↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/31

20

そのころ、子どもたちは、いつものように森にいた。

少し足を延ばして、遠くの沢に珍しい苔を採りに行っていた。

ここのところ、少しずつ日が短くなってきていて、暗くなる前に帰るように言われていた。


「べつに、郷の森なら、少しくらい暗くなったって、平気なのにな?」


夏の日の長いころなら、もっと外にいられたのに、短い一日が不満で、ルクスはぶつぶつ文句を言っていた。


「仕方ない。

 言いつけを守らないと、また、森に行けなくなるよ?」


アルテミシアは、あれ以来、すっかりみんなのお目付け役だった。


「大人の言うことには、言ってること以上の意味があるもんだから。」


分別くさいアルテミシアがけむたくて、ルクスは肩をすくめた。


「お前はそりゃ、帰ったって説教されないだろうけど。

 俺は、家に帰ると、母ちゃんにまた、がみがみ言われ続けるんだ。」


ならば、お説教をされるようなことを、しなければいいのに、とアルテミシアは思ったけれど、黙っていた。

何でも思ったままに言ってしまえば喧嘩になる、ということを、最近、学習したのだ。


ルクスは、面倒くさそうに、岩に生えた苔を、へらを使って、がさりがさりと大雑把に削り取っていた。

どうにも、こういう単調な仕事は苦手だ。すぐに飽きてしまう。

腰につけた籠に、土混じりの苔が、もうほとんどいっぱいになったあたりで、ルクスはへらを放り投げた。


「あーあ。

 もう済んだぜ?

 なんだ、お前ら、まだ、ぜんぜんじゃねえか。

 手伝ってやろうか?」


アルテミシアは、ルクスが適当に削った苔を土ごと入れようとしたので、あわてて自分の籠を引き寄せた。


「あ、あたしは、いいかな?」


そのまま、無意識に森の拾い子のほうを見た。


森の拾い子は、さっきから黙々と、へらで岩についた苔を剥がしていた。

苔を傷つけないように、丁寧にそっとへらを使っている。

あまりにも丁寧すぎて、なかなか、仕事は捗らないけれど、広い面の苔を、土が混ざらないようにきれいに剥がしてあった。


同じ仕事をしているのに、こうも違うものかな。

アルテミシアは、ふたりの籠を見て、つくづく思った。


拾い子の採った苔は、ほとんどそのまま全部、使えるだろう。

ルクスの採ったほうは、きれいに選り分けて、洗って、半分くらいになっちゃうかも…


そう思ったけれど、それも黙っておいた。


すると、ルクスは、ずかずかと拾い子のほうへ寄って行って、籠を覗き込んだ。


「なんだ、お前、遅っせえな?

 仕方ねえ、俺のをちょっと分けてやろう。」


ルクスはそう言うと、自分の籠のを拾い子の籠に入れようとした。


「あああっ!ちょっ!と、待った!」


流石に、黙っていられなくて、アルテミシアは拾い子の籠を素早く奪った。


「なにするんだ、お前?」


怪訝そうに見るルクスに、アルテミシアは、しまった、と思う。

さて、喧嘩にならないようにするには、どう言ったものかな?


「っこ、っこ、っこれは、さ?

