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森で拾われた赤ん坊が少し大きくなると、三人で森へ出かけることも多くなった。
ルクスとアルテミシアがいるから大丈夫、と、任せてもらえるのも、ルクスたちにとっては、どこか誇らしい気分だった。
拾われ子は、花や草をじっと見つけているのが好きだった。
ほうっておけば、一日中見つめている。
葉脈の一筋一筋を、辿るように見ていたかと思うと、そっと手を差し出して、何もないところを触る。
それからときどき、何かを見つけたように、ほわぉ、と目を丸くしたり、きゃっきゃと笑うこともあった。
幼子が何を見ているのかは、同じ子どもであっても、ルクスにもアルテミシアにもさっぱり分からなかったけれど。
そうしている間、幼子がまったく邪魔にならないのは助かった。
崖のような危険な場所にある薬草を見つけると、幼子は、安全そうな場所に置いておかれた。
幼子の好きそうな花や草さえあれば、余所へ行ってしまう心配もなかった。
ルクスとアルテミシアが薬草を採る間、幼子は、飽きもせずに草を見ていた。
薬草採りに夢中になって、すっかり忘れさられていることもあったけれど、夕方、暗くなって帰ろうと言うときに思い出しても、朝置いた場所に、そのまま座っていた。
そのうちに、置いておかれる幼子が、いつも何か歌っているのに、アルテミシアが気付いた。
最初は、小さい子のでたらめの歌かと思ったのだけれど。
でたらめにしては、よくできた旋律だったし、同じ歌を歌っていることもある。
けれども、それは、郷のどこかで聞いた歌とは違っていた。
「君の歌っているそれは、何の歌なの?」
試しに尋ねてみると、幼子は、うーん、と首を傾げてから、ぽつりと答えた。
「はなのうた。」
「花の歌?
さっき歌ってたのは?」
「くさのうた。」
「草?」
うん、と幼子は頷いた。
「どっちもすき。」
好き、というとき、幼子はとても嬉しそうにする。
ルクス、好き。アルテミシア、好き。
そう言うときも、同じ顔をしていた。
その笑顔を見ると、アルテミシアも、いつもなんだか楽しい気分になった。
「きれいな歌だね。
どこで習ったの?」
「どこ?」
その質問は幼子には少し難しかったのかもしれない。
しばらく、考えてから、答えた。
「うーん…、ここ。」
「ここ?」
アルテミシアは首を傾げた。
もしかしたら、自分たちが目を離している間に、誰か大人が来て、幼子を見ていてくれたのかもしれないと思った。
「誰かここにいた?」
「はな。」
「花?」
ハナ、という名前の郷人はいない。
いったい、誰のことだろう、と不思議に思った。
けれど、子どもたちの一日はとても忙しくて、ひとつのことを長く考えてはいられなかった。
「おーい、アルテミシア!
せっかくだから、今日はもちょっと先へ行ってみようぜ?」
そう言って手を振るルクスを見ると、アルテミシアも、今していた話しをすっかり忘れてしまった。
「分かった。」
そう言うと、幼子の手を引いて立たせる。
「さあ、行こうね?」
幼子は、たいてい、素直にアルテミシアの言うことに従った。
「おはなさん、またね。」
そう言って花に手を振る幼子を、かわいいな、とだけアルテミシアは思った。
それから、同じ男の子だけれど、ルクスとこの幼子は全然違っているなと思った。
三人を率いていくのは、いつもルクスだった。
もっと小さいころ、ルクスは悪戯小僧と呼ばれていて、いつもアルテミシアと比べられては、何かと劣っているように言われていた。
それはアルテミシアの耳にも入っていて、だから、アルテミシアはどこか、ルクスのことは自分が助けてあげないといけない、と思っていた。
けれど、少し仲良くなったルクスは、少しも頼りなくはなかった。
むしろ、行ったことのない場所にも、アルテミシアを引っ張って、連れて行ってくれる存在だった。
ルクスといると、見たことのないものも、たくさん見つけられた。
珍しい薬草や、新種の薬草も、たくさんたくさん、手に入れられた。
家族はそれをとても喜んで、ルクスのことを、頼もしい、と褒めてくれた。
そのことが、アルテミシアも嬉しかった。
率先して無謀なことをやりかねないところは、ときどき、危ないとは思うけれど。
そういうときには、危ない、って言えば、たいていの場合は、すぐにやめてくれる。
ときどき、夢中になると、アルテミシアの声が聞こえてないこともあるけれど。
そうなったら、仕方ない。警告に弓で射るだけだ。
アルテミシアの弓の腕前は、かなり上達していた。
大人たちにも引けを取らない、とすら言われていた。
歌も弓も、アルテミシアは、かなり早熟な性質だった。
けれど、その陰には、時間があれば、コツコツと練習を続けた事実もあった。
練習、はべつに苦にはならない。
歌うことも、弓を射ることも、アルテミシアは大好きだった。
初めてもらった弓を射たとき、偶然かまぐれか、的の真ん中を射抜いた。
アルテミシアに弓の使い方を教えてくれた父親も、目を真ん丸にしてそれを見ていた。
それから、アルテミシアを弓ごと抱え上げて、ぐるぐると振り回した。
父親の大喜びをする姿に、アルテミシアも驚いていたけれど。
なんだかアルテミシアもすごく嬉しかった。
そのときから、アルテミシアは、弓が好きになった。
弓は便利だ。
薬草干しのロープを張るときにも、高い木の上に登らなくても、矢を打ち込めばいい。
ルクスが放り投げて、木の上に引っかかった帽子も、難なく取ることができる。
父親がそういう技を見せてくれる度に、弓をとても魅力的に感じていた。
もちろん、最初の一回は本当にまぐれだったらしくて、その後は、的にはなかなか当たらなかったけれど。
一回当たったのだから、きっとまた当たるだろうと、アルテミシアは、不思議にそう信じていた。
そうして、黙々と、的を射続けた。
そのうちに、矢を受け過ぎて、的はぼろぼろになってしまった。
すると、新しい的は父親がまた作ってくれた。
前のより少しばかり小さくなっていた。
腕の力がついてくると、もう少し後ろから、的を射るように言われた。
言われたとおり、アルテミシアは、練習を続けた。
そうして、今や、大人顔負けの弓の上手になった。
もちろん、警告するときには、当てたりはしない。
目の前ぎりぎりを横切るように狙って射る。
それで、大抵の場合は、ルクスはこっちに気付いてくれる。
一度だけ、驚いたルクスが足を踏み外したことがあった。
そのとき、アルテミシアは、すかさずもう一本、矢を放った。
二本目の矢は、ルクスの服を貫いて、木に突き立った。
そうして、ルクスは木から落ちずにすんだ。
あのときは、流石のアルテミシアもひやりとした。
それから、この次からは必ず二本目の矢を用意してから、警告の矢を打つことにしようと心に決めた。




