水を補給しているはずだった。
ただ、水汲みの桶に一杯分の水を汲む、のは、少し工夫をしなければならなかった。
大抵の湧き水は、ちょろちょろと沁み出していて、桶一杯分を溜めるのは、簡単ではない。
桶を押し付けても、水はうまく溜まらないだろうけれど、柄杓を使うのを思い付くか…
もちろん、さっきの沢に戻れば、水を汲むことは容易だった。
ただし、沢は少し遠いし、道も険しい。
桶の水をこぼさずに、そこから水を運ぶにも、多少の知恵が必要だ。
それ以外にも、実は、小屋の裏手を少し回ったところには、ちゃんと小さな泉もあった。
ただし、そこは茂みに隠れていて、知らなければ、見つけるのは少し難しい。
それを、見つけられるか…
どっちにしろ、子どもたちの最初の任務には、ちょうどいいと思えた。
おそらく、子どもたちは、大真面目に、この任務を果たそうとするだろう。
三人三様の知恵と力を出し合って、どう解決するのかは見ものだ。
ミーロンはそんなことを考えながら、沢へと引き返していった。
さて、残された子どもたちは。
桶を真ん中にして、みんな考え込んでいた。
「けっこう、大きいな、この桶。」
「これいっぱいに溜めるなんて、結構、大変かも。」
そのくらいは、すぐに想像ついた。
「これ、使ったら、どうだ?」
アルテミシアはその辺りの道具から、柄杓を見つけてきた。
「これをさ、岩の湧き水のところに押し付けて、こう…」
「あの、岩をちょろちょろ流れるやつか?
あれ、そんなので、汲めるか?」
「それは、分からないけど…」
「だいたい、そんなもので、ちまちまちまちま…
だああああっ、日が暮れちまう!」
どうにもその手の作業の苦手なルクスは叫んだ。
「じゃあ、どうするのよ?」
アルテミシアは淡々と言うと、桶と柄杓を持って、さっさと行こうとした。
ちまちま、と、だとしても、ここでこんなことを言い合っている暇にやれば、少しでも前に進む。
「もっとさ、いい方法、ないか?
どばーっ、ざばーっ、と水を汲めるような?」
「そんなに水のたくさんあるところって言ったら、やっぱり、沢、かな?」
「沢だあ?
あんなところから、運べるかよ。」
「文句ばっか言うなら、あんた、他に何かいい方法、あるっての?」
アルテミシアに言い返されて、ルクスは、むぅ、と押し黙った。
あれもこれも、無理だ、とは思うけれど、じゃあ、どうする、というのは、思い付かない。
「井戸、とか、ないのか?」
「来る途中には、見なかったねえ?」
それさえあれば、解決するのに。
まったく、うまくいかねえな。
ルクスは、むぅ、ともう一度唸った。
沢か湧き水しかないのか?
仕方ねえ。
どっちがマシかな…
そこへ、拾い子がにこにこと言った。
「ねえねえ、いつもここを使う人たちは、水、どうしてるのかな?」
「確かに。」
拾い子の言った言葉に、ルクスもアルテミシアもうなずいた。
確かに、ここは普段から、郷の人たちに使われているわけで、調理道具や保存食もあるくらいだから、ここで煮炊きもしているのだろう。
水は手に入るはずだった。
「そんなに大変じゃないところに、水場、あるのかも。」
「そうだな。」
ルクスは大きく頷いた。
とりあえず、ちまちま湧き水を汲んだり、遥々沢から水を運ぶよりは、水場探しのほうが楽しそうだった。
「水場、かあ…」
アルテミシアはそう呟きながら、首にかけたペンダントを外した。
それからその鎖を手に巻き付けて、錘のような飾りをぶら下げた。
「おう。
何してんだ?それ?」
尋ねたルクスに、しっ、と指を唇に当てる。
「こうすると、水のある場所を見つけられる、って、おばあちゃんが言ってたんだ。」
へえ~、とあとのふたりは感心したように目を丸くした。
「すごいな。
それも、秘術か?」
「だから、うるさい。
集中するから。
ちょっと黙ってて。」
「おう!
集中、だな。
集中…集中…」
アルテミシアにじろっと睨まれたルクスは、慌てて自分の口を手で抑えた。
拾い子は、アルテミシアの手にあるペンダントの錘に、じっと集中した。
両手を組み合わせて、錘を見つける。
おもりさん、おもりさん、どうか、水のある場所を、教えてください…
声に出すと邪魔になると思ったから、心の中で、そう何度も唱えた。
すると。
ゆっくりと、ペンダントの錘が円を描くように動き始めた。
「はう!」
思わず叫んだルクスが、あわててまた自分の口を抑えた。
錘は最初は小さく、それから、少しずつ、円を大きくしていった。
ぐーるり、ぐるーり…
錘の不思議な動きを、三人は、目で追った。
「こっち。」
アルテミシアは錘の動きを見極めながら、戸口のほうを指差した。
「おう!そっちか!」
ルクスと拾い子は頷きあうと、桶と柄杓を手に、アルテミシアについていった。