 えっと、混ぜない、ほうが…」


拾い子は、いきなり始まった騒動に何事かと顔を上げたけれど、にっこりして言った。


「すごいねえ、ルクス。

 そんなにたくさん採ってすごいねえ、って、おばあちゃんがほめてくれるよ。

 でも、僕はおチビだから、こんなにぽっちりでも、きっと、ほめてもらえるんだ。

 だから、僕にくれなくてもいいよ。」


「そうか?」


「そうだよ。

 ルクスは頑張ったんだから、うんと、うんと、ほめてもらわなくちゃ。」


「そっか。」


ルクスは、少し考えてから、自分の採った分を自分の籠に戻した。

アルテミシアは、心底ほっとして、拾い子の籠を元の位置に戻した。


「アルテミシアもたくさん採ったねえ。」


拾い子はアルテミシアの籠も見て言った。


「ふたりとも、すごいよ。

 僕は、ぜんぜんだ。」


アルテミシアは、自分の籠を拾い子の籠を見比べた。

確かに、自分のほうが量は多いけれど。

ルクスほどじゃないにしても、やっぱり、少し土が混じってしまっている。

それに比べれば、拾い子の採った苔は、まるで、そのまま生えているみたいに、活き活きとしていた。


「いいんだよ。

 みんな、自分のペースってのがあるんだから。」


「じぶんの、ぺーす?」


「そうそう。

 やりやすい速さでいいの。

 手の力も大きさも、違うんだもの。」


「そっか。」


拾い子は、自分の手を確かめてから、アルテミシアを見てにこっとした。


「よかった。」


その笑顔に、アルテミシアは、真顔になってしまう。

下手にごまかそうとしたけれど、なんだか、上手にまとめられてしまった。


拾い子は、多分、何かを意図して、そういうふうに言うのではないのだろうけれど。

この子どもと話していると、不思議と、周りから、ちょっとした争いやつまらない諍いは消えてしまう。

最近じゃ、ルクスと喧嘩することも、めっきり減っていた。


拾い子は、元の苔を剥がす作業に戻りながら、小さく鼻歌を歌い始めた。


「その歌は?

 もしかして、苔の歌?」


「そうだよ。

 苔さんたちが歌ってるの。

 だから、歌が聞こえなくならないように、そーっとそーっと剥がすんだ。」


苔の歌。草の歌。

拾い子は、よくそんな話しをする。

木も草も花も、みんな歌を歌っているのだと。


どんなに耳をすませても、そんな歌は聞こえないのだけれど。

そう言うと、拾い子はとても悲しそうな目をするから、それも言わない。


「おい。そろそろ弁当にしようぜ?」


すっかり退屈したルクスは、そう言って、そそくさと包みを広げ始めた。

朝、母親が、三人分作って持たせてくれた軽食だった。


「おっ。

 今日は、お前の好きなベリーのジャムが入ってるぜ?」


「本当?」


ベリーのジャム、と聞くと、拾い子は、いそいそと立って、ルクスのほうへ近付いていった。


「うわあ、本当だ。

 おいしそう…」


ジャムは小さなカップに入っていて、一緒に一口サイズのパイもたくさん詰めてある。


ルクスはパイをひとつつまむと、ジャムにつけて、拾い子の口の前に差し出した。


「ほれ。食え。」


拾い子は、ためらいもなく、ぱくっと食べてしまう。

さくさくと噛みしめながら、美味しい~、と幸せそうに笑うのを見て、ルクスも、にっこり笑った。


「ちょっと、ルクス。

 また、手も洗わずにつまみ食いして!」


すかさず、アルテミシアの小言が飛んできて、ルクスと拾い子は同時に首をすくめた。


「俺、食ってないぜ?」


ルクスはけろっと言い返したけれど。


「食わせて、も、ダメ!

 先に、手、洗いなさい。」


叱られて、包みを脇に避けると、へえへえ、と手を洗いに沢に下りていった。


「あの。ごめんなさい。」


拾い子は、口の中のものを飲み込むと、申し訳なさそうにアルテミシアを見た。


「君はいいの。君は。

 あ。でも、食べるなら、君も、手、洗ってね?」


はーい、といいお返事をして、ルクスを追いかけて手を洗いに行く。

ルクスは、拾い子が沢に落ちないように、後ろから支えて、手を洗わせてやっていた。


その仲のいい姿を見ていると、アルテミシアも、自分もパイを食べたくなった。

それで、急いでふたりを追いかけて、沢に下りていった。

それから、三人仲良く、ベリージャムつきのパイを、お腹いっぱい食べた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。