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深淵のアリス3 博物館の惑星  作者: 沢森 岳
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27.偽装船団(2)

近傍に大質量のない宇宙空間での一対一の戦闘は、射程距離に勝る方が相当に有利です。

そして、相対速度がある程度以上違うと、初めから戦闘にすらなりません。

戦いたい側が、相手の慣性系に合わようとしなければ戦いは始まらないです。


 プロミオンの航跡は大きな円の一部をなぞり、近未来の到達地点は容易に測れたろうが、その延長線上にラーグリフが存在する事までは、見通せなかったのだろう。プロミオンの動きに促されてもう一隻の敵艦は先回りを目論んだのか、プロミオンが向かおうとするその先を予測して、結果的に行き過ぎた。


 そして、所在を隠蔽していたラーグリフの射程内に踏み込んでしまった事に気付かなかった。


 敵艦にとっては誠にタイミングが悪かったが、様々に重なる情報からザッパーの位置を分析し探し続けたラーグリフにとっては、想定されたイベントの一つではあった。レオンから戦闘開始の指示を受けたままだったこともあり、ラーグリフは近づく駆逐艦を狙い自動的に自衛のための措置をとる。


 MAYAは自身の存在が露見しないよう、近づかれる前に速やかに無力化すべしと判断して、これを即実行した。プロミオンが遭遇したことにより駆逐艦二隻の実測データは既にラーグリフに伝わっており、KDF級駆逐艦として射程距離、防御性能、砲撃やシールドの出力特性に至るまで、その性能の詳細を解析済みだ。


 ラーグリフの対艦砲門からは規定出力のエネルギービームが幾条か放たれて、敵駆逐艦は完全なアウトレンジからの砲撃に対ビームシールドを展開する間もなく、一斉射で完全に破壊されて爆散した。

 プロミオンからでも、光学センサーが当該方向を向いていたならば、強くそして複雑に光る現象を捉えることが出来たろう。



「レオン、ラーグリフが敵艦B(ブラボー)を捉えました。撃沈です」

「む……、そうか」

 やけにあっさりとした報告を受けて、戦闘指示のままだったことに思いあたり、少し修正を加える。

「発見しても、ザッパーへの攻撃は一旦保留する。証拠を固めたいからな」


 そしてプロミオンはすぐさま反転し、追いすがってきた敵駆逐艦に正面を向けて砲門を開いた。

「回頭後、全速前進。有効射程に到達次第、砲撃開始」

「今度は全速前進ですか。前に後ろに忙しいですね」

「情勢が不利になると、きっとあいつらはすぐに逃げ出すだろう? でも今回は、できれば逃がしたくない」


 わざわざこちらの星系内にまで乗り込んでくるような輩は、追い払うだけにはしておけない。もう来ないように、或いはもう来られないように、厳しく対処すべきだ。


 プロミオンが回頭するのを見て追ってきた敵艦も随分減速はしたが、この時点ではまだ寮艦の撃沈に気付いていなかった。なにせここは我らのアルラト星系だ、絞り込みができれば当該宙域での選択的電磁波妨害などは当然のこと。観測機による動的なノイズキャンセリング機能を応用してラーグリフが統括制御することで、もうずいぶん前から敵駆逐艦同士の通信は選択的に妨害されていた。


 いつの間にか一対一の戦いとなっていることに気付くのが遅れた敵艦は、アフターバーナーを展開して急接近するプロミオンから距離を取ろうと舵を切ってしまう。彼我の距離を誤ったまま慌てて対艦ミサイルを射出してきたが、それはもう牽制にも目くらましにもならなかった。


「側面を見せやがったな。アリス、逃がさないでくれよ」

「わかりました」

 プロミオンはベクターコイルの出力を絞り、ジェネレータからのエネルギーを砲撃に集中する。蓄積する熱を逃がすために、アフターバーナーだけは展開稼働したままだ。

「撃て」


 レオンの指示とほぼ同時にビームは放たれて、駆逐艦が慌てて展開した対ビームシールドを輝かす。敵艦は反撃せずに防御に徹するが、プロミオンのビームはほとんど的を外さずにエネルギーを重ねて叩きつけ、程なく敵艦のシールドを飽和させた。


