29.見えない敵(1)
小惑星を可住惑星に落とすのも、γ線を照射するのも、どれだけ大きなエネルギーをぶつけることができるか、って事です。
そう考えると、宇宙世紀00XXとあまり変わりません。
ザッパーは、もうすっかり、近傍の岩塊もろとも消し飛んでいた。
もともと軍用艦艇のような防御構造を持たないうえに、高出力の砲撃を多数被弾したことによって、エネルギーラインで繋がれていた二隻の大型偽装商船は共に跡形もなく、大小の破片か或いは灰燼へと姿を変えていた。発射装置も、エネルギー供給側も、きれいさっぱりデブリと星間物質に還元されて、残ったのはラーグリフに記録された映像だけである。
「こりゃあ、生存者を探しても無駄だろうな。ものの見事に、証拠を消されちまった……」
プロミオンが撃破したまま放っておいた敵駆逐艦も、被弾したプロミオンをラーグリフに収納している間に、まんまと破壊されてしまった。木っ端微塵という言葉の通りに、小さな破片になって広く離散して捕獲のしようもない。
まるで最初から処分されることになっていたかのような手際の良さで、ことによると彼ら乗組員は、全容を知らされないまま従事させられていたのではないか、とも思えてくる。こちらからの投降の呼びかけには反応なく、かと思えばダメージコントロール中の船舶をも狙って吹き飛ばしてしまったのだ。
ともあれ、ザッパーを阻止したと思ったら、ほかにも戦闘力を保持した何者かが、まだ近くに潜んでいる。我らがアルラト星系内に、これをそのまま泳がせておくことは、断じてできない。
「この敵は、ずいぶんステルス能力が高そうな奴だな」
「そうですね。光学迷彩も高度で、ラーグリフからとらえた映像の解析も、現時点ではまだ情報不足です」
「けど、ここは俺たちの星系だ。なんとしても見つけ出して、やっつけるぞ!」
「はい!」
敵は、ラーグリフからの砲撃に対して全く反撃せず、むしろそれに紛れるように姿を消した。だが、そのまま行方をくらますかと思えば、大破して漂う駆逐艦をわざわざ破壊するという行動に出た。
これはつまり、ザッパー同様に、証拠となるモノを消そうとしたという事ではないか。だとすれば、この新たな敵は姿を隠し痕跡を最小限に抑えたまま、静かにこの星系からフェードアウトするよう動くのだろう。こちらにも強力な砲撃能力があることは認識しているだろうから、証拠を消した今、敢えて対決しようとは思わないはずだ。
「ずっと隠れていたってことは、ザッパーの奴らとは指揮命令系統が元から違うのかもしれないな」
友軍を救援に来たというよりも、その動きは完全に、証拠を消す為だけのものではないかと思えた。それに、これまでの航跡が全く不明であるである事からも、既存の公開情報にはない存在だろう。
「……砲撃の威力からすると、敵は例えば新型の戦艦クラスとか? もしかしてどこかのコンストラクタが発売前の新型の性能実地検証を秘かにココでやっているとか? ……そうだとしたら、それは腹が立つな」
いずれにせよ、この時点でレオンはどこかのコンストラクタと言いつつ、因縁のあるフォースター社を一番に疑っていた。
「まだ情報が足りませんが、機動性はそれほど高くはなさそうですから、戦艦クラスということも十分あり得ますね」
「網を張るぞ、かき集めてくれ」
惑星ノアを含むこのアルラト星系には、そもそもラーグリフの耳目として働く観測機が多数浮遊している。そして、今この宙域にはザッパーを探すために更に多くのセンサーポッドをばら撒いていたので、それらを総動員して急ぎ索敵網を再編成する。
アリスは身じろぎもせず、ただ瞬きをひとつしてレオンに伝えた。
「観測機たちを、敵戦艦の存在可能性の高い宙域にできるだけ集めます」
「ああ、そうしてくれ。さっさと引っ掛かってくれるといいな」
ラーグリフは岩塊を模したホログラムの中に納まったまま、敵のいる可能性の高い宙域の真ん中を目指して、今は静かに進んでいる。敵が小惑星帯に紛れているか、それともステルス状態で息を潜めているのかはまだ分からないが、どちらにせよ持久戦となるならばこちらに分がある。
