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深淵のアリス3 博物館の惑星  作者: 沢森 岳
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26.偽装船団(1)

宇宙での戦いは、よりたくさんのエネルギーを使える側が勝利するものです。一般的には。

戦いは数だよ兄貴。

と偉い御方も仰っていました。


 立体状況表示(ホログラムスコープ)上で、自艦のほぼ正面にアンノウンが位置することを示すアイコンが表示される。

「光学観測から、フォースター製KDF級戦闘艦艇と確認。例の偽装船団を護衛しているとされる駆逐艦と同型です」

「見つけたというか、見つかってしまったというか……、一隻か?」


 戦況を表示するメインスクリーンにはアイコンがひとつだけで、敵船団に属するはずのもう一隻の駆逐艦は見当たらない。プロミオンは船首を敵駆逐艦に向けると射程距離に勝る主砲にエネルギーを送り込む。戦闘となるならば、射程距離の優位による先制攻撃のチャンスを逃すわけにはいかない。


「正面のKDF級は今のところ、こちらからの呼びかけに応じません。戦闘開始を命じてください」

 敵艦は正面からまっすぐこちらに向かってくるが、それ以外はまだ何も敵対的な動きはなかった。

「ずいぶん勇んで向かってくるじゃないか。うーん……、全速後退」

「はい。全速後退」


 アイドリング中だったベクターコイルが全力で逆推進し、急制動に船体の軋む音が僅かに響いた。今さら全速後退を指示したところで、彼我の距離が縮まり続けることには変わりない。ただ、縮まる早さはずいぶん穏やかになる。


 数値上の戦闘力比較では、より射程距離の長い艦砲を搭載するプロミオンが圧倒的に有利だが、レオンは逸らず安全策に徹した。一対一なら、積極的に距離をコントロールすることで、こちらが有利な間合いを長くとり続けることができる。いくら駆逐艦の方が機動性が高いとはいっても、一次元的な直線勝負ではアドバンテージは小さくなる。


「敵駆逐艦の撃破を狙って、戦闘開始」

「はい。戦闘開始」


 後退しつつ、プロミオンは主砲の照準を前方の駆逐艦に合わせる。ラーグリフのアシストがないので、初弾は弾幕を張るように、ある程度の範囲にビームが散らばるよう射出する。対して敵艦がどんな起動を見せるのかによって、その後は臨機応変に。


 いずれにせよ、こちらに有利な間合いにあるうちに勝負したいところだ。


 だが、有効射程距離に近づくよりも前に、プロミオンから見て左舷側にあった大きな岩塊の陰から、もう一隻の駆逐艦が姿を現した。陰に隠れて機会をうかがっていたのだろう、同じKDF級でも、こちらの動きはまだ鈍い。

「左舷に新たな敵影。以降敵艦Bはブラボーと呼称します」


 敵艦Bはより近く、プロミオンは正面の敵艦よりも先に側面からの砲撃に晒されることとなった。幾つかの至近弾がシールドに弾かれて拡散し、プロミオンの視界を遮るように広がったが、それも一瞬だ。


 同時に、岩塊を別方向から迂回するように飛んできた対艦ミサイルがプロミオンに急接近する。プロミオンはずっとザッパーの捜索を続けいたから、その間にこちらの位置は敵に捕捉されていたのだろう。


「うわ、あぶねえ」

 後退していなければ、危うく前後から挟撃されるところだ。

「ビスケットの御利益ですね!」


 プロミオンは近接防錆システムだけでは間に合わず、対艦砲座も動かして敵ミサイル群を迎撃した。各国正規軍の装備する対艦ミサイルであれば電子励起型や核弾頭などもラインナップされており、それらは直撃でなくともダメージを被る可能性がある。いずれにせよ見た目ではなかなか区別できないので、接近して起爆するより前に破壊するべきなのだ。


 既に前方の駆逐艦は減速をはじめ、側方から現れたもう一隻との連携を図ろうとしている。プロミオンを前後から挟撃しようとして果たせず、次に仕掛けるタイミングを窺っているのだろう。全速後退を続けるプロミオンは追いすがるミサイルを十分な距離から破壊しつつ、二隻の敵艦から遠ざかる。


「敵の有効射程圏外に出たら、こっちも後退はやめだ。それから、ラーグリフはそのままザッパーを探してくれ」

「では、ラーグリフとは合流しないのですか?」

「合流は後まわしだ」


 敵の二隻がプロミオンばかりを気にしていることからも、今のところラーグリフはうまく隠匿できているとみて良い。

「このまま、通信は控えてラーグリフには探索に専念してもらおう」


 敵艦の現われた位置も手掛かりの一つとして、ラーグリフには何とかザッパーを探し出してほしいと思う。それに、こちらを敵として認識したからには、ベストなアングルでなくとも、奴らはさっさとザッパーを稼働させようとするかもしれない。


