22
ミーロンは、特別な道具は持っていなかった。
普段通りの軽装だ。
野営をするには、いろいろと道具が必要だろうと子どもたちは思ったけれど。
ミーロンは、もうそのまま郷には戻らないと言った。
「フラウラにだけは、連絡をしておこう。」
そう言うと、ミーロンは道端に落ちていた葉っぱを拾った。
何か唱えて、ふっと息を吹きかけると、葉っぱはひらひらと蝶のように飛び始めた。
三人の子どもは目を丸くした。
「それは、なんだ?」
「大昔の秘術だよ。
フラウラに習ったんだ。」
秘術というのは、族長の使う季節毎の祝福くらいしか見たことがない。
あれは、けれど、いったい何が起こっているのか、イマイチ、よく分からない。
なんとなく、ふわりと気持ちが明るくなるような気もするけど。
気のせいのようにも思うし…
だけど、ミーロンの秘術は、確かにはっきりと効果の見える術だった。
「教えてくれ、それ!」
ルクスはミーロンの腕に取りついて言ったけれど、ふふん、とミーロンは軽く笑った。
「この術は、ごくごく親しい間柄の相手にしか使えない。」
「ごくごく親しい間柄?」
「そう。たとえば、夫婦とか、親子とか…」
「友だち、じゃダメなのか?」
「ダメだな。」
「アルテミシアと俺でも?」
「ダメだろうな。
お前らは夫婦じゃないからな。」
そうか、とルクスは下をむいた。
それに、ミーロンは、からかうように言った。
「お前が使えるとしたら、母ちゃん相手にくらい、だろうな。」
「それなら、いいや。」
あっさりとルクスは諦めた。
ミーロンは思わず苦笑する。
「まあ、いつか、お前にそういう相手ができたら、教えてやるさ。」
「分かった。
アルテミシア、俺たちも頑張ろうな!」
振り返って言ってみたけれど、は?とだけ返されてしまった。
ミーロンは子どもたちを森の中の小さな小屋に連れて行った。
「森に泊まって仕事をするときに使う小屋だよ。」
その小屋の中には、煮炊きをする道具や、簡易的な寝具、保存食まで揃えてあった。
子どもたちは目をきらきらさせて、小屋の中をあっちこっち見て回った。
見慣れない道具は、いちいちミーロンに尋ねて、使い方を教えてもらった。
「こんな場所があったなんて…」
アルテミシアですら、驚いた顔をしていた。
そこには、薬草を加工する道具も一通りそろえてあった。
「どうして、この小屋のこと、俺たちには教えてくれなかったんだ?」
ルクスは少々不満気だった。
こんな素敵な場所があるなら、もっと早く知りたかった。
「そりゃあ、お前らに、こんなもの教えたら、それこそ、入り浸るだろ。」
確かに。とアルテミシアは納得する。
そこには、まだダメだ、と言って使わせてもらえない道具もいろいろあった。
見ただけで、うずうずしてくる。
もし、誰にも見咎められずこれを使えるとしたら、こっそり通って、使ってみるかもしれない。
「どのみち、もう少し大きくなったら、教えてただろうけどな。
さてと。
俺は晩飯を調達してくる。」
「調達?」
「手っ取り早く、釣りにするかな。」
「おう!じゃあ、俺も行く!」
元気よく手を上げたルクスに、ミーロンは、いいや、と首を振った。
「お前らは水の調達だ。
水を運ぶのは大変だからな。
三人で力を合わせてやるんだ。」
「ええ~…」
ルクスは多少不満気だったけれど、すぐに、まあ、いっか、と納得した。
「アルテミシアとチビだけじゃ、心配だしな。
こいつらには、俺がついててやらなくちゃ。」
「まあ、そういうことだ。」
ミーロンはあえて否定しなかった。
アルテミシアは、少しだけ余所をむいて、ふーん、とつまらなさそうに言ったけれど。
ルクスのほうは、それにすっかり気をよくしていた。
「よし。分かった。
それで、水汲み場はどこだ?」
「おう。
………そうだな………」
ミーロンは、何かを思いついたような顔をした。
「水場は、お前らで探せ。
森のなかで水を確保することは、とても大切なことだ。
これは、お前らの初めての任務だ。」
「にんむ?」
その言葉の響きに、ルクスは途端に虜になった。
「よし。分かった。」
「そういうときは、承知、と言うんだ。」
「ほう!
しょうち!
こうか?」
「そうだ。」
すっかり乗り気になってしまっている。
単純なルクスが、ミーロンはおかしかった。
お前、本当、可愛いよな。
「じゃあ、俺は行く。
お前らの分も、飯を釣ってくるからな。」
「おう!
水は俺に任せとけ!
お前ら、俺についてこい!」
ルクスは後のふたりを見回して言った。
アルテミシアは、おもいきり、げんなり、という顔を返す。
拾い子は、ルクスの真似をして、しょうち、と言った。
そんな子どもたちに、もう一度苦笑してから、ミーロンはさっさと先に行ってしまった。