レオンはともかくとして、ラーグリフとその索敵網はいつまでだって臨戦態勢を維持できるのだ。この星系から去ろうとするなら、いずれはその船体を大きく加速する必要があり、その動きを完全に隠すことは不可能だろう。
「こちらが星系内宙域の大半をカバーする索敵網を構築しているって事を、敵は知っているかな?」
「正しく察知していれば、ここまで侵入して来るとは思えませんね。……あるいは、相当に自信があるのか」
敵の正体に関しては、まだ候補の特定まではできていないが、それでもMAYAは徐々に絞り込みを進めている。まず、プロミオンを傷つけたビームの出力からは、敵艦の最低限の大きさは少なくとも巡航艦クラス以上とわかる。軍艦か、それに準ずる船でなくては、あれだけの出力の砲を搭載することはないし、自力でこの星系に侵入して、事を為して帰ろうというのだから、外宇宙航行の可能な船舶であることはほぼ間違いない。
そして、ザッパーへの砲撃時の観測結果とその後の軌跡から、単独である可能性が高いとMAYAは判断している。
「レオン、センサーポッドのひとつが所在不明になりました」
「かかったか?」
敵にとって目障りな観測機があれば、それをどう処理するかを判断しなければならなかったろうが、航行の邪魔になるほど近かったか、あるいはこちらの観測体制を侮ったのか、破壊することを選んだようだ。
直ちに周囲にある他の観測機を確認のために動員し、そのうちの一つから最大出力でアクティブスキャンを実施した。ラーグリフのメインスクリーンには、いま向かっている宙域図に敵の存在可能性と観測機器の位置が、重ね合わせて三次元表示されている。アクティブスキャンを実施させた観測機には小さくフキダシが追加表示されたが、表示後すぐにグレーアウトしてしまった事をアリスが報告した。
「当該機は、スキャン結果を得る前にリンクが切れて、所在不明になりました」
「 ”かかった” な。よし、そこへ向かおう。針路修正」
「ようそろ」
アクティブスキャンを仕掛けた観測機が破壊された際の、その周りのセンサーポッドによる観測結果から、敵の潜むおおよその位置が割り出せた。敵があくまで隠れたまま動こうとするならば、ラーグリフの機動性能であっても捕捉できる可能性は高い。逆に我慢しきれず、逃げようと加速するならばそれでも見つけられると思う。
「幾つかの観測機が不明なノイズを拾いました。パターンを記録、解析して、全力で痕跡を追います」
アリスが言うと、メインスクリーンには敵艦の予測位置がより絞られて表示された。赤外線、光学、重力、時空密度、あらゆるセンサーを動員し、次第に敵艦の所在はいよいよ絞られて、ラーグリフは前方を狙う砲口の照準を定める。
「予測位置へ、ラーグリフはこのまま接近して対艦戦闘。相対速度を絞って砲撃可能な距離をできるだけ維持するように。今日は、手加減はナシだ!」
正面を睨みつけたまま、レオンは無意識のうちに拳を握りしめた。
「了解です!」
これまで、レオンの指示によってラーグリフはその攻撃力のほんの一部しか行使したことがない。だから、手加減なしのラーグリフがどれほどのものか、実はレオンもちゃんと理解しているとは言い難い。
「全砲門セーフティ解除、全ジェネレータ出力を定格へ。併せて排熱処理を対艦戦闘モードへ……あ」
「あ、ってなんだよ」
「いえ、全力で砲撃を続けると、レオンが先に苦しくなるかもしれませんね、熱的に」
なぜかアリスの横顔が、少しだけ楽しそうに見えた。
「熱的に? そうか、俺がネックになるのか。……すまん、暑いのはできるだけ我慢するけど、俺が大丈夫な程度に手加減してくれ」
「承知しました。まあ、いざとなれば私が冷やして差し上げますからね」
アリスがふふふと笑った気がして、レオンは微妙に怖くなった。
「いや、それは遠慮しておこうかな……」
「どうしてですか!」
どうやって冷やすんでしょうね?
それを考えると夜も眠れませんね。
ね?