「たしかに、そう考えると猶予はありませんね。しかし、プロミオンは単独で駆逐艦二隻を相手にしなければなりません」

「撃破は難しいかもしれないけど、プロミオンに引き付けてさえおけばいいさ」

 気負うことはない。


 それでも、どうせならザッパー捜索の役に立つように動けないものかと考えた。敵も、こちらを引きつきて時間稼ぎをしようとしているのかも知れないのだ。

「そうだな、こっちから、ラーグリフを目指して次第に近づくように動こう。それを見て、あいつらはどう動くかな?」


「先程もそうでしたが、駆逐艦といえども背後から迫られると厄介ですよ?」

「俺たちの向かう先が正解に近いなら、追ってくると思うんだよな。あるいはもっと積極的に、先回りしようとするかも。でもハズレなら、適当に牽制するだけだろう。その反応次第では捜索範囲を再検討したい」


 今回は、むしろ追いかけて来て欲しいと思う。当たりであってほしい。

「わかりました。目的は駆逐艦ではなくて、ザッパーを止める事ですものね」



 レオンは相対的な位置関係を確認すると、駆逐艦二隻から離れつつラーグリフに近づく円弧をフライトプランとして設定する。

「単純だけど、その方がいいだろう」

「では、移動します」


 やがてプロミオンがおもむろに針路を変更し、大きく弧を描いてラーグリフを目指すと、こちらの動きを観察していた敵艦のうちの一隻がプロミオンの尻にかじりつくように追いかけてきた。そして、残りのもう一隻は、全く別の方向へと転舵しているのが確認できたが、ほどなくプロミオンの索敵範囲からは外れてしまった。


「敵は分かれたな。こちらの動きに合わせて、どこかでまた仕掛けてくるつもりかな」

「プロミオンの監視と、ザッパーの護衛との二手に分かれたという可能性があります」


 いずれにせよ、敵が分散したことでレオンとしては動きやすくなったし、もう一隻の動きはザッパーの所在を探るための手掛かりにもなるはずだ。プロミオンは少しづつ加速して、追いかけてこようとしている敵艦の動きを確認する。こちらが徐々に舳先を修正しながら大きく旋回するその後ろを、敵艦はずっと追いすがってくる。


「こっちの方向が、正解なのかもしれないな」

 比較すると小さく軽量な敵駆逐艦は加速力で上回り、僅かずつではあるがプロミオンへと接近する。このまま推移すれば、ラーグリフへと合流するよりもだいぶ早く、数時間後には追い付かれる計算で、そうなれば再び戦闘となる。一隻だけで仕掛けてくとは思えないから、敵は二隻が連携を取るのだろう。


 ならば、その連携を少しでも狂わせてやろうとレオンは一計を案じる。

「プロミオンはステルス性能が高くはないから、ラーグリフと違って敵にしっかりと捕捉されちゃってるわけだろう?」

「残念ながら、そうですね」


「こちらのプロファイルを取得して、それらデータからお互いの距離を測定しているよな?」

「そうですね」

「大質量が至近にある星系内宇宙で、自身も移動しながらとなると、主に光学系かレーザーか、電磁波観測で距離を測るよな?」

「はい」


「じゃあ、船舷灯火の光量や、アフターバーナー展開も含めた排熱処理、それから観測センサーの展開具合も調節して、敵の測距を狂わせたい。できるか?」

「KDF級の測距手段は……、特別なところはありませんね」


 アリスは一瞬静止して、また何事もなかったようにしゃべりだした。

「こちらのプロファイルをちゃんと解析取得しているならば、むしろ騙しやすいですね」

 KDF級は特筆すべきところの特にない、至って標準的な駆逐艦級の外洋航行型戦闘艦艇だ。艦隊指揮能力などはなく、電子戦闘や諜報戦に秀でているわけでもない。


「よし。じゃあ、より遠くにいるように見せかけてくれ」

「とりあえず三割増し程度にしますね」

 不信感を与えずに距離を謀るには、まあその程度だろう。隠れるのではなく、捕捉されていることを前提に距離だけを偽るというカモフラージュを、アリスはレオンに言われた通りに少しづつ、継続してやり続けた。


「こんなくだらない小細工を仕掛けているだなんて、敵も思わないかもしれませんね」

「くだらなくて結構。こちらの性能がどれだけ正確に敵に知れているのかというのも、知っておくべきだからな」


 プロミオンは単純な軌跡を描くフライトプランのまま移動し続け、果たして敵は、敵から見て正確にプロミオンの射程距離の外に留まったまま、背後に位置し続けた。つまりその時点で、敵はこちらの最大射程距離の内側にまで近づいてしまっていたわけだが。


「ふーん。ちゃんとプロミオンの情報を掴んでいるってわけだ。まあ当然か」

「けど、レオンのいたずらには気付いていない、と」

「戦術だよ。せんじゅつ」


駒の多い側は、挟み撃ちや十字砲火ってのをやりたがります。

効果的に連携するのは大変なんですよ?


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