序ー26話
両親を亡くし親族の家で育てられたヒデは、内向的な性格となってしまい友達も作れずに中学を終えた。そして突如遺産が入ることになった彼は高校合格を機に思い切って自立することになったのだ。それから彼の人生は上向きになり…不思議な漆黒の猫との出会いが彼の人生を変えて行く。
そして高校の同じクラスで知り合った漆黒の猫の美人主人と予期せぬ大冒険が始まった。その異世界での試練を経てヒデは知らず知らずに現実世界でも成長していくインキャの冒険譚である。
この物語は『序・破・急』の3章からなり、その続きは『ドロイドサイリウムー本編』へと繋がっていく。
「うわー この露天風呂最高だぜ!!」とまず阿部が飛び込んだ。
「バシャーん!! あちち!!」
「おい!阿部!身体洗ってから入れよ!! 他の方の迷惑だろ!!」と浅井が嗜めた。
それを見た他の男子はゆっくりと湯気で霞む湯船に浸かった。
「最初は熱かったけど、じっと我慢していると気持ちいいな〜」
「やっぱり、この自然の風景の中で入る温泉って最高だよなー」
「そういえば、石塚! 1人暮らしはどうだい?」と須藤が唐突に聞いてきたのだった。
「ああ、まあ、慣れたよ。」
「お前の部屋に遊びにいくとか言って、そのまんまになってたよな?」
「そうだったな。」
と言いながら、『今来られるとまずいんだが』と思ったのが顔に出てしまっただろうか?
「夏休み中に遊びに行ってもいいか?」
『やばい、きてしまった・・・どうするか? エリカの荷物もあるし・・・』と思い、
「夏休みは、ちょっと・・・遠くの親戚の家に行くことになっているんだ。ごめん!」と即席で答えてしまった。
「どこ?」
『どこって? うーん、遠くなんだけど…』
「九州なんだよ、福岡さ。」
「そうか、じゃ、帰ってきたら呼んでくれよ。」
「わかった、そうするよ。」
どうにか、この話題は切り抜けることができたようだ。
「石塚って、意外と筋肉質なんだな!」と今度は阿部が言った。
『そうだ、エリカとの剣技の特訓で筋肉がついたんだ!』とは言えない。
「そうか? 阿部だって、やっぱりサッカー部だったから僕より全然筋肉質だろう!」
「いやー下半身はそれなりなんだけど上半身がな〜 やっぱり胸筋って女子には魅力なんだろ!?」
「でも、須藤なんかは、こんな細ほそでも彼女いるんだぜ!」と浅井がまたもや須藤ネタで面白半分に割り込んできた。
「まあな、そんな胸筋なんか、女子は気にしてないと思うぜ!男はやっぱり雰囲気とノリよ!!」と彼女持ちの須藤は余裕である。
こんな馬鹿馬鹿しい男子会話を聞いていて、ヒデは、『やっとこんな会話ができる友達っていうものができたのかな!?』と変わりつつある自分自身に驚き、今の境遇に感謝していた。
一方、女子風呂の方は??
「しかし、この部の男子ってしょうがないのばっかりよねー!!」と工藤が嘆いていると、
「でも、石塚くんはまだまともじゃない?」
「でも、なんか、引きこもりぽいというか〜 インキャだよね。」
「それ、ここ漫研だからしょうがないんじゃない? それって標準装備よ!」
という工藤斉藤の会話をエリカは黙って聞いていたのだが、
「ねえ、野崎さんはどう思う??」と斉藤に振られてしまった。
「えっ、そうね・・・私、あんまり男子に興味がないというか〜 あ でも同性ってわけじゃないわよ!」と急いで弁明した。
「へえー、そんなに可愛いのにもったいないわね〜! でも、いつもいつもあんな風に言い寄られていたらウザくもなるか!?」
すると工藤が、「一度聞きたいと思ってたんだけどー エリカちゃんはハーフじゃない! もし彼氏にするなら白人がいいの?それとも日本人??」と聞いてきたのだった。
「どうかなー・・・どっちもありかな。それよりも感覚が合う人がいいのかな。」
「感覚・・・」工藤斉藤はその実感がわからないようだ。
「それって、からだの??」と言いながら工藤は顔を赤らめている。
「はー 違うわよ!! 工藤さんって意外にエッチね!」と今度はエリカが反撃した。
まあ、どちらも高校生男女の会話であった。
ゆったりと日没を鑑賞しながら入浴を楽しんで寛いだ彼らは団扇で仰ぎながら浴衣姿で食堂に現れた。
その中でも、なぜか、というか、やはりプロポーションが良いエリカの浴衣姿は決まっていた。
大きな8人がけの座卓にセッティングされていたものは和食中心のいわゆる温泉旅館料理である。
「へえー この夕食 魚も肉もあって懐石みたいで豪勢じゃない!」と須藤が感激している。
「そうでしょー!! 私らが見つけたんだからね!!」とまたもや工藤斉藤が自慢げに答えた。
「美味しそー!! 早速頂こうぜ!」と阿部が待ちきれないようだ。
「じゃ、みんな座った? 私達の漫画デビューイベントの成功をお祈りして!
みんなで仲良く頂きましょう!!」と斉藤が音頭をとった。
「おーっ!! 頑張ろうぜ!!」と高校生らしくビールではなくジュースで乾杯したのであった。
こんな一泊の合宿であったが、何気に部員8人のチームワークは固まり、イベントに対してやっと前に進めるようになってきたのであった。
そして、エリカが心配していた部長に頼まれたメイドコスプレの衣装も工藤斉藤が用意してくることになったのである。
帰りの特急でもまたもやエリカ争奪戦が繰り広げられていたことは言うまでもない。
そんな男子達に気を遣ったエリカは相当お疲れのように見えた。
こうしてやっと最寄り駅に到着しヒデとエリカは目立たぬように2人バラバラで帰路に着いた。
別々のルートを通ってきた2人であったが、マンション前でかち合ってしまったのだった。
「いやー しかし、お疲れだったね!」
「疲れたわ〜」とエリカはぐったりのようである。
「でも、楽しかったわ! なんか生きてるって感じがしたかな。」
「ジェットはちゃんとお留守番できたかしら??」 とドアを開けた。




