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パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


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郷に稀人たちがやってきたとき、ミーロンとフラウラも、その場所にいた。

そして、稀人が探しているのは、自分たちの息子のことではないかと思い当たっていた。


息子のことは、なんとしても、この稀人たちに知られるわけにはいかない。

ミーロンもフラウラも、そう思った。

幸い、郷の人々は、誰も、子どものことは口にしなかった。

みなも、自分たちと同じように、子どもを守ろうとしてくれている。

それが、何より、心強かった。


稀人があるとき、その滞在先は、旧くから、族長の家と決まっていた。

もっとも、今いる郷人のなかに、族長の家に泊まった余所者を見たことのある者は、ひとりもいなかった。

そのくらい、この郷にとって、余所から誰かやってくるのは、滅多にないことだった。


稀人たちが族長の家に連れて行かれると、ミーロンはこっそり郷を出て、森へ子どもたちを探しに行った。

あの稀人たちに気付かれる前に、子どもたちをどこかへ隠さねばならないと思った。


今日は、沢に苔採りに行く、と言っていた。

ミーロンは沢を目指して、駆け通しに駆けた。

息が切れても、立ち止まらず、走り続けた。


沢を探していると、苔のはぎとられた岩を見つけた。

そんな岩はあちこちに点在している。

その岩を追ううちに、集まって、軽食をとっている三人を見つけた。


「おおーい。」


ミーロンは大きく手を振ってから、はっとして辺りを見回した。

まさか、とは思うけれど、誰か自分のあとをつけてきていないか、不安になった。

けれど、ミーロンの目には、不審なものは何も映らなかった。


「ミーロン?

 どうした?」


ルクスが気付いて、こっちに駆けてくる。

あとのふたりは、その場所から手を振っていた。


「ここに、誰か、来なかったか?」


ミーロンの問いに、ルクスは首を振った。


「いーや。

 朝から、俺たちだけだ。」


そうか、よかった、とミーロンは息を吐いた。


「ミーロンも、食うか?

 まだ、パイもジャムも、残ってるぞ?」


呑気に誘うルクスに、ミーロンは、真剣な目をむけた。


「今、郷に、怖いやつらが来ているんだ。」


「怖いやつら?」


その言葉だけでは、よく分からなかったルクスは、首を傾げた。


「昼間っから、お化けかなんかか?」


呑気に返すルクスの肩を、ミーロンは強く掴むと、その目を真っ直ぐに見て言った。


「やつらがいなくなるまで、お前ら、郷には帰ってくるな。」


「え?」


いきなりそんなことを言われて、ルクスは戸惑う目になった。


「帰って、くるな?

 って、それって、いつまで…?」


「分からない。

 とにかく、やつらがどこかへ行ってしまうまでだ。」


「どこかへ、って…

 そいつら、いつまで、郷にいるんだ?」


「分からない。」


分からないを繰り返すミーロンを、ルクスは不安そうに見た。


「もしかして、そいつら、夜になっても、帰らないのか?」


「夜になっても帰らない、かもしれない。」


夜になっても帰らない。

ということは、自分たちも、夜になっても、家に帰れない。

それは、一大事だった。


「夜、は、暗い、んだぞ?

 森にいたら、怒られる、んだぞ?」


遊び過ぎて暗くなって叱られたことは何度もあった。

それでも、夕食までには家には帰っていた。


「俺も一緒にいる。

 大丈夫。怒られたりはしない。」


ミーロンはルクスを宥めるように言った。


ミーロンも一緒にいてくれる、というのは心強かった。

ミーロンは、郷人のなかでも若いほうだったから、友だち、というほどではないにしろ、それなりに、親しくもあった。

一緒に遊ぶ、というほどでもないけれど、最近は、釣りや、鳥を獲る罠の作り方なども、教えてもらったりしていた。


話している間に、他のふたりも、様子を見に近づいてきた。


どうしたの、と尋ねるアルテミシアに、ルクスは困ったように言った。


「なんかさ、郷に、怖いやつらがいるから、帰ってくるな、って言ってるんだ。」


怖いやつら?とアルテミシアが聞き返すと、そうなんだ、と深刻そうに頷いてみせた。


「昼間なのに、お化けなんだって。」


「お化け?」


アルテミシアのは、ルクスの言うことはまったく信じられなくて、ミーロンのほうを見た。

ミーロンは、さてこの子どもらに、どう説明したものか、しばらく迷った。


「父さんは、そうしたほうがいい、って言うんだね?」


ふたりの間から、幼い声がそう言った。


「なら、僕、そうする。」


事情の追求もせずに、あっさりと承諾してしまう。

それを聞いて、ルクスも、けろりと態度を変えた。


「お前がそう言うなら、そうするか。」


えっ、と聞き返すアルテミシアには気付かず、ルクスはにこにこと言った。


「それに、俺、野営、ってやってみたかったんだ。

 狩に行くには、野営することもあるんだろ?

 これは、その練習だと思えばいいじゃないか。」


「やえい?」


「おうそうだ。

 チビ、本当は、お前にはまだちょっと早いんだけどな。

 お前の父ちゃんもいることだし、今回は特別に許可してやろう。」


ちょっと偉そうに言うルクスに、アルテミシアは淡々と言った。


「なんで、あんたが許可するんだ。」


それはさておき。

その夜は、ミーロンと共に、子どもたちは、初めての野営をすることになった。








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