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パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


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ミーロンは、特別な道具は持っていなかった。

普段通りの軽装だ。

野営をするには、いろいろと道具が必要だろうと子どもたちは思ったけれど。

ミーロンは、もうそのまま郷には戻らないと言った。


「フラウラにだけは、連絡をしておこう。」


そう言うと、ミーロンは道端に落ちていた葉っぱを拾った。

何か唱えて、ふっと息を吹きかけると、葉っぱはひらひらと蝶のように飛び始めた。


三人の子どもは目を丸くした。


「それは、なんだ?」


「大昔の秘術だよ。

 フラウラに習ったんだ。」


秘術というのは、族長の使う季節毎の祝福くらいしか見たことがない。

あれは、けれど、いったい何が起こっているのか、イマイチ、よく分からない。

なんとなく、ふわりと気持ちが明るくなるような気もするけど。

気のせいのようにも思うし…


だけど、ミーロンの秘術は、確かにはっきりと効果の見える術だった。


「教えてくれ、それ!」


ルクスはミーロンの腕に取りついて言ったけれど、ふふん、とミーロンは軽く笑った。


「この術は、ごくごく親しい間柄の相手にしか使えない。」


「ごくごく親しい間柄?」


「そう。たとえば、夫婦とか、親子とか…」


「友だち、じゃダメなのか?」


「ダメだな。」


「アルテミシアと俺でも?」


「ダメだろうな。

 お前らは夫婦じゃないからな。」


そうか、とルクスは下をむいた。

それに、ミーロンは、からかうように言った。


「お前が使えるとしたら、母ちゃん相手にくらい、だろうな。」


「それなら、いいや。」


あっさりとルクスは諦めた。

ミーロンは思わず苦笑する。


「まあ、いつか、お前にそういう相手ができたら、教えてやるさ。」


「分かった。

 アルテミシア、俺たちも頑張ろうな!」


振り返って言ってみたけれど、は?とだけ返されてしまった。


ミーロンは子どもたちを森の中の小さな小屋に連れて行った。


「森に泊まって仕事をするときに使う小屋だよ。」


その小屋の中には、煮炊きをする道具や、簡易的な寝具、保存食まで揃えてあった。

子どもたちは目をきらきらさせて、小屋の中をあっちこっち見て回った。

見慣れない道具は、いちいちミーロンに尋ねて、使い方を教えてもらった。


「こんな場所があったなんて…」


アルテミシアですら、驚いた顔をしていた。

そこには、薬草を加工する道具も一通りそろえてあった。


「どうして、この小屋のこと、俺たちには教えてくれなかったんだ?」


ルクスは少々不満気だった。

こんな素敵な場所があるなら、もっと早く知りたかった。


「そりゃあ、お前らに、こんなもの教えたら、それこそ、入り浸るだろ。」


確かに。とアルテミシアは納得する。

そこには、まだダメだ、と言って使わせてもらえない道具もいろいろあった。

見ただけで、うずうずしてくる。

もし、誰にも見咎められずこれを使えるとしたら、こっそり通って、使ってみるかもしれない。


「どのみち、もう少し大きくなったら、教えてただろうけどな。

 さてと。

 俺は晩飯を調達してくる。」


「調達?」


「手っ取り早く、釣りにするかな。」


「おう!じゃあ、俺も行く!」


元気よく手を上げたルクスに、ミーロンは、いいや、と首を振った。


「お前らは水の調達だ。

 水を運ぶのは大変だからな。

 三人で力を合わせてやるんだ。」


「ええ~…」


ルクスは多少不満気だったけれど、すぐに、まあ、いっか、と納得した。


「アルテミシアとチビだけじゃ、心配だしな。

 こいつらには、俺がついててやらなくちゃ。」


「まあ、そういうことだ。」


ミーロンはあえて否定しなかった。

アルテミシアは、少しだけ余所をむいて、ふーん、とつまらなさそうに言ったけれど。

ルクスのほうは、それにすっかり気をよくしていた。


「よし。分かった。

 それで、水汲み場はどこだ?」


「おう。

 ………そうだな………」


ミーロンは、何かを思いついたような顔をした。


「水場は、お前らで探せ。

 森のなかで水を確保することは、とても大切なことだ。

 これは、お前らの初めての任務だ。」


「にんむ?」


その言葉の響きに、ルクスは途端に虜になった。


「よし。分かった。」


「そういうときは、承知、と言うんだ。」


「ほう!

 しょうち!

 こうか?」


「そうだ。」


すっかり乗り気になってしまっている。

単純なルクスが、ミーロンはおかしかった。

お前、本当、可愛いよな。


「じゃあ、俺は行く。

 お前らの分も、飯を釣ってくるからな。」


「おう!

 水は俺に任せとけ!

 お前ら、俺についてこい!」


ルクスは後のふたりを見回して言った。


アルテミシアは、おもいきり、げんなり、という顔を返す。

拾い子は、ルクスの真似をして、しょうち、と言った。


そんな子どもたちに、もう一度苦笑してから、ミーロンはさっさと先に行ってしまった。









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