21
郷に稀人たちがやってきたとき、ミーロンとフラウラも、その場所にいた。
そして、稀人が探しているのは、自分たちの息子のことではないかと思い当たっていた。
息子のことは、なんとしても、この稀人たちに知られるわけにはいかない。
ミーロンもフラウラも、そう思った。
幸い、郷の人々は、誰も、子どものことは口にしなかった。
みなも、自分たちと同じように、子どもを守ろうとしてくれている。
それが、何より、心強かった。
稀人があるとき、その滞在先は、旧くから、族長の家と決まっていた。
もっとも、今いる郷人のなかに、族長の家に泊まった余所者を見たことのある者は、ひとりもいなかった。
そのくらい、この郷にとって、余所から誰かやってくるのは、滅多にないことだった。
稀人たちが族長の家に連れて行かれると、ミーロンはこっそり郷を出て、森へ子どもたちを探しに行った。
あの稀人たちに気付かれる前に、子どもたちをどこかへ隠さねばならないと思った。
今日は、沢に苔採りに行く、と言っていた。
ミーロンは沢を目指して、駆け通しに駆けた。
息が切れても、立ち止まらず、走り続けた。
沢を探していると、苔のはぎとられた岩を見つけた。
そんな岩はあちこちに点在している。
その岩を追ううちに、集まって、軽食をとっている三人を見つけた。
「おおーい。」
ミーロンは大きく手を振ってから、はっとして辺りを見回した。
まさか、とは思うけれど、誰か自分のあとをつけてきていないか、不安になった。
けれど、ミーロンの目には、不審なものは何も映らなかった。
「ミーロン?
どうした?」
ルクスが気付いて、こっちに駆けてくる。
あとのふたりは、その場所から手を振っていた。
「ここに、誰か、来なかったか?」
ミーロンの問いに、ルクスは首を振った。
「いーや。
朝から、俺たちだけだ。」
そうか、よかった、とミーロンは息を吐いた。
「ミーロンも、食うか?
まだ、パイもジャムも、残ってるぞ?」
呑気に誘うルクスに、ミーロンは、真剣な目をむけた。
「今、郷に、怖いやつらが来ているんだ。」
「怖いやつら?」
その言葉だけでは、よく分からなかったルクスは、首を傾げた。
「昼間っから、お化けかなんかか?」
呑気に返すルクスの肩を、ミーロンは強く掴むと、その目を真っ直ぐに見て言った。
「やつらがいなくなるまで、お前ら、郷には帰ってくるな。」
「え?」
いきなりそんなことを言われて、ルクスは戸惑う目になった。
「帰って、くるな?
って、それって、いつまで…?」
「分からない。
とにかく、やつらがどこかへ行ってしまうまでだ。」
「どこかへ、って…
そいつら、いつまで、郷にいるんだ?」
「分からない。」
分からないを繰り返すミーロンを、ルクスは不安そうに見た。
「もしかして、そいつら、夜になっても、帰らないのか?」
「夜になっても帰らない、かもしれない。」
夜になっても帰らない。
ということは、自分たちも、夜になっても、家に帰れない。
それは、一大事だった。
「夜、は、暗い、んだぞ?
森にいたら、怒られる、んだぞ?」
遊び過ぎて暗くなって叱られたことは何度もあった。
それでも、夕食までには家には帰っていた。
「俺も一緒にいる。
大丈夫。怒られたりはしない。」
ミーロンはルクスを宥めるように言った。
ミーロンも一緒にいてくれる、というのは心強かった。
ミーロンは、郷人のなかでも若いほうだったから、友だち、というほどではないにしろ、それなりに、親しくもあった。
一緒に遊ぶ、というほどでもないけれど、最近は、釣りや、鳥を獲る罠の作り方なども、教えてもらったりしていた。
話している間に、他のふたりも、様子を見に近づいてきた。
どうしたの、と尋ねるアルテミシアに、ルクスは困ったように言った。
「なんかさ、郷に、怖いやつらがいるから、帰ってくるな、って言ってるんだ。」
怖いやつら?とアルテミシアが聞き返すと、そうなんだ、と深刻そうに頷いてみせた。
「昼間なのに、お化けなんだって。」
「お化け?」
アルテミシアのは、ルクスの言うことはまったく信じられなくて、ミーロンのほうを見た。
ミーロンは、さてこの子どもらに、どう説明したものか、しばらく迷った。
「父さんは、そうしたほうがいい、って言うんだね?」
ふたりの間から、幼い声がそう言った。
「なら、僕、そうする。」
事情の追求もせずに、あっさりと承諾してしまう。
それを聞いて、ルクスも、けろりと態度を変えた。
「お前がそう言うなら、そうするか。」
えっ、と聞き返すアルテミシアには気付かず、ルクスはにこにこと言った。
「それに、俺、野営、ってやってみたかったんだ。
狩に行くには、野営することもあるんだろ?
これは、その練習だと思えばいいじゃないか。」
「やえい?」
「おうそうだ。
チビ、本当は、お前にはまだちょっと早いんだけどな。
お前の父ちゃんもいることだし、今回は特別に許可してやろう。」
ちょっと偉そうに言うルクスに、アルテミシアは淡々と言った。
「なんで、あんたが許可するんだ。」
それはさておき。
その夜は、ミーロンと共に、子どもたちは、初めての野営をすることになった。




