↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/30

19

それからも、森の子どもたちは、三人一緒に大きくなっていった。

春が来て、夏も過ぎ、秋が来て、冬になる。

季節ごとの遊びや、祝祭も、ひとつひとつ、来ては過ぎる。

より素早く、力強く。より賢く、もっと器用に。

ひとつひとつの段階を経て、みるみる成長していく。

それぞれ、得意分野も不得意分野もあるけれど、三人いれば互いに補い合い、大抵のことはなんとかなった。


悪戯坊主の問題児だったルクスは、恐れを知らず先へと進む力強さを身につけた。

早熟な優等生のアルテミシアは、三人の中では、立派な参謀だった。

いちばん小さい森の拾い子は、そんなふたりを心から信頼し、どこにでもついていく。

ルクスとアルテミシアは、よく喧嘩もしたけれど、そんなときは、拾い子が仲裁に入った。

泣いて笑って、喧嘩したら、仲直りした。


森は、子どもたちに優しかった。

ときには、大人たちに叱られることもあったけれど、彼らも、ゆっくりと森の掟を学んでいった。


変わらず続く穏やかな暮らしも、けれど、見えないところから、少しずつ、変化していた。

この辺りにはまだ届いてはいなかったけれど、世界は、崩壊を始めている。

そんな噂は、風に乗って、この森の奥の郷にも聞こえてきた。


世界の崩壊、と言われても、まったく実感など持てなかった。

郷の周りの森は、以前と少しも変わった様子はなかったから。

変わらず森は豊かに実り、暮らしに必要なものは、すべて与えてくれる。

だから、それはまだ、どこか、遠いところの物語、のように感じられていた。


けれども、そんなある日。

郷に、旅の一行が訪れた。


彼らは、遠い遠い森から来た森の民の五人組だった。

郷の正面からやってきた彼らは、近くにいた郷人に、族長に会わせてほしいと頼んだ。

郷人は慌てて族長に報せに走った。

その間に、旅人たちは、郷の広場に行って、水場で手足を濯ぎ、身づくろいを整えていた。


報せを聞いた族長は、急いで来訪者のいる広場へと駆け付けた。

すると、彼らは、族長の前に並んで、丁寧に、旧い森の民の挨拶をした。


「我らは、救いの御子を探して、遠いところから、旅をしてまいりました。」


彼らは、旧い掟に定められた、正式な使者の印を示してみせた。


「世界を救う御子は、もうこの世界に現れているはずなのに。

 世界は崩壊にむかっている。

 どこかで、間違いがあったに違いありません。

 我らの使命はその御子を探し出し、儀式を滞りなく済ませること。」


近隣の郷とは多少の行き来はあったものの、それ以外の森の民など、滅多に訪れることはない。

同じ森の民の言葉を話し、姿形も似ているとしても、彼らは、異種族と変わらないくらい、異質な存在だった。


余所からの稀人の来訪の噂は、あっという間に郷に広まって、みな、次々に集まってきた。


稀人の挨拶も使者の印も、郷の人たちにとっては、大昔に話しに聞かされた、くらい、見知らぬものだった。

郷の人々は、稀人たちに、言葉にならない威圧感のようなものを感じていた。


ことに、稀人たちの代表らしき人物は、姿形からして飛びぬけていた。

氷のような銀色の瞳。秋の長雨のように長く直ぐな銀色の髪。

身に纏う白の衣は、長旅の埃にもまみれず、鋭い眩しさを放っている。

一見して、ただものではない風格を漂わせていた。


郷人たちは、固唾を呑んで、稀人と、族長とのやり取りに注目していた。

無駄口をきくものは、誰一人、いなかった。


稀人は、集まってきた郷人を見回して言った。


「この郷には、子どもはおりませぬか。」


郷の人々は顔を見合わせた。

三人の子どもたちは、この場にはいなかった。

いつものように、三人して、朝早くから、森に出かけていた。


稀人の問いかけに、誰かが思わず正直に答えようとした。

けれど、隣にいた郷人が、それを慌てて引き留めた。

余計なことは言わないほうがいい、と、彼は小声で忠告した。

稀人への対処は、すべて族長にお任せしよう。

郷人たちはそう視線で合図し合った。


郷人からの返答は期待できないと覚った稀人は、族長に真っ直ぐにむきなおった。

稀人の貫禄の前には、いかな族長といえど、いささか頼りなくも見えた。

華奢で小柄な族長は、小さな背をさらに丸めて、稀人たちにむかってお辞儀をした。


「救いの御子、の伝承は、わたくしも幼いころに聞いた覚えがございます。

 しかし、あれはずっと、幼子に聞かせる物語かと、思っておりました。」


「いかにも。にわかには、信じ難い部分もありましょう。

 しかし、あれは、作り話ではなく、真実を言い伝えたもの。」


稀人は、ちらりと目を光らせて、最初にうっかり本当のことを言おうとした郷人を見た。


「この郷に子どもはいますね?」


郷人は何も答えないようにしようとしたけれど、僅かに、首をうなずかせてしまった。

それを、稀人は見逃さなかった。


「なるほど。

 して、子どもの数は?」


ごくり、と郷人全員、息を呑む。

今度こそ何も答えるまい、と、皆が構えて、辺りは凍り付いたようになった。


その中で、ゆるりと言葉を発したのは、族長だった。


「この郷にも、有難いことに、子どもは授かっております。

 しかし、その子らが、救いの御子かどうかを、判断することは…」


「それならば、造作もないこと。

 その子どもたちを、ここへ連れてきなさい。

 この目は、救いの御子だけを映す目です。

 一目見れば、すぐに分かります。」


稀人の代表はそう言うと、一歩、前に出た。

その不思議な銀色の瞳が、きらりと、冷たく光った。


郷人たちは、ルクスたちが拾ってきたあの子どものことを思い出していた。

救いの御子、というのは、あの子どものことじゃないのか。

皆、そう思い当たっていた。


けれど、今ここで、この稀人たちに、そのことを知られるわけにいかなかった。

ここで引き渡したら、子どもが何をされるか分からない。

どう見ても、この人々は、子どもを幸せに育ててくれるようには見えなかった。


さきほど言った、儀式を滞りなく済ませる、というのも気になった。

あのとき、占いの婆は、あの子どもを殺そうとしなかったか?

もしかしたら、儀式というのは、そのことじゃないのか?


あの子どもは、もう、すっかりこの郷の一員だった。

知らないところから来た稀人に引き渡すわけにはいかなかった。

子どもを守る。

郷の人々の心はその考えにひとつになっていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。