↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラアマン王国伝  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/30

16

難なく花のところへ辿り着いたルクスは、花の不思議な美しさに、目を奪われた。


「すげー、ほんと、すげーな、これ。

 いや、すげー、すげーよ。」


語彙もほとんどなくなっている。


「いいから、早く下りなよ。」


アルテミシアは、下から見上げながら言った。

ルクスの耳には多分、聞こえていないだろうけれど。

この場所で弓を射るのは、流石にまずいと思った。


「いや、すげーって。

 ちょっと、待ってろ?

 今、持って行ってやるから。」


「摘まなくていいから。

 せっかく咲いてるんだから、そっとしておいてあげて。」


「はあ?

 それじゃ、お前らが、傍で見られないだろ?」


「ここから見られたので十分だから。

 摘んだらダメ。」


アルテミシアは少し怒っているみたいだ。


「えぇー…」


ルクスは不満そうに唇を尖らせると、もう一度花をしげしげと見た。


とても不思議な花だった。

ひとつの花のなかに、色が七つある。

こんな花は見たことがなかった。

この花は絶対に、あとのふたりにも見せたかった。


「だけど、摘んだら怒るだろうな…」


薬草摘みのときも、ルクスが余分に摘もうとすると、アルテミシアはいつも怒る。

必要以上に摘んではいけない。

いつもうるさいくらいに、アルテミシアはそう言っていた。


「ときどき、あいつ、母ちゃんより、うるさいからな…」


だけど、こんな珍しい花は、もう二度と見られないかもしれない。

ルクスはもう一度アルテミシアにむかって言った。


「なあ、俺、引っ張ってやるから。

 お前も上ってこいよ。」


「イヤだよ。」


けれども、アルテミシアは、頑なに首を振った。


そのときだった。

ぽつっ、と、小さな雨の粒が、アルテミシアの頬に当たった。


「ルクス!

 雨が降ってきた!」


そう言えば、朝、出しなに、祖母に声をかけられたのを思い出した。


「早く帰ろう、ルクス。」


雨に濡れたら、こんな岩の上はますます危ない。

高いところにいる幼子のことも、心配だった。


「おチビちゃん、下ろさないと。

 早く!ルクス!」


アルテミシアはもう花のことよりも、ルクスと幼子の安全のほうが気になっていた。


けれども、ルクスは、まだ花が心残りだった。


さっきから、ルクスも、ぽつりぽつりと、ほっぺたに、雨の粒を感じていた。

アルテミシアは、雨が降る前に帰ろうと、うるさい。

けれど、まだ、本降り、なわけじゃない。

今のうちに、なんとか…


こっそり、摘んでいくか?


ルクスは花を睨んだ。

花は摘めばいずれ枯れる。

だけど、摘まなくても、どうせ枯れる。


そうだ!


ふいに、ルクスはいいことを思い付いた。


根っこごと、掘り返せばいい!


そうして、畑に植えなおしてやればいいんだ。

そうしたら、そのうちに、畑全体に、七色の花が咲くかもしれない。


いい考えのように思った。

このとても不思議で珍しい花を、郷のみんなにも見せてやれると思った。

何より、この花を、畑で増やす、ということは、魅力的に感じた。


思い付いたら、もう夢中。

夢中になったら、他のことは、全部忘れてしまう。


ルクスは、花の根を傷つけないように、周りを掘り始めた。

けれども、ルクスの計画はすぐに固い岩に阻まれた。

花の周りに、土はほとんどなくて、花の根は、固い岩の隙間に入り込んでいた。

無理に引っ張れば、根が千切れてしまう。

けれども、固い岩には、素手ではどうしようもなかった。


雨はますますしっかりと降り始めた。

まだ大丈夫、とごまかすのも、そろそろ限界な感じだった。

ルクスは焦った。


なんか、道具、ないかな?

細い枝とか…尖った石とか…


辺りをきょろきょろと見渡すけれど、使えそうな物は何も見当たらない。

アルテミシアは、薬草の根を掘る道具を持っているけれど、今から降りて、貸してくれと言っても、絶対に貸してくれないだろう。

アルテミシアは、花を摘むのには反対だし、何より、今は早く帰りたがっている。


だけど、今を逃したら、この花は、もう枯れてしまうかもしれない。

強い雨に打たれて、ダメになってしまうかもしれない。


そう思ったら、やっぱり、どうしたって、花をこのまま置いて帰れなかった。


くそっ!


ルクスはもう一度、岩の間に手を突っ込むようにして、花の根を取ろうとした。

ここを、もう少し、なんとか…


ざあ、と音を立てて、雨は降り始めた。

前髪から落ちてくる雫が、目に入ってうっとうしい。


そのときだった。

ひゅん、と風を感じて、反射的にからだを引いた。

それから、カツン、と固い音がして、予想外のほうから、何かがルクス目掛けて飛んできた。


ルクスはもう一度、反射的にからだを引いた。

それは岩に当たって弾かれた矢の先だった。

迫ってきた矢は無事に避けたルクスだったけれど。

二度目の動きに、完全にバランスを崩した。


「ルクス!」


アルテミシアが悲鳴のように名前を呼んだ。

もう一本、矢が、飛んできた。

それはルクスの服を見事に射抜いて、もう一度、岩に当たって弾かれた。


「うわっ!」


この動きは、流石のルクスも対応できなかった。

矢はルクスの服をしっかり射抜いた状態で、岩に反射して、ルクスごと、あらぬほうへと飛んだ。

本能的に、なんとか岩にしがみつこうとしたけれど、勢いを殺しきらずに、ルクスはそのままそこから転がり落ちた。


このままじゃ、チビに当たる!


アルテミシアの悲鳴が森に響いた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。