 減殺しきれなかったエネルギーの奔流は駆逐艦の表面を焦がし、センサーなどの構造物にダメージを与えるだけに留まらず、幾つもの装甲版を溶かして孔を穿ち、或いは剥ぎ取った。プロミオンにはラーグリフのような圧倒的な砲撃力はないが、それでも近傍の観測機の力を借りて命中弾を積み重ね、熱処理の限界に至る前に敵駆逐艦を沈黙させることに成功した。


 敵艦はゆっくりと回転しながら星系内中心、つまりノアの太陽の方へと向けて漂流し、船内のどこかで発生した火災からの煤煙が、破損個所から漏れ出してたなびいている。

「撃破判定です。状況から、敵艦はジェネレータを破損したものと思われます。少なくともiフライトは不可能です」


 リアクタやジェネレータを破損したことで沈黙し、姿勢制御も行えていない現状であれば、もはや自力でこの星系から逃げ出すことは不可能だ。正常な判断ができるならば、白旗を揚げるべき状況だろう。

「よしっ」


 レオンがアリスに向けて小さくガッツポーズをすると、アリスからは新たな報告がなされた。

「それから、ラーグリフがザッパーらしきものを発見しました」

「よし! そっちへ向かおう。駆逐艦は後まわしだ」


 プロミオンはまたしても慌ただしく舵を切ってラーグリフへと向かうと共に、ラーグリフに対しては不用意に近づかず観察を続けるよう、レオンは改めて指示を下した。


§


 ラーグリフが身を潜めたまま、光学観測できるギリギリの距離で映した映像には、大きな岩塊に隠れるように佇む偽装商船二隻が並んで見えた。スピンクスの情報どおりのコンテナ船とケミカルタンカーの外観で、それらプロファイルデータが揃っていたからこその発見だった。


 大型コンテナ船が積み荷の一部を解いている様子で、もう一隻のタンカーが船舷を並べてエネルギーラインを接続している。

「舳先はたしかにノアの方向を向いているな。けど、まだ発射はしていない……」

 惑星ノアからの雑多な発信が、まだ今のところは確認できていて、それらに異常はみられない。


「惑星ノアと軌道ステーションの両方が、うまく射界に収まるよう位置調整をしているのでしょうか?」

「駆逐艦と連絡が取れなくて、作業が止まっているだけなのかもな」


 プロミオンはまたしてもアフターバーナーを展開して、最大加速で急行している。レオンはこのまま、ステルス状態を保つラーグリフを追い越してプロミオンで接近するつもりだ。ラーグリフは秘匿しておきたいし、又、何らかの交渉となればレオンがやらねばならないからだ。


 ザッパーの設計資料からの分析では、その発射時には周囲から人を遠ざける必要があるとみられたが、光学センサーからの映像ではまだアームローダーが取り付いて活動しており、何らかの作業を行っている様子だった。


「プロミオンはこのまま突貫して、タンカーを攻撃する。できれば発射装置の方は証拠として確保したい」

 エネルギーを供給するリアクタとジェネレータを損なえば、発射装置だけでは何もできなくなるはずだ。


 追い越されたラーグリフは、カモフラージュのために岩塊を模したホログラムをマッピングして、今は静止している。念のために艦砲の照準はザッパーに合わせてあるが、ラーグリフはできればこのまま隠しておきたい。


「プロミオンが有効射程距離に到達したら、直ちに砲撃開始しますか?」

「いや、発射装置には当てたくないから、もう少し接近してからにしよう」


 ザッパーが動き出さないよう内心祈りながら、なんとなくレオンは息をひそめ、小声でアリスに応えた。奴らにはもう護衛の戦力はないはずなので、ある程度近づいてもリスクは許容できる。偽装商船の索敵能力は当然ながら到底駆逐艦には及ばず、こちらの接近をまだ察知できていない。……はずだ。


プロミオンはラーグリフの搭載艇として汎用性の高さを備えていますが、

その反面個艦の戦闘能力は決して高いほうではないです。

搭載艇ですから。


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